中村育

短歌 ●ni.t2mal112✖gmail.com ●https://lit.lin…

中村育

短歌 ●ni.t2mal112✖gmail.com ●https://lit.link/nkmrik

マガジン

最近の記事

短歌2024.5-6(5首)

砂のふる町の底にてまどろんでいるよう きっと増えない貯金 顔に塗るいくつかのものひとつずつ指で倒して雨を止ませる 使えない万年筆を脊髄にかくして水の流れる5月 枝に咲く花の滅びて新緑の影に吸い込まれゆく呼び声 夕方がどんどん伸びる6月の新婚旅行はひとりで行くね 今年はずっと気ままに一首単位で短歌をつくってきたけど、夏は連作をつくろうかなと思ってる

    • 短歌2024.4(7首)

      春 売った実家に知らない人が住みわたしの過去の灯をひとつ消す 長い髪をなにかの兆しかのように他人は思う 春風 桜 もうすぐに静かになって友だちと呼べないひとと進む自転車 白黒の写真にうつる唇のジェンダー規範を振り払う黒 雪とけてベンチ現る公園を去年とちがう顔で眺める その花を猫から守り美から守りこぼれゆくままゆるす指先 吸うよりも吐くのが得意 背もたれの向こうに見えないけれど海が

      • 短歌2024.3(5首)

        春の雨あるいは濡れた雪が降り並んだ窓にかすかに触れる 彼岸潮 生きる時間が長引けば長引くほどに生きたくなった 明け方の海ならどこでもきれいだろうピアスも入れたピルケース鳴る 3月は変わってしまうバス停に少し生きてるたましい待たせ フィクションにあまたの少女ひかってはきえるこの世に着る服がない 3月につくった短歌たち

        • 短歌2024.2(9首)

          背丈よりおおきな絵画見つめては見つめ返されないこのからだ 瞑想の目を閉じるとき伸びる根が土を分けゆく力を思う 吐く息と湯気が混ざって渦となり春の国まで先に行ってて 十五時のロイヤルホストは満席ではじめて通る道で帰ろう すすきのに雪は汚れて積みあがり夕焼けのないまま夜が来る 雪の影は少し青色 飛行機に乗るなら軽い服を着てきて 名姓の順になまえを裏返すアルファベットがすこし疎ましい 音を立て雪降らす昼 セックスも妊活とよぶ妹よ手を 先祖代々々々のからだ泣かなくて水

        短歌2024.5-6(5首)

        マガジン

        • 短歌
          20本
        • 雑感
          0本
        • 短歌評・感想
          3本

        記事

          結社に送ってた短歌

          まひる野を12月でやめてしまったのだけれど、やめる直前まで原稿を送っていて、会誌にどんな風に載ってるのか載ってないのか確認できないんだけどもったいないから送ってた歌の一部をここに載せます。 2か月分の20首から今気に入ってるのを選んで順番を並び替えました。 声だけが聞こえる鳥の影さがし背伸びの人は遠景のよう 花言葉は嫌い花弁を食い散らすように魚のはらわたを取る そのむかし母は子どもで絵がうまく父に殴られたことがない 恋愛を知らない胸をさらけ出しエコー検査のジェルのひや

          結社に送ってた短歌

          短歌2024.1(7首)

          血液の速さ 春から春までの涼しい朝にうまれる金魚 耳の奥ふかくに水の音がして雷もっと光がほしい いつまでも汚れたままの車窓には雪原、白樺、くすぶる朝日 誕生の記憶は外に散らばって花は散るから綺麗と言うね 大陸がくらげのように漂っていたころに降る雪の白さよ 雪どけの水が樹々から滴って大きな川へ行くまでの日々 光から光まで行く息つぎの深さこんなに遠くまで来た 今月つくった短歌たち

          短歌2024.1(7首)

          まひる野2023.12月号掲載作品

          先週の花火のにおいがするような芝にさんざん雨降りつづく ときどきは裸足の指をさらけ出し彼女は夜へギターを鳴らす 歌声にゆだねてみればシャボン玉みたいに丸く揺れたい身体 一言もしゃべらないまま帰るから身体のなかを響く音楽 二十年生きた昼寝を終えたあと少し鏡を長く見つめる 湯を沸かし湯気ぐらぐらと伸びあがる夢に実家の犬は生きてる 音楽を鼻から聞いているように牛は楽器に顔近づける いくつかのやつれた服を手放して鏡のなかのからだを解く 前半は9月にライブに行ってきたと

          まひる野2023.12月号掲載作品

          短歌2023.12(8首)

          生年を告げずにのぼる階段の二階は澄んだ洞窟のよう 梟の昼のウインク凍りつく道に枯れ葉が埋もれてしまう あおい眼で空を見ているいきものの首の重さを木は受け止めて 輪郭で女と思う身体も寒々とした木からうまれた 地上には無恥の羊はいないからひとつをひとつと数えていい セーターの似合う羆の小さな目そのやさしさの奥の無響は またきみがうまれるまえの星だった尾を振れば振るほど降り注ぐ 木も骨も炭になるまでストーブの音が窓辺に雪を呼び込む 先月末に古川潤さんの個展を見てきました。 ほんと

          短歌2023.12(8首)

