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専業リサーチャーじゃない人のためのインタビューのコツ

こんにちは。トークアンドデザイン合同会社代表の今西(@no_imanishi)です。

ユーザー/カスタマーのニーズを良く理解してプロダクトを作りたいというという(とても素晴らしい)ご意向から、インタビューでのリサーチに協力させていただく機会があります。オンラインミーティングツールが一般化して、かえって取り組みやすくなっている印象もあります。
インタビュー等のリサーチは、リサーチャーとして専業でされている方もいますが、企画者開発者が自分で実施するケースもあり、むしろ「自分でやってみる」はとてもいいことだと思います。私も本業はアイデアを出したりカタチにしたりすることですが、そういう人間がインタビューをやることのメリットを感じています。

プロダクト開発におけるインタビューのやり方そのものは、参考になる書籍がいくつもあるので、それらを参照いただくのがいいと思いますが、ここでは、自分でインタビューをやろうという人のために、私がこれまでに感じてきた「自分でやるインタビュー」に役立ちそうなことを、いくつかお話しできればと思います。

Tips1: インタビュースクリプトを作り込みすぎない

インタビューすることに不安があると、質問することを細かく沢山準備したくなりますが、逆効果になるなと感じています。

インタビュースクリプト(質問文)を細かく作り込むと、その質問を読み上げてそれぞれに対する回答を浅く聞くだけで終わってしまいがちです。そうなると、表面的な応答が手元に残るだけで、潜在的なニーズに迫るというのはなかなか難しくなります。

どちらかと言えば、聞くべきことの柱だけはしっかり決めておいて、「めちゃくちゃ集中して『聞く』。そして質問し尽くして分からないことを残さない。」という態度が大事かなと思います。

インタビュー後、チームのメンバーや上司にそのインタビューセッションについて説明するというシチュエーションはよくありますが、メンバーや上司に何を質問されてもちゃんと答えられる…という状況を目指そうとすれば、インタビュー協力者の方が言っていることをよほどよく理解しておかないといけないですよね。それには決めた設問をさらっと流しただけだと全然足りなくて、すごく集中して聞いて、「あ、今のところ分からなかった」と分からなかったことに気づくセンサーの感度を上げまくるのが大事だなと感じています。

こう考えたとき、インタビューを企画者や開発者が自らやるというのはすごく有利で、このあと企画や開発を進めるために何を聞いて理解すればいいのか、自分のニーズとして分かっているので、気づきのセンサーも感度を上げやすいと思います。(もちろん誘導してはいけませんが。)

Tips2: 「深堀り」のパターンを覚えておく

よく「深掘りが大事です」と言いますし、インタビューの最中にインカムで「今のところ深掘りしてください」とか言われたりしますが、インタビュアーの身になると、深掘りって具体的に何を聞けばいいのかパニックになってしまいがちです。

試行錯誤したのですが、以下のような順序で話を聞くと、自然と深掘りができると感じています。

  1. まず表面的な事実を聞く

  2. 事実をより具体的にする

  3. 行動の理由を聞く

  4. 行動にまつわる感情を聞く

  5. その気持ちをもたらす価値観について聞く

<深掘りの流れ例>
Q. 〇〇するのにはどんなアプリを使っていますか?
A. △△というアプリを使っています。(表面的な事実)
 ↓
Q. △△を具体的にどういう風につかっていますか?
A. 作業場では△△と一緒にXXを補助的に使いながら作業しています。顧客とのオンラインミーティングの際に、△△の画面を直接クライアントに見せることも多いですし、クライアントと会えるときにはタブレットを渡して直接△△を操作してもらいます。(具体的な事実)
 ↓
Q. 〇〇をするのに△△を使うことにしたのはどうしてですか?
A. 私は他の人と比べて少し変わった使い方をするので、それにスムーズに対応してくれることが大事でした。〇〇を効率化する方法については以前から悩んでいましたし、同業の友人からもアドバイスをもらいましたが、友人とも使い方のスタイルが少し違うので、結局自分で調べて決めました。(行動の理由)
 ↓
Q.△△を使ってみて、今どういう気持ちですか?
A.おおむね満足しています。私のスタイルに合わせて使えるという点が一番大事です。ただ、周りの同業の人たちは別の□□というアプリを使っている人も多くて少し気になります。(感情)
 ↓
Q. おおむね満足というお話しでしたが、△△を採用するというご自身の選択について、大事にしたことや拘ったことはありますか?
A. この仕事において自分のスタイルを突き詰めたいという気持ちは強くあります。他の人と同じだと、埋もれてしまいますので。ただ、固執してしまって自分が時代遅れになるというのも怖いので、時々は同業の友人と情報交換しています。(価値観)

上記はあくまでも簡素な例で、本当は質問を繰り返しながら、事実・行動理由・感情・価値観を明らかにしていきますが、なんとなく「深掘り」のイメージが掴めるのではないでしょうか?
新規事業や新規商品の企画開発においては、行動理由・感情・価値観あたりに潜在ニーズ発見につながる美味しい情報があることが多いので、この流れはかなり汎用性があると思います。

ちなみに、「インタビューの際にはオープンクエスチョンで」よく言われますが、この深掘りパターンに沿うと自然とオープンクエスチョンになるので、インタビュー時の悩みも減ります。

