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関谷 健/関谷醸造

法人名/農園名:関谷醸造株式会社
農園所在地:愛知県北設楽郡設楽町
就農年数:16年
生産品目:自社栽培した酒米「夢山水」「チヨニシキ」「ミネハルカ」を使った日本酒醸造
HP:https://www.houraisen.co.jp/ja/

no154

高齢化する酒米農家の危機を受けて栽培へ踏み出す!地元農業の受け皿に

■プロフィール

 江戸時代(1864年)に創業して以来、愛知県北部の奥三河で酒造りを続ける酒造会社の7代目として生まれる。

 1994年に東京農業大学醸造学部を卒業後、静岡県の豊田肥料で2年間勤務。その後、兵庫県農業総合試験場(現:兵庫立農林水産技術総合センター)で酒米の研修を受けたのち、岐阜県の酒類卸業オオクラで流通の現場を学ぶ。

 1998年、父が代表を務める関谷醸造に入社後は、専務を経て、2010年から現職。地元・設楽町で酒米農家の高齢化に気付いたことがきっかけとなり、2006年に70アールの水田で「夢山水」の栽培に着手。

 2007年からは、自社で育苗を行うようになり、稲刈り後の籾の乾燥など設備投資を進め、2022年現在の農地面積は38ヘクタールまで拡大した。2012年からは、若手蔵元が作る全国組織「日本酒造青年協議会」の前会長、現在は愛知県酒造組合の会長を務める。

■農業を職業にした理由

 関谷醸造が代々酒造りをしている設楽町では、地元の農家が作る酒米「夢山水」を使って日本酒「蓬莱泉」を作り続けてきた。しかし2000年ごろから地元の生産部会と意見交換を行うたび、生産者の高齢化を目の当たりにするようになり、この先、どうやって酒米作りを維持するかが課題になった。

 また酒蔵を見学しにきたドイツのワイナリーの人から、「自分で米を作っていないのに、日本酒メーカーと名乗れるのか?」と指摘を受けたことがきっかけで、酒造りと地域性について考えるようになる。

 海外輸出を視野に入れた場合、日本酒に関する知識に乏しいソムリエや業者が扱うことを考えると、欧米のワイナリーと同様に自社栽培米で作る方が理解してもらいやすいと考えて、米作りを始めることを決意。

 おりしも、企業法人が農業に参入する「農業参入特区制度」が全国展開されたことも手伝って、耕作放棄地70アールを借りて2006年に開始。

 当初は社員のオリエンテーションを兼ねた「田植えごっこ」の要素が強かったが、2年目以降、トラクターや田植え機、籾の乾燥機など機械化を進めながら、着々と生産規模を拡大。

 引退する農家から農地を譲り受けて、拡大した結果、酒造りに使う約1万俵のうち、4分の1を自社栽培米でまかなえるようになった。

■農業の魅力とは

 正直言って、仕入れてきた酒米を、自家栽培にしたところで利益率は良くありません。コストがかかって大変ですが、国内の多くの日本酒メーカーが、「山田錦」を使って酒作りをする今、私たちは地域資源にこだわって、他社には真似できない個性を強みにしています。

 山田錦は愛知県内ではあまり作られていないので、兵庫県から調達していますが、ゆくゆくは地元にシフトしていきたいと考えています。

 酒蔵は古くから地域の人に支えられてきた地場産業なので、地元の原材料を使うことで、貢献したいのです。そのため日本酒だけでなく、梅酒やブルーベリーも近隣の作物を使っています。

 せっかく自社で米を栽培しているので、手間暇をかけた有機米などは、既存の製品ではなく、杜氏に「思い切って好きなように良い酒を作ってくれ」とリクエストして完成したのが「蓬莱泉アルカディア」。150本限定で、国内では流通しておらず、1本数万円の値段がついても売れる最高級のお酒です。

 今、海外では中国、香港、台湾、マレーシア、シンガポール、タイなどに輸出していて、いずれも富裕層向けの高級品ばかりですが、米作りを始める前に考えたように、日本酒に詳しくない海外の人にもわかりやすい文脈で、酒造りしているところが高い評価に結びついていると思います。

■今後の展望

 以前は、酒造りに必要な1万俵のうち、6,500俵を地元から調達しています。1万俵のうちの約4分の1が自家栽培米なのですが、将来的には3分の1まで増やしたいと考えています。

 そのためには農地も現状の38ヘクタールから最大で50ヘクタールまで広がる予想です。引退する農家の水田を受け継ぐことで、地域の農業の受け皿を目指します。

 私たちの水田では、田植えから収穫まで年2回の農業体験イベントを行なっています。消費者にとって価値あるものは、今や「モノの消費」から「コトの消費」へ移り変わっていますから、酒造り体験だけでなく田植え・収穫体験などの参加を通じて関谷醸造のファンを増やしたい。

 これは農業にも通じることですが、お酒は、蔵元から問屋、小売店、飲食店を介すために、お客さんとの接点が少ないのです。私たちは作り手として、お酒に一番適した温度や料理、酒器の選び方などを熟知していますので、自社でバーやレストランを運営したり、さまざまなイベントを通じて、日本酒の楽しみ方について知ってもらい、ファンを増やしていこうと思っています。

 お客さまと直接交流することは、日ごろは蔵の中から出てこない製造スタッフにも良い刺激になり、モチベーションを高めることにもつながります。そのほかにも、鳳来(ほうらい)牛の肥育農家と提携して、酒粕や米糠、籾殻で配合飼料を作り、牛糞を堆肥に使うなどといった循環型農業も進めています。

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