延藤 直也

珈琲をつくっている。詩を書いている。

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洞穴

今日から明日への道中で 人ひとり寝転べるくらいの小さな洞穴を見つける 一休憩と思い 洞穴に身体を寝転がせる はちみつの甘い香 桜が咲き始める夜の涼 夢と現実の間へと誘う純連の紫 月光さえ射し込む余地のない洞穴で 眠に鎮む

    • 雨をはじめる一滴目が降り始めてから 雨を終える最後の滴が降り終わるまでの間 湿っぽい古びた雑居ビルの二階の窓辺で 幾つかの詩を書く 自分が書いた詩を自分が読む 読み込むほど自分の詩に辟易する ほとんど角砂糖みたいな甘ったるい飴を 舌で数回転がしてすぐ噛み砕く 改めて窓の外を見てみると 一度止んだ雨がまた降り始める 閉じたノートを開いて雨という題の詩を書き始める

      • 地続き

        昨日の雪 今日の雨 用水路は雨が降った分増水し 集積場に集められた生ごみは濡れ 枯木から傘に雨水が滴り落ちる 夜みたいな昼 朧月みたいな夕日 年の瀬みたいな春のはじまり 晴れたり雨が降ったり あるいは雪が降ったり 昨日と今日と明日の違いは 空模様くらい それくらいしか無いの 地続きの日々を坦々と歩く

        • 精神の虫

          茶褐色の胴体に六本の足を携えた一匹の虫が、精神の内側を、輪郭をなぞる様に歩いたり、或いは飛びまわる。昼、一匹の虫は音ひとつ立てず寝静まっている。夜、部屋の灯りを消して目を閉じて精神が眠りに着地した瞬間、一匹の虫は起き上がり這って活動を始める。朝、小さな窓から朝日が射し込むと、途端に一匹の虫は活動を止めてその場に倒れ込み、一瞬にして深い眠りを手に入れる。昼夜問わず、一匹の虫は精神の反応、つまり喜怒哀楽を栄養に生長し日毎に肥大する。精神の内側に一匹の虫を感じてから一年が経過した日

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        記事

          夜の公園

          低い鉄棒と高い鉄棒が二つ並んで 低い方の鉄棒に手袋が 高い方の鉄棒に帽子が 掛かっている 薄明かりの街灯が 舗装されていない砂利道を照らし 幾つかの影が往来する 風が吹いて 風が止む ブランコがほんの少し揺れる 人の声が聞こえる方を振り向くと ただ枯れた木が立っている 冬と春 季節が重なり合い 巡り合う

          海を歩く

          沈みゆく陽の光が 海面にすうっと伸びて 水平線が燃える 闇夜に真っ黒く塗り潰された 海を月光だけを頼りにして歩く 灯台の明かりがうっすら見えた瞬間 穏やかな波に飲まれ 暖かい海流に流され 静かな深海に沈む

          春陽

          薄い靄が張る空に 輪郭のくっきりした太陽が燃える 蕾を付けた木々の影が 柔らかく揺れる アスファルトに散り散る ガラス片が煌めく 道端に咲く純連の紫で 春の絵を描く 駐車場で日向ぼっこする 猫を写真に撮る

          雨雲

          駅から家までの小路で 雨雲と鉢合わせ ソーダ水みたいな軽やかな雨粒と 冷めたお風呂の湯みたいな温い雨風と こんにゃくみたいな黒混じりの灰色の雨雲が 祖母が孫を抱く様に街を包む 古民家の軒下に 雨雲から隠れる 雨雲が前を走る風を追って次の風に追われて流れる 踏切を越え 国道を越え 河川を越え 山林を越え 雨雲の過ぎ去った街に春が薫る

          ため池

          菌で澱んだ声帯から 痰が絡んだ喉仏を振るわせて 伝えたい言葉が音になり損ねて霞む 伝えたい事 伝えたかった事 何一つ言葉に出来ずに 声帯の奥底にあるため池に溜まっていく つい昨日伝えたかった事は 既に底の方に沈み見えない 取り出す事も到底出来ない 伝えようと思えば思うほど ため池の水は濁りを増す あの時伝えたかった事が 声帯まで浮かび上がるのを 暗闇で待っている

          朝の微睡み

          小さな窓から射し込む陽光は 春の温もりを纏っている 食パンを齧る音 うぐいすが鳴く音 洗濯機が回る音 冷めた珈琲を啜る音 鼻を擤む音 色とりどりの音が朝を奏でる 一日を始める為に 幾つかの詩を読む いつまでも始まらない一日 いつのまにか誘われた微睡み 眠に就て眠から覚めるまでは一瞬 朝は微風に吹かれて 次の風が昼を連れてくる

          朝の微睡み

          掃除

          何もする事がないということはない 布団のシーツを洗って干す事 玄関の砂埃を掃いて靴を揃える事 窓を開けて空気を入れ替える事 花の挿された花瓶の水を変える事 年に数回しか履かない革靴を磨く事 テレビの裏のコードに絡まった埃を取り払う事 椅子と机の脚を吹き上げる事 お風呂の床を磨き洗う事 箪笥に仕舞った服を整える事 汚れた物や 使わない物や 散らかった物を 元に戻す事 元に戻してから 本当の一日が始まる 何もする事がないなら掃除を

          車内の喧騒

          真っ暗な車窓に見える自分と自分以外の人間を 横目で見比べると 自分だけが難しい顔で分厚い本を読んで居て 自分以外の人間が動物みたいに仲間同士戯れている 混み合った車内で自分と自分以外が 隣り合い交じり合い重なり合う ぶつかり合い混ざり合い融け合う 人混みの隙間から見えた向こう側の車窓に映る 自分が自分以外の人間に見えて すると何故か過呼吸になる 必死で手元の活字を吸い込み 何度も読んだ好きな詩で深呼吸する それから少しして 呼吸が元に戻った頃 目の前を電車が通り過ぎる

          車内の喧騒

          言葉の断片

          深海のように暗い闇が広がる脳内で 言葉の断片が浮いたり沈んだり あるいはくっ付いたり離れたりして 遂に言葉にならないまま深く吐いた息とともに 夜風に流れ静かな街を彷徨う

          言葉の断片

          布団の中

          地面から数センチ宙に浮いている様で 地面から数センチ穴に埋もれている様な 二つの感覚が敷き布団と掛け布団の間で交錯する  常夜灯に薄く照らされた詩が 弱く青い光に溶けていく 溶けた詩の言葉たちが布団の中で燃える小さな焔に 温められて夢の物語を紡ぐ

          飛行機雲

          春になるちょっと手前 お天道様は上まで昇り 二羽のうぐいすが共鳴する 窓からうっすら見える飛行機雲が 今日から明日へ なんでもない日々を繋ぐ

          雨粒

          空一面に広がる灰色の雲が 冷えた街に雨を降らす 雨粒が雨粒を追いかける 雨粒に雨粒が追いつく 雨粒と雨粒が重なり合う 暫くして 小さな水たまりを 幾つか作り また暫くして 水たまりと水たまりが繋がり 大きな水たまりを作る 空一杯に響く雨音が春を呼び起こす