          まひる野2023.11月号掲載作品

          波音を聞きたい朝に飼い猫の眠りの深さ確かめている 影ながく伸びるわたしの身体が鳥なら影も鳥だったのに 真夏日の大きな水が見たいのに空を見ている花の憂鬱 地下道の冷気うるわし八月はハデスの息を近く感じる 日記には書かなかったな恋人の爪を間近に眺めたことを てのひらが熱くて眠れない盆会 死を知るまでは死者じゃなかった 命日じゃなくてわたしの誕生日にわたしを思い出してねいつか 何歳でもプラネタリウムは夏に行くうまれる前に闇があるから 8月につくった歌です 「何歳」に

          まひる野2023.11月号掲載作品

          まひる野2023.10月号掲載作品

          絵のなかで枯れている花枯れたまま百年のちも人に見られて ミイラを見るのは暑い時期ばかり汗で目玉やあちこち濡らし 鼻の奥肺の奥まで乾くから触れないものに触りたかった 燃えるほど赤い夕陽を見たこともなくて家屋の潰れたニュース 虫を殺した手から草木のにおいして郷愁(これはわたしのじゃない) 雨音が未練のように鳴っている一夜に青いペディキュアを塗る 過去を映すこころの窓に凭れつつ少しのあいだ指環を磨く 腐りゆく果実の重さ 暴力をしないことを言われていても 「指輪」で投

          まひる野2023.10月号掲載作品

          まひる野2023.6〜9月号掲載作品

          妹は夏の日照りのように立つ指輪をしても同じ名前で 親友のようなブラウス本心を青い釦で隠してくれる 空の写真いちいち撮らなくなっていて同じ時間に同じくちづけ コミュニケーションってなんだ唇をあわせることがなんで特別 絡まったこころ重たく雪どけの道にブーツが果てまで沈む 2023年6月号 続々と血が抜かれゆく 今日風が強いですねと笑いあう部屋 自分の血、見るの大丈夫ですかって嫌でも見慣れてるね女は 看護師はきゅっとくびれが作られたワンピース着て 広いガラス窓 手

          まひる野2023.6〜9月号掲載作品

          まひる野2023.5月号掲載作品

          手あさあさに老人が雪かきをする理髪店まえの濃いアスファルト ベランダに二畳の雪原きらきらとこれっぽっちならメルヘンの国 ただ雪に覆われる街 眠るよりたのしいことだふたり暮らしは 生きるものも死ぬものもない雪の上に掌乗せて手を置いてくる 指紋すらむしばむ手荒れ、わたしの手。きのうの水を喉に流した 足の爪ちぐはぐに伸びていくように正体なんてどこにもなかった パチンコ屋から手をつなぎ出てきたる男女のダウンコートの丸さ 友だちが厳ついリングとかつけて前髪はずっと同じ長さ

          まひる野2023.5月号掲載作品

          最近の短歌など

          なめらか 隣人の郵便受けがはちきれそう濡れた雨傘ゆっくりと巻く 花が咲き花が枯れたらまたちがう花が歩道に植えられてゆく ひんやりと砂時計ひっくり返し秒針のないなめらかなとき 名前のない猫を飼ってた哲学者あすのわたしもわたしだろうか 夜までの長いゆうやみ一万年のちも同じ目で猫はいる 北山あさひさんのフリーペーパー「変幻自在宝島」に載せてもらった連作5首です。 好きな歌と一首評も書いていました。ありがとうございました。 北山さんのブログに1首引用していただきました。

          最近の短歌など

          ホワイト&ブルー(10首)

          見上げればあれが白木蓮なのか頷くようにみんなで揺れて 好きな歌手の好きな歌い方まねしない できない 雪は春でも降るが 手に馴染む古いスマホに残されたまま薄れゆく去年の日記 諦めたことを右目に映しだす横顔 海はまだ満ちている 猫も人も夜はひとりだ 身体といのちは別のところで生まれる 冷えきったファスナーぎゅっと上げるとき月もわたしも他人のようだ 春の夜は青い 今でも初恋の呪いに溺れつづけるように 夢のなかで夢のからだをつくりだす骨のかたちにひらく冠 触れるたび波

          ホワイト&ブルー(10首)

          病院嫌い(8首)

          受付で名を奪われるここちよさ番号札は手首に巻いて 家族には病院とだけ伝えればすなわちレディースクリニックのこと 〈希望しない〉丸をつけたら未婚だと思い込まれてささくれを剥く 雨ですね、と言う先生の表情のひとときにんげんのやわらかさ 服従の椅子の内診 痛いですかって聞かれて痛いって言う ひび割れても祈るちからはある指でお風呂上がりにピルを押し出す だんまりの鏡に裸を見せている 見えないものは忘れていたい 受け入れる からだからそうなっている 月をスマホのまんなかに

          病院嫌い(8首)

          まひる野2023.4月号掲載作品

          月の顔 冬ざれのトースター覗き待つあいだ背中が夢を回想しだす 見せたくてきみに写真を撮ったのに目覚めたらまだ回る乾燥機 眉山の毛を抜きながら爪冷えて言われなくても真冬日だろう 古本に染みこむにおい生活の丸ついた歌わたしも好きだな 月の顔に海があるなら吐く息のひとつひとつにカモメを飛ばす 先を行く猫背の影が振り向いて白い喉仏なにかを言った 暗夜 いま母がわたしを産んだころ二十八歳午前二時すぎ

          まひる野2023.4月号掲載作品