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クリエーター・カップル理想の会話モデルを│「利潤」の出しようがない「 搾取」 のしようがない『腐る経済』│に見つけた

過去の同じ日付の記憶をたどるシリーズ。

2014.02.22

ANA787ジャカルタ便。図書館烙印の入った『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 | 渡邉 格』が肘掛けに載っている。ノートアプリにメモがヒットした。


■『くるみた干しぶどうのパン』が720円■

「えーっと、『くるみた干しぶどうのパン』が720円、『ミルクチョコとピーナッツ』は500円、『赤ワイン漬けイチジクのクルミ』は700円……」

「え? マリ、ちょっと待って」

「何? 何か計算間違えてる?」

「そんな高いパン、誰が買うの? ここは白金や麻布じゃないんだよ。まわりはほとんど田んぼと畑の田舎だよ。人間よりカエルのほうが多いようなところだよ」

「でも仕入れ値から原価計算したらこうなるでしょ。足して100になるものを50で売ったら原価割れ、赤字、お店が潰れちゃうよ」


「いや、でもさ……」

「算数無視したら、経営なんて成り立たない。二人で何度も話してきたよね。『真っ当な“食”に正当な価格をつけて、それを求めている人にちゃんと届ける。それで世のなかを少しでも真っ当な場所にしていこう』『つくり手が尊敬される社会にしていきたい』って。そのためには、つくり手がちゃんと暮らしていけなきゃいけない。この価格は、“高い”んじゃなくて、原材料も含めて、“つくる”ことに対して支払われる“正当な”価格だと思う」

「マリの言うことはもっともだけど、ほんとうに、ここでこんな価格で売れるのかな?」

「それを売るのが私の仕事。今の時代、ブログとかSNSとか(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)とか、便利な道具があるでしょ。私たちのやってることの意味を丁寧に発信すれば、届く人にはちゃんと届くよ。イタルは納得できるパンを精一杯つくってくれればそれでいいの」

「分かった、値段を超えるパンをつくるよ」


▼「ここでこんな価格で売れるのかな?」

●「それを売るのが私の仕事。」

▼「分かった、値段を超えるパンをつくるよ」


できればイラストが欲しいところ

『「ふつうの」 外食産業やパン屋では、 人件費と原材料費を、 それぞれだいたい3割ずつ、ふたつあわせて6割程度に収めるのが「常織」 とされる。 それと比べて、 僕らの店の経費の内訳は、 ちょっとふつうではない。 人件費と原材料費がそれぞれ売り上げの4割強ずつ、 あわせて8割強を占めている。 こういう経費の構造では「利潤」の出しようがない、 「 搾取」 のしようがないことを、従業負にも伝えて理解してもらっているのだ。』

「利潤」の出しようがない、 「 搾取」 のしようがないことを、従業負にも伝えて理解してもらっている


資本主義経済を批判する内容で本書はベストセラーとなったそうだ。



この会話の面白さは、話者のどちらが「まっとう」な話しをしているのか、読者が一瞬方向感覚を失うところだ。会話の軍配は「普通」に考えればハズレていると思える話者の方にあがるが、読者はこの会話だけを提示されたら、ハ~?ダメだろそれ、とトンデモの印象を受け取るはずだ。けれどこのパン屋『自家製天然酵母のパン屋タルマーリー』は2016.2.22現在冬季休業中ではあるが(菌が活性しないからかもしれない)しっかり生業を続けていらしゃる。この事実に読者自身のトンデモ認定の根拠は揺らがざるをえない。


一見メロドラマの体裁に読み飛ばそうにも一度では理解できない。価値転換が行われ思考の揺さぶられるこの会話を著者はクリエイティブだと思う。


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