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【やまのぼ ブックレビュー No.36】「薔薇のノクターン」高見純代・著<幻冬舎>を読んだ。

  かつて、こんなに病との戦いを、克明に書き綴った小説が、あっただろうか。正直なところ、読み進めるのを、何度も断念しようと思った著書だ。

 それは、病に翻弄される、主人公・楯見澄世たてみすみよに、感情移入させられる、著者の綿密な筆致のせいだろう。

 それは、まるで、名医師が書き留めるカルテを、垣間見るような、症状に対する処置が克明に、綴られていく。

 症状に対し澄世の気持ちの有り様。それに対する医師の診断。そして、それに対する医師の治療方法を、納得いくまで吟味する、澄世の気持ちの揺らぎ。

 39歳で乳ガン、40歳で子宮ガンの闘病を、華道により、克服した体験が、切々と語られていく。その悲壮な茨の道筋を、淡々と語られるからこそ、澄世の強靭な生き方に、応援しながら、魅了されない読者はいないだろう。

 読み進めながら、読者はきっと、自分が健康であることに、罪悪感すら抱いてしまうだろう。

 華道を愛する澄世は、闘病の中で、初めて人を深く愛する。

 その愛する大切なK先生を亡くす喪失感が、澄世を本当の愛に目覚めさせるラストの感動。いまでも、K先生に寄せる愛情が、せいへの活力になっている澄世。

 著者の日記を元に綴られた、私小説と聞けば、なおさら、運命のここまでの理不尽さに、憤りを感じない読者はいないだろう。

 人の寿命など、わかりはしない。癌=死ではない。澄世のように、不思議なご縁に恵まれ、生かされる事もある。逆に、人は、いつ何で死んでも不思議ではない。K先生が、それを身をもって教えて下さった。今を大切に、ただ今に感謝して、人は生きていくのが本当だと澄世は思う。

高見純代・著「薔薇のノクターン」より


 読了し、一人でも多くの人に薦めたい!と強く思う本を、手にできたのは、久しぶりのことである。

 そしていま、病魔と闘っておられる方々の良きバイブルとして、手に取っていただきたい一冊でもある。

 どんな良薬や最新医療より、効能があると確信するからだ。



<やまのぼ>のお薦め度 ★★★★★

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<やまのぼ>のお薦め度規準
(独断と偏見です。あしからず)
★★★★★ 蔵書にして読み返したい
★★★★☆ 読みごたえありでお薦め
★★★☆☆ そこそこ読みごたえあり
★★☆☆☆ 時間つぶしにはなります
★☆☆☆☆ 本屋での立ち読みで充分
☆☆☆☆☆ 時間の無駄使いだけです

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