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[詩集]わたくし


intro

やっと朝が来たから言えることがある
曖昧な言葉の枠じゃ伝えられなかった事
冬の静けさに見える誰かの事
爪先立ちで俯瞰しなくていいすべての事と

あくる日もここはユニバース
いつもと変わらないユニバース
朝日をめがけて伸びる猫
めくる雑誌の1ページ

微笑ましい話が続き、
コーヒーを混ぜて飲んだ日溜まり
いつもと変わらないユニバース
あなたとはまた夢の中で会えるはず

春の気配に耳を澄ます、きっとまた会えるはず



1ヶ月ぶりの詩集になります。

今回は"わたくし"というタイトルなので
詞の中におけるそれぞれの主人公の
内面的なものを書いた文章が多めです

また新作も多く収録されているので
ぜひ最後まで読んでいただけたらうれしいです。

それではゆっくりお楽しみください!



鍵盤と春の気配

“二人”をイメージしたら何も浮かばない
“一人”をイメージしたら浮かびはじめた
鍵盤に向かうと心の湖畔 波打つ予感
東雲とした春の日に 安寧の川に咲く

表情は水流に乗り 雲間に笑う 海に立つ
鍵盤から春の気配 確かに呼ぶ 背に伝う
真っ白な鍵盤一つ 音は流れて 雪に触れ
膨大な雪原の中で 新しい芽が 顔を出す

さぁ まっさらからはじめようと
机に向かうはいいものの、どこか
らはじめよう、本に挟まる白い栞

まっさらからはじめようと机に向
かうはいいものの、どこからはじ
めよう、本をめくる汗と白い栞。


比喩じゃない

その僅かに比喩じゃない波打ち際で僕たちは
何を語って、何を感じて、
海に見とれていたのだろう
幸せというのは確かなもので
これからだってそう

夕日の幕が下りるその波打ち際で僕たちは
何かを語って、何かを感じて、
海をながめていたのだろう
水平線に霞むくらい羽ばたく鳥も
これからだってそう

伝えたいことは、脈絡は、
ずっとずっと比喩の中で
気付いてほしい 気付いてほしくない 
果たしてどっちなのか
自分でも分からない 分かってほしい 
どれもきっと等身大
波打ち際の僕たちは静けさに包まれた侭

伝えたいことは、脈絡は、
ずっとずっと比喩の中で
波の近付く、その刹那 掻き消すような波音に
本当のことだけ 本音だけ 
どれもきっと等身大
言ってみたい 
まだぎこちない距離感を破れない侭

