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延藤 直也
2024年11月25日 08:43
部屋と部屋街と街、国と国を隔てる闇のような壁朝は低く、夜は高い夏は厚く、冬は薄い呼気が届く距離にありながら手の届かない距離にある壁は時間の経過と季節の移ろいによってのみ変化し、その変化に合わせて通り抜けて来た暗号のような、呪文のような言葉の破片を拾う
2024年11月24日 07:38
晩秋の朝鶯の鳴き声が毛布の温もりと共鳴するトーストに溶けゆくバターの香りが物干し竿をしならせる砂糖が沈んだコーヒーの液面に乾いた自転車のブレーキ音が響く
2024年11月23日 07:43
記憶とは全く異なる自分の顔がカーテンの無い窓に醜く映る薄い壁は騒がしい音を通さない代わりに静かな音を淡々と響かせる湿地のような湿度と明度の一室で昇らない陽をいつまでも待っている
2024年11月22日 08:11
海へと続く硬い道に瞬きより早い陽の光が沈んでいく夜より暗い夕方の闇の中で海までの距離を憂う海亀の遅い足跡をふくよかな秋の腕がやさしく包む
2024年11月21日 08:27
硬く鋭い雨が海の見えない街をゆっくり濡らす遠くで聞こえる雨音は夢の中で聞く波音と耳心地よく重なり合う足先だけが砂浜のような温かい冷たさに包まれる
2024年11月20日 08:04
一番遠い距離にある星は一生懸命に輝いている一番近い距離にある星はつまらなさそうに輝く一番遠い星と一番近い星との距離は百年より長く一瞬より短い決して線では繋げないはずの星々をいとも簡単にチョークで線を引いては星明かりより小さな嘘をつく夜の暗さを知らないゆっくりとした他者の沈みも上り続ける鼓動の速さも知らないいつもより手を強く振って体重より重い歩をなんとか前に進める
2024年11月19日 08:34
二台の倒れた自転車の愛なき抱き合いは北風の冷たさと太陽の温かさの間に沈んでいる気怠く伸縮を繰り返す冬の曇空みたいな惰性の生活は薄い毛布を何枚も重ねたような居心地の良さ進み続ける時間に抗うように目を閉じて本を読み耳を塞いで歌を聞く一年前と変わらない今日の秋に無関心でいる
2024年11月18日 07:44
なんだか温かい晩秋の夜風いつもの帰路鞄から落ちた言葉や車に轢かれた言葉あるいは街から溢れた言葉を淡々と拾いながら歩く足元から音ひとつ立てることなく滑らかにすうっと広がる見えない闇排水溝の泥電信柱の傷信号機の影闇色のそれらが分厚い輪郭とともに夜を彩る
2024年11月17日 08:15
白昼夢の鴉は無色透明の羽毛を纏い内臓や血流あるいはひとつ一つの細胞まで顕微鏡のような高い解像度で見える津波のような羽ばたき地鳴りのような鳴き声吹雪のような冷たい眼決して群れない孤独な飛翔が灰色の曇り空とアスファルトの間を見事に支配する
2024年11月16日 09:09
北風の冷たさと夕方の暗さが街の上に浮き立ちモノクロームの街路を真っ黒な猫が駆け抜ける温度を保とうとすればするほど無意識に歯を食いしばって歯を食いしばっていることに気づいた時には鈍い痛みが閉じたままの口内に残る薬缶から沸く湯気洗濯物の乾き具合右手指のあかぎれ浅い呼吸の連続その節々に漏れる深い呼気吐いた分の息を吸い込もうとすると死のにおいが仄かに鼻腔を擽る
2024年11月15日 08:03
自らの身体をなんとか浮上させるためそのためにできることなんて部屋の明かりをすべて消すことそれだけなのです明かりをすべて消しところで寒いまま震えたまま止まったまま姿勢や態度は何ら変わらないのですが身体が浮く感覚が身体の内側と外側の境界に生まれます状況というのは大きく変わることはありませんが小さく変わり続けます変化をもたらす要因はさまざまですが思い込みや考え過ぎ
2024年11月14日 09:27
何の変哲もないただの交差点空より高いビル卵型の朧月薄く霞んだ停止線こちら側と向こう側の歩道とを繋ぐ夜の横断歩道はほとんど吊り橋のようで一歩ずつ足跡を確かめながら進める歩みはとても遅い横断歩道の途中で止まり歩くのより速い回転で思考する信号の青が照らす歩く意味や目的歩き始めた瞬間の光の点滅が視覚の根底に沈んでいる
2024年11月13日 07:57
海へと繋がる無灯の小路は夜を飛ぶための滑走路速度の上がらない機械的でまた人間的でもある歩は怠そうにからっと乾いた音を立てる枯葉色の猫が無関心を装って消えかけた足跡をなぞる止まったままのような時間はあまりにも滑らかに経過し夜の深さが感覚や思考は鎮める目を閉じてから目を開くまでの凛とした時間
2024年11月12日 07:26
鮮明な工事音を乗せた乾いた風街角から街角へまっすぐ伸びる誰も明確に線引きできなかった曖昧な夢と現実の境界にも些かずれもなく線を引く葉を溢した枯木は朴訥と空を見上げ鬱血した青黒い空