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「世界と世界をつなぐもの」第4話 ③

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「あ……地震?」
「なんだ? 変な揺れ……」
「めまい……? じゃないよね?」
 みんな周りをクルクル見て色めき立っている。

 私と美羽だけじゃない。みんなが感じている。

 程なく揺れは収まった。

「今揺れたのなんだ? 地震?」
「でも床も揺れていたかなぁ?」
「揺れたんじゃないの? よくわからないけど」

 「それでは新実行委員長の新田美羽さんに就任の挨拶をお願いします」
 それでも小島さんはプログラム通りに進める。

 この人、強い。

 そのあと、副委員長の挨拶もあったんだけど、それは闇に葬る方向で……。

 こうして今日の選挙は無事終了した。

 多くのメンバーが不思議なゆらぎのことを口々に噂しながら去って行く。

「桜小路さん、ちょっと」
 声の主は小島さんだった。

 スピーチ前のこと、怒っているのかな?
 どうしよう。

「美羽も来て」
 小島さんはそう言って、誰も来なそうな一室に私たちを誘った。
 部屋に入りドアを閉めると、小島さんはすぐに話しかけてきた。
「さっきの話だけど」

 やっぱり怒っていたのか。
 出端でばなをくじいた形になった私たちに、文句の一つでも言わないと気が済まないのかもしれない。
 頭を下げ、目を閉じて怒られる態勢を作る。
 よし、覚悟しよう。

 「2人が言ってた池畑君って、もしかして名前に『輝く』って漢字が付く?」

 え?
 思わず目を開けた。
 小島さんは池畑君のことを覚えているのだろうか。
 でもそのわりには言い回しが変だ。覚えているなら『2人が言ってた池畑君』という表現にはならない。

「付くよ。池畑輝って名前。どうして分かったの?」
 本当はみんなが知っていて当然の名前なのに、こんな聞き方をするのは美羽も違和感でしかないだろう。でも今の状況からすると知っているの方が驚きだ。

 すると小島さんは持っていたノートを開いた。
「これを見て」
 それは委員長選挙の段取りだった。
 セリフ、立ち位置、時間配分など細々とびっしり書いてある。
「絢里すごっ! こんなに細かくメモしているんだ」
 美羽が驚くのも無理はない。この作業量は尊敬に値する。
「それよりここを見て」
 小島さんが指を差した場所には、壇上の配置図とスピーチの時間配分が記されていて、『美』と『青』の字が書いてある。
「美羽の美、青葉の青……名前の一文字目が書いてあるんだね。確かに2人だけだね」
 美羽が言うように2人の設定になっている。

 小島さんはこれを見せて、元々2人だったとアピールしたかったのだろうか。でもそれならさっきの名前の話は何?

 小島さんは首を横に振った。
「ううん。『美』の左の消しゴムで消えているところを見て」

 ん? 確かに何か書いてある。
 『輝』の文字だ!
 薄いけどはっきり確認できた。

「昨日、ノートを見て確認しようと思ったら、候補者枠が3つ書いてあったんだ。何を書いているんだろ? って思って消したの。この『輝』の文字を」

 ———小島さん、それって……。

 小島さんは時間に細かい性格で、立候補者スピーチ1人当たりの予想時間をもとに、その前後の時間を決めているそうだ。
「この予想時間だと3人分のはずなんだ。もう1人いたとすればつじつまが合うんだよね。名前に『輝』が付く人が」

 小島さんすげ〜。探偵だ。

「ねぇ、池畑君って人は自薦立候補?」
 メガネ女子の小島さん。メガネを上げながら質問をしてきた。
「ううん、3年生の推薦。いつも一緒にいた3年生3人に推薦されてたはず」
 美羽はワクワク顔だ。好奇心旺盛だから謎解きとかは大好きだ。
「それなら聞いてみようよ。池畑君のことを」

 さすが小島さん。確かに聞いてみるのはアリかもしれない。
 知らない人と話すなんて私には絶対考えつかない発想だ。

 小島さんの意見に私も美羽もうなずいた。

 目的地は、この学校で多数の人が集まる場所——— 学食!

 早速学食へ行くことにした私たちは、道の途中でゆらぎの話をしていた。とは言っても、美羽と小島さんの会話だけど。
 私は小島さんがいるとまともに喋れないから。

「絢里もさっきのゆらぎ感じたよね?」
「うん、あれなに?」
「前にも何回かあったんだけど知らない?」
「初めてだよ。変なゆらぎだね」
「やっぱり絢里も知らないかぁ」
「前っていつ?」
「あたしが覚えているのは、去年の花火のときとこの前の夕方。でも青葉はもっと前の記憶もあるんだよね?」
 あ、発言機会が巡ってきた。
「あ……うん……去年。学祭実行委員に入る前に……」
 小島さんは真剣な面持ちだ。私のたどたどしい発言にも相槌を打っている。
「美羽はその時の記憶はないの?」
「寝てたのかもしれないし、忘れたのかもしれないし……あはは」
「ふうん……」苦笑い気味の小島さん。

 学食に到着した。
 しかし、春休み中のこの時期に、用事のない人が学校にいるわけもなく、話を聞くことはできなかった。

 その翌日に開かれた組閣会議。

 前日のゆらぎをだれも覚えていなかった。
 小島さんさえ覚えていなかった。

 学祭実行委員長選挙の後、確かに空間が揺らいだし、みんなも『揺れている』と言っていた。
 それなのに誰もが、
『何それ?』
と、口を揃えて言った。

 私と美羽は唖然とするしかなかった。

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