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「世界と世界をつなぐもの」第4話 ②

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 深呼吸をした。
 少し落ち着いた気がする。
 下手でもなんでも自分の言葉で話すんだ。

「皆さんは新田さん……いえ、いつも通り美羽と呼ばせていただきます。美羽がいつも笑顔なのは何故か分かりますか?」

 私、意外と落ち着いて話せている。
 みんな驚いた顔をしているのが見えた。
 ザワザワし始めるのが聞こえた。

「ただ明るいだけじゃん?」
「陽キャだから? あはは」
「天然だから!」
「てか、これ立候補者スピーチだよね?」
「なんで相手のこと言ってんの?」

 そんな声が聞こえたけど、私は我が道を行きます!

「美羽はみんなの笑顔を見るのが好きなんです。そしてみんなが楽しそうにしている瞬間に自分の幸せを感じる。そういう人なんです。だからいつも笑顔でいるんです。みんなに笑顔になってほしいから」

 ———今まで美羽の笑顔にどれだけ助けられただろう。

「そして美羽は実行委員長を目指した理由について、以前こう言っていました」

 ———今だってそうだ。美羽の言葉に勇気をもらった。

「『みんなを笑顔にしたい』と。『みんなが笑顔になって帰って行ける学祭にしたい』と。それを聞いたとき、私は美羽が実行委員長になるのを心から応援しようと思いました」

 静かな場内。
 みんなの目が美羽に注がれているのがわかる。

「私は新田美羽さんを実行委員長に推薦します。美羽は確かに天然です。でもただの天然キャラではありません。いつも周りのことを気遣っています。だから美羽は明るいんです」

 ———楽しい美羽。優しい美羽。

「『みんなに楽しい気持ちになってほしい』。いつもそう思っている人なんて、そういるものではありません。実行委員長は学祭の顔であり象徴です。明るく元気で思いやり溢れる新田美羽さんこそ相応しいと思います」

 ———私は美羽を応援するよ。今も、これからも!

 振り返って美羽を見た。
「美羽! 私ができることはするから、一緒に頑張ろう! そしてみんなが笑顔になれる学祭にしよう!」
 美羽の顔は少し赤らみ、目が潤んでいた。
「以上で終わります」

 終わった。
 思いの丈を全部詰め込んだ。
 悔いはない。

 あれ? 静かだ。
 私が自分のことを言わなかったから『何やってんだよ!』とか怒られるのかな?
 どうしよう……。

 すると、大きな拍手のうねりが巻き起こった。

 あ……。
 
 みんな怒っていない。むしろその逆……。
 拍手が鳴り止まない。

 美羽が駆け寄ってくる。
「青葉のバカ! 勝手に応援しちゃわないでよ!」
 美羽は泣いていた。
「でも、青葉がそんなふうに思っていてくれたなんてメッチャ嬉しい!」
 笑顔で泣いていた。

 その後の美羽のスピーチは、泣き声混じりで何を言いたいのかわからない部分が多かった。

 でも場内は温かい雰囲気に包まれていた。

 投票の結果、美羽が実行委員長に決定した。
「青葉のおかげだよ。ありがとう。一緒に頑張ろうね!」
 微笑む美羽の頬に流れる雫が光っていた。

 美羽が喜んでくれている。良かったぁ。
 私ももらい泣きしちゃいそうだよ。

 ……あれ? ちょっと待って。

「次年度の花草祭の実行委員長は新田美羽さん、副委員長は桜小路青葉さんに決定しました」
 小島さんが宣言すると、場内は大きな拍手で埋め尽くされた。

 そうだよ。2人しかいないってことはその時点で副委員長以上が決定しているということじゃないか!
 今さら気付いてしまった。
 ああ……奈落の底が見える……。
 私はそこに行くんだね……。
 でも美羽も一緒だから大丈夫。
 そばで応援するんだ。

 それにしても、なぜ池畑君は来なかったのだろう?
 それ以前に、なぜみんな池畑君を知らないのだろう?
 
 ———と、そのとき

 会場がゆらいだ。
 奇妙な角度で波打つように。
 空間全体がゆらいだ。

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