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「世界と世界をつなぐもの」第2話 ①

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【第2話 学祭実行委員、再び】


「数カ月で落ちるほど安い腕はしてませんので。センチョーこそ腕が落ちたんじゃない?」
 私、桜小路青葉さくらこうじあおばはゲーマーだ。ゲーム女子と言えばいいのか。
「たった一回で決めつけるな、桜小路! お前は俺の前にひれ伏すことになるのだ! 覚悟しろ!」
 私の好敵手、センチョー。本名は川津来人かわづらいと。ゲーム愛好会『センター』の部長だから略して『センチョー』と呼んでいる。
 どこかの少年みたいにいつもムキになって挑んでくるくせに、その割には弱い。ちょうど優越感に浸りながら楽しくゲームができる、ある意味の『好敵手』だ。

 ここは深川学院大学ふかがわがくいんだいがく。5学部9学科からなる総合大学で、敷地面積がかなり広いのが特徴となっている。

 私は文学部英文学科の2年生、センチョーは工学部工学科の3年生。今2月なので、あと2か月もすれば学年が1つずつ上がることになる。
 ……単位が無事取得できていれば、だが。

 愛好会の登録部員数は結構いるらしいが、結局いつも来ているのは、センチョーと副部長の巻大河まきたいがさん、阿佐部幸成あさべゆきなりさん(ともに3年生)、それに私を加えた4人くらいだ。

 この前まで私は学祭実行委員会の仕事があって、このサークルには顔を出していなかったから、その間は3人しかいない空間だったのだろう。

 その光景を想像すると、率直にムサいなと感じた。
 まぁ、私1人入ったところで何が変わるわけでもないが。

 今は巻さんが1人でゲーム、阿佐部さんは黙々と何かの作業をしている。だいたいいつもこのパターンだ。

「もう無理だわ。来人そっち混ぜてくれ」
 巻さんがこっちに来た。たまにこういう時がある。

 やばい。ちょっと緊張する。

「桜小路よろしく」
「———あ、……はい」
 私は自他ともに認めるコミュ障だ。
 センチョーと親友の新田美羽にったみはね以外の人とまともに喋れない。性格を治そうと思っても、これがなかなか治らない。
「桜小路、俺にも河津と同じように接してもらっていいんだぞ」
 巻さんが隣に椅子を持ってきながら私に向けて言ったこの言葉。今まで何回聞いただろう?
 このサークルに入ってから2年くらい経つけれど、なぜかこの態度だけは治せない。
「———あ、いえ、先輩なので」
 結局いつも通りの対応をする。
「は? 俺も先輩なんだけど?」

 センチョー、今さら何言ってるの? 笑える。

「センチョーはいいの」
 巻さんもいるから声は控えめにする。

 別に巻さんがゲームに参加するのが嫌なわけじゃない。自然とこういう態度になってしまう。

 そのとき足音が聞こえてきた。
「こんにちはー! 青葉いますかぁ?」
 扉を開けたのは美羽だった。ここに来るのは珍しい。
 美羽は高校からの同級生で、私と同じ文学部英文学科の2年生。学祭実行委員会に所属している。
 明るくて社交的。その姿は『笑顔以外見たことがない』と評されるほどの陽キャ女子。私とは正反対の性格なのに一緒にいて楽しい。

 美羽の来訪は嬉しいけど、どうしてここに来たんだろう。


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