中村育

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中村育

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記事一覧

短歌2024.5-6(5首)

砂のふる町の底にてまどろんでいるよう きっと増えない貯金 顔に塗るいくつかのものひとつずつ指で倒して雨を止ませる 使えない万年筆を脊髄にかくして水の流れる5月 …

中村育
2週間前
3

短歌2024.4(7首)

春 売った実家に知らない人が住みわたしの過去の灯をひとつ消す 長い髪をなにかの兆しかのように他人は思う 春風 桜 もうすぐに静かになって友だちと呼べないひとと進…

中村育
2か月前
4

短歌2024.3(5首)

春の雨あるいは濡れた雪が降り並んだ窓にかすかに触れる 彼岸潮 生きる時間が長引けば長引くほどに生きたくなった 明け方の海ならどこでもきれいだろうピアスも入れたピ…

中村育
3か月前
1

短歌2024.2(9首)

背丈よりおおきな絵画見つめては見つめ返されないこのからだ 瞑想の目を閉じるとき伸びる根が土を分けゆく力を思う 吐く息と湯気が混ざって渦となり春の国まで先に行って…

中村育
4か月前
1

結社に送ってた短歌

まひる野を12月でやめてしまったのだけれど、やめる直前まで原稿を送っていて、会誌にどんな風に載ってるのか載ってないのか確認できないんだけどもったいないから送ってた…

中村育
5か月前
3

短歌2024.1(7首)

血液の速さ 春から春までの涼しい朝にうまれる金魚 耳の奥ふかくに水の音がして雷もっと光がほしい いつまでも汚れたままの車窓には雪原、白樺、くすぶる朝日 誕生の記…

中村育
5か月前
2

まひる野2023.12月号掲載作品

先週の花火のにおいがするような芝にさんざん雨降りつづく ときどきは裸足の指をさらけ出し彼女は夜へギターを鳴らす 歌声にゆだねてみればシャボン玉みたいに丸く揺れた…

中村育
7か月前
2

短歌2023.12(8首)

生年を告げずにのぼる階段の二階は澄んだ洞窟のよう 梟の昼のウインク凍りつく道に枯れ葉が埋もれてしまう あおい眼で空を見ているいきものの首の重さを木は受け止めて 輪…

中村育
7か月前
2

まひる野2023.11月号掲載作品

波音を聞きたい朝に飼い猫の眠りの深さ確かめている 影ながく伸びるわたしの身体が鳥なら影も鳥だったのに 真夏日の大きな水が見たいのに空を見ている花の憂鬱 地下道の…

中村育
8か月前
3

まひる野2023.10月号掲載作品

絵のなかで枯れている花枯れたまま百年のちも人に見られて ミイラを見るのは暑い時期ばかり汗で目玉やあちこち濡らし 鼻の奥肺の奥まで乾くから触れないものに触りたかっ…

中村育
9か月前
2

まひる野2023.6〜9月号掲載作品

妹は夏の日照りのように立つ指輪をしても同じ名前で 親友のようなブラウス本心を青い釦で隠してくれる 空の写真いちいち撮らなくなっていて同じ時間に同じくちづけ コミ…

中村育
10か月前
1

まひる野2023.5月号掲載作品

手あさあさに老人が雪かきをする理髪店まえの濃いアスファルト ベランダに二畳の雪原きらきらとこれっぽっちならメルヘンの国 ただ雪に覆われる街 眠るよりたのしいこと…

中村育
10か月前
1

最近の短歌など

なめらか 隣人の郵便受けがはちきれそう濡れた雨傘ゆっくりと巻く 花が咲き花が枯れたらまたちがう花が歩道に植えられてゆく ひんやりと砂時計ひっくり返し秒針のないな…

中村育
10か月前
4

ホワイト&ブルー(10首)

見上げればあれが白木蓮なのか頷くようにみんなで揺れて 好きな歌手の好きな歌い方まねしない できない 雪は春でも降るが 手に馴染む古いスマホに残されたまま薄れゆく…

中村育
1年前
4

病院嫌い(8首)

受付で名を奪われるここちよさ番号札は手首に巻いて 家族には病院とだけ伝えればすなわちレディースクリニックのこと 〈希望しない〉丸をつけたら未婚だと思い込まれてさ…

中村育
1年前
3

まひる野2023.4月号掲載作品

月の顔 冬ざれのトースター覗き待つあいだ背中が夢を回想しだす 見せたくてきみに写真を撮ったのに目覚めたらまだ回る乾燥機 眉山の毛を抜きながら爪冷えて言われなくて…

