フォローしませんか?
シェア
延藤 直也
2024年5月25日 08:47
春から夏へ移ろい行く季節東の空に種火の様な小さな陽が昇りとても静かな朝のはじまり湖畔は新緑に彩られ湖面は朝の空を映し湖の中心には一羽の白鳥が枝垂れ桜の様に幽玄と佇む無音の湖に白鳥の鼓動が一音一音はっきりと響き鼓動が鳴る毎に存在する全ての物事が溶け合いそして一体となる
2024年5月24日 07:16
息を止めて海の中に飛び込んでから幾つかの波が流れた泡のひとつひとつが風船みたいに水面に向かって浮かび上がるのを沈む眼に映った海の底の方から冷たくて硬い声が聞こえてほとんど溺れながら声の聞こえる方へ泳いでいった
2024年5月23日 07:33
枕元に置いた眼鏡がすうっと宙に浮いて自分自身の寝姿を見つめている歯軋りの音に驚いた眼鏡は寝室の扉を開けてベランダへと飛び出る湿気を纏う夜の春風が吹いて薔薇の木が揺れてふっと空を見上げる自分の目では見たことがない流れ星がゆっくりゆっくり流れていくのがレンズに映る
2024年5月22日 08:44
ずっと同じ場所にいる朝昼晩春夏秋冬晴雨曇変わらない景色変わらない世界変わらない自分時間だけが坦々と真っ直ぐ水平線の先へと伸びる道を変わらない速度で進む時間が歩む道の脇で水平線に沈む夕陽を見る昨日よりほんの少しだけ冷たい風が緩やかに吹いている
2024年5月21日 06:55
微かに煌めく月明かりに誘われて夜を歩いていると民家の庭先に咲く数輪の花を咲かせた薔薇の影が夜道に映り薔薇の彩色は昼に見るそれよりとても濃く艶やかで茎の棘は人間の欲望や羨望あるいは夢想を刺し潰してしまうほど鋭い自分と薔薇の間を初夏の香りを纏う風が他を這う様に吹く
2024年5月20日 20:24
住み慣れた都会の星々は高層ビル群や街の明かりに埋もれて夜に沈む星ひとつ北極星さえ見えない夜を過ごすことネオンの明かりの下電車が走る音を聞きながら眠ること嵐が過ぎ去った後のように荒れた朝を迎えることそれらのことを当然の事のように受け入れるようになったいつからか夜になる度に星になりたいと願う少年が「星が見たい星を見せて」と深海のように静かに刀のように鋭く耳元で囁く
2024年5月20日 08:38
朝や夜春や秋昨日や今日が私の存在に気付かないふりをして滔々と通り過ぎて行くその道は暗く冷たくなにより閑かで通り過ぎて行く日々を追うことも呼び止めることさえできず立ち尽くすなんでもない一日として過ぎ去った日々が夜空に散りばむ星々となる明日が通り過ぎるの手前その光景を見ないようにするために俯いていると明日の影が私に近づくのが見えてすっと明日が私の手を引き道の
2024年5月19日 08:45
だらだら広がる曇空と濡れたアスファルトの間地に根を張り幹は上へ伸び枝に水が滴り葉が陽に映え花が地に溢れるはじまりおわるはじまりからおわりまでそしてまたはじまりおわる繰り返し繰り返す自然が循環する具体の無い輪廻の外側を時々休みながらゆっくりじっくり歩いている
2024年5月18日 08:00
半分に割れた月がビルとビルの間を彷徨うビルの窓に映る月明かりは実際のそれより明瞭で鮮明で何より魅惑的で月光の虚像を見つめていると珈琲に溶ける砂糖の様にビル街の路地で見上げた夜空にゆっくり溶けていくよう
2024年5月17日 07:33
深い溝を埋めるため落ち葉や古新聞紙やフランネル布を取り投げ入れると埋まった溝の底の方から水の流れる音が太く重く響き滑らかな風が溝に沿って吹いて溝を埋めた物の上に小さな星屑が降った
2024年5月16日 09:41
雨粒同士は交わる事なく雨雲から地面まで常に平行に落下しアスファルトの窪みに雨水が溜まる冷たい街灯の明かりが水たまりを浮遊し畏怖の念を纏った夜風がゆっくり吹き抜ける静まる街に雨音が鼓動のように強く熱く響く
2024年5月15日 07:41
失くしたものを探しに靴底の擦り減ったサンダルを履いて重たい扉を開ける初夏の夜の風はまだ少し冷たくてほんのり甘い香りを纏っている失くしたものの記憶の中を迷いながらゆらゆら漂い流れる
2024年5月14日 08:32
雨雲広がる夜空に月が沈む沈みゆく月に道行く人々誰ひとり気付かない街灯とネオンとその他の光が街に浮かび上がりとうとう月明かりは溺れる雨滴が小気味良く街灯に照らされた水たまりに落ちては弾ける湿気た空気が上から下へ下から上へ夜の街をだらだら泳ぐ
2024年5月13日 08:31
車の走る音が重く響く高架下を夜風が滑らかに吹き抜けるビルとビルの間を雲が流れるのを見上げながら広い歩道を歩く横断歩道の信号が赤に変わって青になるまでの人生の僅かな隙間大型トラックや夜行バスの往来を眺めるいつもより狭い歩幅ですぐ背後に迫り来る明日から懸命に逃げる