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延藤 直也
2024年4月28日 07:01
今この瞬間が過ぎていくごとに積み重なり過去を形作る時間の流れに流されて形を変えながら今より少し先に漂着する今と未来の間何も咲いていない木の枝に淡いピンクの花がたった一輪咲く
2024年4月27日 00:14
満月が焚き火の様にゆらゆら燃える街と街ビルとビル空と地上の間を冷たい風が吹き抜ける風に吹かれて消えそうな満月に向かって薪を焚べる様に星々が流れ満月は再び燃える
2024年4月26日 08:19
玄関の扉を開けることさえ精一杯になるほど疲れたある日の夜思考と感情と筋肉が同時に停止して血液が血管を流れていることと肺が膨らんでは縮むことだけがそれだけが明確に分かる何度読んでも分からない読めば読むほどに分からなくなる小説に栞を挟んで閉じるようにゆっくり目を閉じる記憶や知識あるいは経験が身体から離れていく手を伸ばして引き留めようとしても掴めないどんどん離れて
2024年4月25日 07:35
夜来るか分からない明日をどうかあしたがきますようにと祈り目を閉じる朝生きているのが奇跡のような今日をなにもないようにと祈り空虚な天井を見上げる夜なにもなかった今日を喜びなにもないあしたがまたきますようにと祈り目を閉じる
2024年4月24日 08:50
民家や公園用水路や駐車場線路やビル街全体が細部まで夜色に塗り潰される街灯の明かりだけを頼りにビル群を抜けて川沿いを直走り坂道を上り下りし帰路を辿る玄関の重たい扉を開けて外とは明らかに違う家の空気を肺一杯に吸い込んでゆっくり吐きながら真っ暗な洗面台の鏡に映る自分の顔を見つめる
2024年4月23日 08:22
駅舎の屋根から滴る雨水が小さな水たまりをつくる水たまりの歪な円形が少しずつ広がる鮮やかな青色の長靴を履いた少女が跳んで水たまりに着地する水が無邪気に跳ねて水玉模様のシャツが踊る春色の光に照らされた街が水たまりに映える
2024年4月22日 08:16
電車から見える夜はいつもより暗く街の明かりはいつもより明るい風が吹いてさらに後を追って風が吹いてそれから湿気を持った重い風が吹き抜ける星が春の暖かさに融けて雨となり地上に降り注ぐ頭に浮かんだ一編の詩は雨に打たれ一語一語に砕け排水溝に流れる
2024年4月21日 08:02
瞳を閉じてから開けるまでの僅かな瞬間に線で繋がっていた点と点が解けて夜に沈むあらゆる生命体の呼吸音が静かに響き合い暖かい毛布に包まる街と街道と川月と雲夜と朝春と夏それらの間をまるい形の柔らかい風が吹き抜ける
2024年4月20日 08:04
春の全部を吹き飛ばしてしまいそうな強い風が街を揺らすレストランの看板や捨てられた飲みかけのペットボトルや道端に散った桜の花びらが一斉に風に吹かれる車道の信号が赤になり横断歩道の信号が青になるのを風の強さとは無関係に一定のリズムで繰り返す能力の優劣や物事の善悪あるいは自然の興亡とは世界を異にして機械として街の流れをつくる
2024年4月19日 07:46
砂が落ちるのを止めることはできずただぼんやりと眺めるまま砂が落ちた分だけ夜の暗さは深く濃くなり月明かりがより鮮明に空に佇む静かな夜に読んだ表紙が色褪せ幾つかのページの端は折れ鉛筆でメモが書き残された古い小説はとても苦かった
2024年4月18日 08:58
深夜コンビニ前の車道を空車マークのタクシーが数台続けて通り抜けて行く後を追うように夜風が吹き抜けて駐車場脇の葉桜が揺れる見えない月を探しに曇った春の夜空を駆け巡る
2024年4月17日 09:59
微睡みの谷間を朧月みたいな淡い光が灯す山に棲む鹿の親子や杜鵑の夫婦や孤独な狼が光に誘われて谷間に降りるそこに集う動物たちの呼吸が交錯し分離しまた交錯する永遠のような一瞬が過ぎて動物たちは元の住処へ帰る淡い光に照らされた大きな杉の木の影が佇む
2024年4月16日 09:30
陽がゆっくり歩くのと同じ早さで風が隣を歩く蜂の羽音が微かに聞こえるバルコニー物干し竿に掛けられたシャツの皺が影に映る朧げな陽光が朝と小鳥とわたしを眠りへと誘う
2024年4月15日 11:35
花瓶に挿されたチューリップ読みかけの文庫本二つ仲良く並んだ湯呑み食卓を雑多に彩るそれらの影が窓から通り抜ける風にゆらゆら揺れる