中村育
1年前
3
短歌2024.5-6(5首)

短歌2024.5-6(5首)

砂のふる町の底にてまどろんでいるよう きっと増えない貯金

顔に塗るいくつかのものひとつずつ指で倒して雨を止ませる

使えない万年筆を脊髄にかくして水の流れる5月

枝に咲く花の滅びて新緑の影に吸い込まれゆく呼び声

夕方がどんどん伸びる6月の新婚旅行はひとりで行くね

今年はずっと気ままに一首単位で短歌をつくってきたけど、夏は連作をつくろうかなと思ってる

短歌2024.4(7首)

短歌2024.4(7首)

春 売った実家に知らない人が住みわたしの過去の灯をひとつ消す

長い髪をなにかの兆しかのように他人は思う 春風 桜

もうすぐに静かになって友だちと呼べないひとと進む自転車

白黒の写真にうつる唇のジェンダー規範を振り払う黒

雪とけてベンチ現る公園を去年とちがう顔で眺める

その花を猫から守り美から守りこぼれゆくままゆるす指先

吸うよりも吐くのが得意 背もたれの向こうに見えないけれど海が

短歌2024.3(5首)

短歌2024.3(5首)

春の雨あるいは濡れた雪が降り並んだ窓にかすかに触れる

彼岸潮 生きる時間が長引けば長引くほどに生きたくなった

明け方の海ならどこでもきれいだろうピアスも入れたピルケース鳴る

3月は変わってしまうバス停に少し生きてるたましい待たせ

フィクションにあまたの少女ひかってはきえるこの世に着る服がない

3月につくった短歌たち

短歌2024.2(9首)

背丈よりおおきな絵画見つめては見つめ返されないこのからだ

瞑想の目を閉じるとき伸びる根が土を分けゆく力を思う

吐く息と湯気が混ざって渦となり春の国まで先に行ってて

十五時のロイヤルホストは満席ではじめて通る道で帰ろう

すすきのに雪は汚れて積みあがり夕焼けのないまま夜が来る

雪の影は少し青色 飛行機に乗るなら軽い服を着てきて

名姓の順になまえを裏返すアルファベットがすこし疎ましい

音を

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結社に送ってた短歌

まひる野を12月でやめてしまったのだけれど、やめる直前まで原稿を送っていて、会誌にどんな風に載ってるのか載ってないのか確認できないんだけどもったいないから送ってた歌の一部をここに載せます。
2か月分の20首から今気に入ってるのを選んで順番を並び替えました。

声だけが聞こえる鳥の影さがし背伸びの人は遠景のよう

花言葉は嫌い花弁を食い散らすように魚のはらわたを取る

そのむかし母は子どもで絵がうま

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短歌2024.1(7首)

血液の速さ 春から春までの涼しい朝にうまれる金魚

耳の奥ふかくに水の音がして雷もっと光がほしい

いつまでも汚れたままの車窓には雪原、白樺、くすぶる朝日

誕生の記憶は外に散らばって花は散るから綺麗と言うね

大陸がくらげのように漂っていたころに降る雪の白さよ

雪どけの水が樹々から滴って大きな川へ行くまでの日々

光から光まで行く息つぎの深さこんなに遠くまで来た

今月つくった短歌たち

まひる野2023.12月号掲載作品

まひる野2023.12月号掲載作品

先週の花火のにおいがするような芝にさんざん雨降りつづく

ときどきは裸足の指をさらけ出し彼女は夜へギターを鳴らす

歌声にゆだねてみればシャボン玉みたいに丸く揺れたい身体

一言もしゃべらないまま帰るから身体のなかを響く音楽

二十年生きた昼寝を終えたあと少し鏡を長く見つめる

湯を沸かし湯気ぐらぐらと伸びあがる夢に実家の犬は生きてる

音楽を鼻から聞いているように牛は楽器に顔近づける

いくつか

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短歌2023.12(8首)

短歌2023.12(8首)

生年を告げずにのぼる階段の二階は澄んだ洞窟のよう
梟の昼のウインク凍りつく道に枯れ葉が埋もれてしまう
あおい眼で空を見ているいきものの首の重さを木は受け止めて
輪郭で女と思う身体も寒々とした木からうまれた
地上には無恥の羊はいないからひとつをひとつと数えていい
セーターの似合う羆の小さな目そのやさしさの奥の無響は
またきみがうまれるまえの星だった尾を振れば振るほど降り注ぐ
木も骨も炭になるまでスト

