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起業と言葉 vol.005 SmartHR

元電通のコピーライターで、クリエーティブディレクター/起業家のノブです。連載が大人気(?)のため、第5弾です!今までは海外企業でしたが、今回は日本のスタートアップのピッチ資料を分析していきます!


SmartHRのピッチデッキ

今やスタートアップ業界にいてSmartHRのことを知らない人はいないと思いますが、ピッチ大会においては、伝説的な連戦連勝をしたスタートアップです。2015年のOnlab(オープンネットワークラボ)のアクセラプログラム中のサービスピボットを経て、なんと最終ピッチで最優秀賞(優勝)を飾り、そこから調べただけでも、Tech Crunch 優勝、IVS優勝、ICC優勝、B-Dash優勝と、日本の主要なピッチ大会を制しております!もちろん事業成長のスピードも凄まじいのですが、この会社のピッチ資料の分析はしない訳にはいかないだろうということで、今回は、SmartHRさんのピッチ資料の分析です。WEB上で探しましたが、ピッチ映像の資料はありましたが、ピッチデッキはありませんでしたので、Tech Crunch Tokyo2015のピッチ映像を元に分析していきます!

課題が想像しやすい、リアルな写真

SmartHRのピッチは、冒頭から課題をしっかりと伝えていきます。
出産を控えた代表の奥様が自宅で書類を作成する様子や、イメージ写真やレンポジではなく、おそらくご自身で撮影されたのであろう書類や、役所の写真が、リアリティを増しています。これを見れば、誰でも大変だよな、というイメージが持てて、共感をすることができます。VCの方に言われたこともありますが、ピッチでは、やはり分かりやすさは非常に重要です。聞いている審査員も、ご自身の専門外の言葉などで、「?」が頭に浮かんだまま話を聞くと、それだけでそのページ以降のピッチが、頭に入りづらくなるので、起業家はいかに自分の言いたい課題を、想像させるかがとても重要だと思います。痛みの共有は難しいのですが、わかりやすい写真などで擬似体験できる、このピッチの素晴らしい点だと思います。

出産直前の奥様がご自宅で書類を作成する様子
書類の山がリアル
THE・役所というイメージの写真

笑いは起こせるピッチは、印象に残りやすい

前回の「起業と言葉 vol.004 Airbnb」のピッチ資料分析では、ピッチ資料にはサビのスライドが必要であるということを述べました。SmartHRのピッチにおけるサビ、いくつかあるのですが、1番心を動かすこのピッチのサビは、課題の事例の最後に出てくる、下記の2枚のスライドだと思います。役所の書類の性別欄を拡大し、性別の選択肢が6択になっていることを説明します。これだけでも、聞いている人は「そうなの?!知らなかった!めんどくさそう!」と感じると思います。そして創業者の宮田さんは続けます・「1番は、普通の男性。2番は、普通の女性。では3番はなんでしょうか?」聞いている人は、ここで想像します。「不明の人?LGBT?なんだろう?」と。
そこで出てくるのが次のスライドです。

役所の書類のめんどくささをわかりやすく表現

「もうお分かりですね?正解は炭鉱で働く男性です。」という宮田さんのセリフで、会場は笑いと驚きに包まれます。ピッチ大会によっては、吹き出してしまう審査員もいるほどでした。このキラースライドは、何度見ても面白く、かつ、日本の役所の書類のヤバさという課題をまざまざと見せつけてくれます。

まさかの炭鉱で働く人という性別。

笑いは諸刃の剣だと言われますが、びっくりして→面白くなって→笑うという、感情がかなり強く揺れ動かないと、発生しません。狙ってできるものでもないですが、笑いを取り入れられるとピッチのレベルもぐっと上がると思います。

ピッチは、自社が伝えたいことより、聞き手が聞きたいこと

そしてSmartHRのピッチの後半では、見ている人が聞きたいであろう質問項目を先回りして全て説明しています。
「役所のデータを取り込むのが、ハードルあるのでは?」→「電子政府のAPIが公開されて基準はクリアできそうです!」