Tips3: インタビュー毎のまとめはちゃんと目にやる

多くの場合、インタビュアーと記録係がペアとなり、記録係は発言をひたすら記録していると思います。そして、インタビューセッションが終わったら、少し時間をとって素早くまとめをしましょうという感じだと思います。

インタビューの結果を使って、インサイトの発掘をしたり、アイディエーションをしたりするにあたって、各セッションごとの適切なサマリーを作っておくことは、(さっと素早くどころでなく)すごく大事だと感じます。発言録は膨大な量になるので、後段の作業中に再読するのは正直難しいです。セッションごとのサマリーが適切にまとめてあれば、自信を持って後段の作業に当たれます。

サマリーのスタイルはいろいろあると思いますが、いずれにしてもそのセッションで得られた価値のある発見を列挙することになります。問題は「価値ある発見」はどれかというところで、後から読んで分からない日本語になっていたり、美味しいところが漏れていたり、インタビューならではの価値ある発見というよりただインタビュアーがその場で知ったことが並んでいたり…、サマリー作成をさっと済ませようとすると甘くなってしまいがちなので、少ししっかり時間をかけた方がいいなと感じています。
具体的には、インタビュアーと記録係がオンラインで話しながらまとめるとして、60分インタビューに対してなかなか30分ではサマリーは作れなくて、60分弱くらいかかってしまうなと感じます。

Tips4: 不安を解消する

「インタビューなんてできない」と思うのって、何か不安を感じてることがあるんですよね。なので、不安を自覚して取れる対策はとってしまいましょう。

例えば…相手の名前は付箋に大きく書いて画面脇に貼っておく

私の場合はですが、話している最中に相手の名前が出てこなくなることに恐怖感がある(緊張すると目の前にいる人の名前をど忘れすることがある)ので、オンラインインタビューの場合はいつもやってます。不安への対策の一例です。

進行に困ったときの定型フレーズを確認しておく

ある種の精神安定剤ですが、よくある困ったシーンに使える定型フレーズを持っていると安心感につながります。

  • 「他の場合はいかがでしたか?」

    • 「一番〜なことを教えてください」「直近で〜だったことを教えてください」という質問をしているときに使いやすいフレーズ。思った様に会話が引き出せない時に、仕切り直し出来ます。

  • 「誤解していないか確認させていただけますか?」

    • インタビュー協力者が必ずしもスムーズに筋道立てて話してくれるとは限らないので、自分の理解に自信が持てないと思ったら、正面から確認する。

  • 「・・・だから・・・ということですが、詳しく教えていただけますか?」

    • ある発言に対して後から理由を聞こうと思っていたら先に言われてしまった…という時に使えるフレーズ。理由を先に言われてしまうとそこに更に質問することに気後れしてしまいがちですが、定型フレーズを持っていると慌てずに済みます。

議事録をリアルタイムで共有する

記録係のとっているメモは、インタビュアーがリアルタイムで確認できるようにしてあるととても役立ちます。
「あれ、序盤の方でなんて言ってたんだっけ?」となってしまうことは時々あって、手元で確認できると進行の助けになります。

質問文の日本語の吟味をしておく

インタビュー協力者が何を答えて欲しいのか理解できない質問というのが一番よくないので、質問テーマが回答可能かどうかは自信の持てるところまであらかじめ吟味をしておくと安心できます。

また、日頃から「あれ」と「それ」とか指示語をいっぱい使ってしまう癖のある人は、インタビュアーが指示語を使いまくると質問が分かりにくくなるので、少しトレーニングをするといいかもしれません。急にいつもと違うことをしようとすると、言葉が出てきません。

敬語の勉強

敬語が不安な人は、少し勉強しておくといいのかもしれません。丁寧に話そうとしてやりすぎ敬語にならないことも大事です(私はそっち方面を気をつけています)。

手強い相手にあたった時は仕方ないと気楽に構える

インタビュー協力者によって、有意義な情報が沢山引き出せるケースと、そうでないケースは出ます。それはもう、「自分でやるインタビュー」の場合は仕方ないことと思っていいんじゃないかと思います。
私が感じる手強いケースは…

  • 話を抽象的にまとめがちな人

    • 「要はコストが高いんですよ」の様な感じで、自分で自分の話をまとめてしまう。こちらが聞きたいのは、どういう時にコストの高さを感じるのか、どういう価値観で見た時にそのコストが見合っていないと感じるのか…という極めて具体的なことだったりするのですが、掘り下げようとしても、善意で抽象化されてしまうケース。

  • 質問した内容と異なる返答が返ってくる人

    • 「どんなアプリをお使いですか?」と聞いて「昨日娘に教えてもらったアプリの話」が返ってくるようなケース。

進行が苦しくなるので焦ってしまいますが、「自分でやるインタビュー」の場合は、完璧を目指すというより、企画開発に役立つことを一つでも二つでも取り出せればOKという態度でいいんじゃないかと思います。(クライアントワークでやる時は苦しみますけれど!)

終わりに

かれこれ20年、諸々のプロダクトの企画・開発・プロモーションに関わってきて、「ユーザーが怖い」と思っている組織はかなり多いんじゃないかと感じています。それもまた理由のあることではありますが、ユーザーと関わることの敷居が少しでも下がるといいですよね。

最後までお読みいただきありがとうございました。



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