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まひる野2023.11月号掲載作品

まひる野2023.11月号掲載作品

波音を聞きたい朝に飼い猫の眠りの深さ確かめている

影ながく伸びるわたしの身体が鳥なら影も鳥だったのに

真夏日の大きな水が見たいのに空を見ている花の憂鬱

地下道の冷気うるわし八月はハデスの息を近く感じる

日記には書かなかったな恋人の爪を間近に眺めたことを

てのひらが熱くて眠れない盆会 死を知るまでは死者じゃなかった

命日じゃなくてわたしの誕生日にわたしを思い出してねいつか

何歳でもプラ

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まひる野2023.10月号掲載作品

まひる野2023.10月号掲載作品

絵のなかで枯れている花枯れたまま百年のちも人に見られて

ミイラを見るのは暑い時期ばかり汗で目玉やあちこち濡らし

鼻の奥肺の奥まで乾くから触れないものに触りたかった

燃えるほど赤い夕陽を見たこともなくて家屋の潰れたニュース

虫を殺した手から草木のにおいして郷愁(これはわたしのじゃない)

雨音が未練のように鳴っている一夜に青いペディキュアを塗る

過去を映すこころの窓に凭れつつ少しのあいだ指

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まひる野2023.6〜9月号掲載作品

妹は夏の日照りのように立つ指輪をしても同じ名前で

親友のようなブラウス本心を青い釦で隠してくれる

空の写真いちいち撮らなくなっていて同じ時間に同じくちづけ

コミュニケーションってなんだ唇をあわせることがなんで特別

絡まったこころ重たく雪どけの道にブーツが果てまで沈む

2023年6月号

続々と血が抜かれゆく 今日風が強いですねと笑いあう部屋

自分の血、見るの大丈夫ですかって嫌でも見慣れ

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まひる野2023.5月号掲載作品

手あさあさに老人が雪かきをする理髪店まえの濃いアスファルト

ベランダに二畳の雪原きらきらとこれっぽっちならメルヘンの国

ただ雪に覆われる街 眠るよりたのしいことだふたり暮らしは

生きるものも死ぬものもない雪の上に掌乗せて手を置いてくる

指紋すらむしばむ手荒れ、わたしの手。きのうの水を喉に流した

足の爪ちぐはぐに伸びていくように正体なんてどこにもなかった

パチンコ屋から手をつなぎ出てきた

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最近の短歌など

最近の短歌など

なめらか

隣人の郵便受けがはちきれそう濡れた雨傘ゆっくりと巻く

花が咲き花が枯れたらまたちがう花が歩道に植えられてゆく

ひんやりと砂時計ひっくり返し秒針のないなめらかなとき

名前のない猫を飼ってた哲学者あすのわたしもわたしだろうか

夜までの長いゆうやみ一万年のちも同じ目で猫はいる

北山あさひさんのフリーペーパー「変幻自在宝島」に載せてもらった連作5首です。
好きな歌と一首評も書いていま

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ホワイト&ブルー(10首)

ホワイト&ブルー(10首)

見上げればあれが白木蓮なのか頷くようにみんなで揺れて

好きな歌手の好きな歌い方まねしない できない 雪は春でも降るが

手に馴染む古いスマホに残されたまま薄れゆく去年の日記

諦めたことを右目に映しだす横顔 海はまだ満ちている

猫も人も夜はひとりだ 身体といのちは別のところで生まれる

冷えきったファスナーぎゅっと上げるとき月もわたしも他人のようだ

春の夜は青い 今でも初恋の呪いに溺れつづけ

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病院嫌い(8首)

病院嫌い(8首)

受付で名を奪われるここちよさ番号札は手首に巻いて

家族には病院とだけ伝えればすなわちレディースクリニックのこと

〈希望しない〉丸をつけたら未婚だと思い込まれてささくれを剥く

雨ですね、と言う先生の表情のひとときにんげんのやわらかさ

服従の椅子の内診 痛いですかって聞かれて痛いって言う

ひび割れても祈るちからはある指でお風呂上がりにピルを押し出す

だんまりの鏡に裸を見せている 見えないも

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まひる野2023.4月号掲載作品

まひる野2023.4月号掲載作品

月の顔

冬ざれのトースター覗き待つあいだ背中が夢を回想しだす

見せたくてきみに写真を撮ったのに目覚めたらまだ回る乾燥機

眉山の毛を抜きながら爪冷えて言われなくても真冬日だろう

古本に染みこむにおい生活の丸ついた歌わたしも好きだな

月の顔に海があるなら吐く息のひとつひとつにカモメを飛ばす

先を行く猫背の影が振り向いて白い喉仏なにかを言った

暗夜 いま母がわたしを産んだころ二十八歳午前二

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