国を味方につけられるという印象になるスライド

「規模が小さな会社じゃないと、導入難しいのでは?」→「10名から450名以上の会社まで、有料契約してくれる予定です!」

様々な規模に対応できるスライド

「書類の電子化だけだと、事業の広がりが少ないのでは?」「フューチャープランとして、いろんな広がりを考えています!」

未来の広がりを提示するスライド

「本当に有料で売れるの?」→「β版公開後3ヶ月半で201社導入しています!」

導入社数の勢いを示すスライド

これだけみんなが聞きたくなるような想定質問をあらかじめ準備して網羅されていると、聞く側も質問がなくなって困ってしまいそうですが、その状態が理想ですね。聞こうと思っていたことが出てくると、「ちゃんと説明してくれた!」という印象をもたれ、評価もかなり良くなりますね。

言葉の手法=驚きのある新事実を提示する

Smart HRのピッチ分析、いかがでしたでしょうか。今回の言葉の手法としては、「驚きのある新事実を提示する」という手法です。「なにそれ!?」と思わせることで、聞き手や読者に続きを聞きたくなるような気持ちにさせる。だけど、聞いてみると決して意味不明ではない。その絶妙なバランスが必要です。今回はそんな驚きのある新事実を読者に提示した広告事例を見ていきましょう!

驚きのある新事実を提示した広告コピー①パイロット

パイロットの下記の広告は「えっ?どういうこと?」と思わせてから、読ませるという典型的なコピーです。

ロケットも、文房具から生まれた。

KDDI株式会社
キャッチコピーとボディコピーのバランスが絶妙なトンボの広告

一見キャッチコピーを見ると、「そうなの?」と思いますよね。「形が似てるから?」と思いボディコピーを読み進めると、確かにトンボの文房具が、動くとき=何かが書かれる、描かれるときに、生まれるものがあるな、ロケットも、最初の設計の時は文房具が動いて作られたんだな、ということがわかるコピーになっています。「ロケットは文房具から生まれた」という驚きのある新事実(発見)があるコピーですね。

驚きのある新事実を提示した広告コピー②赤城乳業

25年間 踏ん張りましたが、『ガリガリ君』を10円値上げいたします。

赤城乳業株式会社

赤城乳業の値上げ広告は、驚きの新事実を、そのまま広告にしてその企業姿勢も含めて大きく話題化した広告です。

TVCMでも新聞広告でも、25年ぶりにガリガリくんを値上げするという新事実を広告

値上げというネガティブなニュースを、25年間企業努力で価格をキープしてきたこと、そして原材料の高騰など市場の変化で、値上げしなければならないことなど、通常消費者が知ることができない新事実を赤裸々に語り、申し訳なく思っていることをストレートに伝えることで、逆に好感度を獲得しているパターンです。社長含めて、本物の社員たちがみんなで頭をさげるという潔すぎる広告。ここまで正直に語られて頭を下げられたら、消費者も怒れなくなってしまう。人の心理を的確に押さえた広告になっています。CMソングでは、どれだけ値上げについて悩んだのかがよくわかる、苦渋の決断感がとても伝わる広告になっています。


今回は、コピーライターの視点で、スタートアップ起業家や、新規事業担当者向けに言葉のチカラについてまとめてみましたが、起業をしていなくても、すべての会社の広告やマーケティング活動、企業の広報やPR活動において、これからの時代に言葉のチカラは必須だと思います。
ビジョンライティングやブランドを規定する言葉、心にのこるTVCMを作りたい方は、ぜひお気軽にご連絡ください!

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NOBU Planning CEO / コピーライター / クリエーティブディレクター
縦型グルメSNS「Popdish」CEO(Chief Eating Officer)
鈴木宣彦
nobu@nobuplanning.com

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