その僅かに比喩じゃない波打ち際で僕たちの
夕日の幕が下りるその波打ち際で僕たちの
幸せというのは確かなもので
これからだってそう


Moonlight

目を瞑ったら月の世界
銀色の球体が熱を帯びたらこの世界
今日はいつもより会話の中で嘘を付いたから
本に挟んだ栞の先、あんまり読む気が起きなくて

そんな夜の僕にだって月は今宵も歌を込めて
木々の隙間から滲む灯りを
僕に届けてくれるのです

夜はひっそり歩き出す
すべて持って行ってしまうくらい
外は寒いから重ね着をして
一応傘も持参して

僕は部屋から抜け出して
少し曇天の午前2時
更新の止んだタイムラインと
いざ歩き出す月の歌

そんな夜の僕にだって月は夜毎よごとに歌を込めて
木々の隙間から滲む灯りを
僕に届けてくれるのです

夜はひっそり歩き出す
すべてわすれてしまうくらい
深く眠る街で独り言の様に
朝を目指している

僕は街から抜け出して
朝靄見える芝生へと
寝転ぶ頃には明ける空
静けさを繋ぐ月の歌

目を瞑ったら月の世界
銀色の球体が熱を帯びたらこの世界
双眸そうぼうを渡る理想郷



到達点

一人はいやだ
そこで寂しい空気の塵を掴もうとした
一人はいやだ
自由なはずの空に嘆いた 空に嘆いた

海の上 浮かぶ月
錆びた言葉 錆びた侭ゆれた
轟音の夜 目にした光は
鯨の様に過ぎていった

飾らない感情を ぎこちない喜びを
帰り道の川の流れのような寂しさから
目が覚めたら ここは楽園だよ
存分に遊びなよ 夢心地の青の中

思い出の繭を破った僕は面影と踊る
事柄の到達点は光に満ち溢れていた
水平線はまどろみ 渦潮は回る
そして夜に火をくべる

思い出の繭を破った華麗な羽根は誰の物
事柄の到達点は光に包まれていた。



期待は気体

期待は気体になるよ今
獣の光る眼のような夜に
期待は気体になるよ今
そして遠くに瞬く光を追っていくんだ

数えたのは、急勾配な過去の憂鬱の事
心の湖畔に浸透する煌びやかな水を求めている
数えたのは、雲間に見える灯火に似た夕暮れの事
心の湖畔、波打つ予感、波打つ予感

期待は気体になるよ今
地面の影と影とだけ重なる遊びに耽る
期待は気体になるよ今
垢抜けない浮遊気味な自分は

ネオンの表面を噛むような雨
束ねた存在しない季節の記憶
そのすべてをひっくるめて
意味に輪郭を付けた、付けた

数えたのは、急勾配な過去の憂鬱の事
心の湖畔に浸透する煌びやかな水を求めている
数えたのは、雲間に見える灯火に似た夕暮れの事
心の湖畔、波打つ予感、波打つ予感

期待は気体

気体は期待


October

目が覚めたらいつもと変わらない日々が流れ出す
光をこねる草木と
とぼとぼ髪を靡かせた僕の
生活が歌い出す
波間のように上下に沿う山並みも
ずっとその侭だ

昨日の入道雲とすれ違った
さっぱりした空模様
動物みたいな雲も見られる

僕は無気力に歩く
ぎこちない喜びも手にしながら
空気の踊るような
ギターの音が響く街を歩けば

継ぎ接ぎな言葉でも
僕は思い入れと秋を歌う
この季節の温もりのために
火を絶やさずに
火を絶やさずに

夕方の鐘が鳴ると
カラスの勘が言っている
ゆっくりと急ぎがちな夜のために
火を絶やさずに
火を絶やさずに

昨日の入道雲とすれ違った
さっぱりした空模様
動物みたいな雲も見られる

僕は無気力に歩く
ぎこちない喜びも手にしながら
空気の踊るような
ギターの音が響く街を歩けば


空想

本当に思っていることはあえて言わなくていいよ
知らないことの一つや二つあってもいいから
眠れない方角に石を飛ばして忘れてしまおう
砂漠みたいに朽ち果てた僕だけの頭の中

獣みたいな声が唸る夜、
宛ての無い暗闇を蠟燭だけで突き抜ける為の
知恵を捻り出している
そこには何も無い
でも宛ての無い暗闇を突っ立っているだけの
理由はいくらでもある

夢の中の自由さで
喧噪の真ん中に光が浮かべば、怖いものは何一つ無いだろう
それはそれできっと楽しいだろう


行かなきゃ
すっかり霞んだ空にまばゆい策を編み込んでいく
空想だけ一人歩きでも
その背を追っていく

もどかしさもここでは燈
ラストシーンにも愛を込めて
空想だけぐっと握って
心の影を追っていく


夜はいつでも過ぎるいかずち
足早の人 遠い理想郷
まだ宛ての無い暗闇を突っ立っているだけ

夢の中の自由さで
底の無い夜の窮屈を
指の差す先に日が昇る
重ねた憂いを投げ出したら
まだ知らぬ空の匂い


行かなきゃ
晴れ間に向かう空にとっておきの知恵を編み込んでいく
一人歩きの空想を起こす
そこに行き交う電気の波へ

もどかしさもここでは光
ラストシーンにも愛を込めて
創造だけぐっと握って
余白の街を塗りたくっていく


何度目の夢を
何度目の夢を走る
何度目の夢を
何度目の夢を走る


ライター

おはよう、一年前を思い出す
まだ拙さに隠れた日々は
何かがあって何かがなかった

おはよう、百年前を思い出す
思い出す、思い出せる?
何かがあって何かがなかった
昔もそれは同じだった?

あなたの後ろの冬の気配だけ
ずっとずっと感じるよ
空想だけひとり歩きの
ひとりぼっちの世界はきっと
一年、二年、百年と
寂しいことに変わりはない

ここですべてに別れを告げても
ひとりでいることに違いはない
慣れないことは増すばかり、
ただ笑いたい、笑いたい


正真正銘 あなたの世界は
風車の羽根にちらつく晴れ間の透明な光のように
蕾から育み、花開いた世界だ

僕はそこに立ち、残した言葉の鉱脈を辿り
より知りたくなる、本当も嘘も
すべて含んだ、瞬く間の未来


おはよう、一年前を思い出す
あの静けさに急いだ日々に
雲間の欠片が抜け落ちていった

おはよう、百年前を思い出す
思い出す、思い出せる
会話の紐を解くように
日々のパズルはめるように


あなたの後ろの冬の気配だけ
ずっとずっと感じるよ
空想だけひとり歩きの
ひとりぼっちの世界はきっと
一年、二年、百年と
寂しいことに変わりはないけど

影だけのあなた、影だけの僕、
すれ違う時は二人の気配
泡沫うたかたの砂の上に立ち、
ただ話したい、話したい


ここですべてに別れを告げても
あなたが居たことに変わりはない
また笑いたい、笑いたい
ここにライター一つだけ


outro

靴も無く どこか行きたそう
猫の気持ちで見上げた朝は
優しい心 優しい命を込めた
ちいさな夜月、夜月

自分の外でそよぐ言葉の最先端
目指して歩く 閑静な街
君のこともわすれていないよ
きっと遠くどこかで見ていて

目覚めはいい 何も怖くない
服を重ね着したら 暖かい
水色の空 何も浮かばない
それは何だか自然体

“どうか今日も晴れていますよう”
羽ばたく鳥の空に祈る
鬱蒼とした夜を超えたら
どんな自分もすきでいれるよう

自分の外でそよぐ言葉の最先端
目指して歩く
ひとりでもぼっちでも軽い気持ちで歩く

君のこともわすれていないよ
この街を時々思い出して
そこで見ていて



閲覧ありがとうございます。

冒頭でも話しましたが、
今回は詞の中の主人公の心内などを書いた文章が多いので、ある種のストーリーテリング的な要素も見られるように思いました。


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1年前の今日にも
"すなのひ"という詩集を投稿しています。


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