「世界と世界をつなぐもの」第5話 ③
部署分けの日、蕪本君を見かけるとすぐに美羽は行動を起こした。
「シマエく~ん、ちょっと」
蕪本君を手招きする。
「え? 俺っすか?」
驚く蕪本君。シマエナガも驚いたらこんな顔なんだろうか? と思うと笑える。
「あ、いいなぁ」美羽に呼ばれた蕪本君を羨む声。
「何かしたんじゃないの?」と笑う声。
「幹部そろってんじゃん!ある意味怖えぇ」と畏れる声。
様々なざわつきの中、蕪本君は私と美羽そして小島さんが居並ぶところに恐る恐る近付いて来た。
蕪本君は明らかに緊張している。
「シマエ君のお父さんって、去年の学祭の花火を担当してくれた花火師さんなんだってね」
美羽が切り出した。
「は……はぁ。そうッスけど、何か?」
「去年の学祭のこと、何か言ってなかった?」
美羽の言葉に、蕪本君は何かを思い出したようだ。
「え? それは解決済みなんスよね?」
ん? 蕪本君は何のことを言ってるんだろう?
「解決済み?」
美羽も分かっていないようだ。
「上がった花火が一発足りないんじゃないかってやつッスよね?」
「一発足りなかった?」
おうむ返しに聞くのが精一杯という感じだ。
美羽はそのこと自体を知らないらしい。小島さんも分からないらしく首をひねっている。
「あれ? その話じゃないんッスか?」
蕪本君も困惑している。蕪本君は『ッス』が口癖らしい。
「その話、詳しく教えてほしいなぁ」
小島さんが近付いて蕪本君の服を少しつかんで語りかけると、
「は、はい!」と直立して、顔を真っ赤にしながらマシンガンのように話し始めた。
『花火の録画を見ると一発足りない』
前学祭実行委員長の長谷川さんが蕪本君の父親に連絡したらしい。
『せっかくの青い花火が上がっていない』と、蕪本君の父親も残念がっていたという。
不発は一発もなく綺麗に打ち上がったはずで、青い花火も上がったはずだった。しかし映像を見る限り、それは映っていないらしい。
青い花火は、暗い夜空で綺麗に見せるのが難しいらしく、それがうまくできた自慢の一発だったそうだ。
それが記録にも記憶にも残っていない。
———青い花火? それって……
蕪本君が去った後、私は美羽と小島さんに話した。
「青い花火が打ち上がったときだった。空間がゆらいだのは……」
「えっ!」
美羽も小島さんも同時に声を上げた。
やっぱり、ゆらぎの部分の記憶だけが消されている。しかも映像まで。
こんなことをできる人って……何者なんだろう。
いや、そもそも全員の記憶を消すなんて、人間にできることだろうか。
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