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外国の子どもたち(と、その親)が、現在の日本で置かれている現実

私は愛知県にあるNPO法人にわとりの会で、外国につながる子どもたちの学習支援をしています。

どういうきっかけでこの活動をすることになったかは、以前の記事にも書いていますが、今日は漢字カードやNPOのことではなく、子どもたちの置かれている現状について書こうと思います。

中学生とレディースクリニックの前で待ち合わせ

小学校で外国人の子どもたちの担当になって間もない頃、私の勤める小学校を卒業生した中学生の子と、あるレディースクリニックの前で待ち合わせることになった。

「望まぬ妊娠をして困っている」という彼女から相談を受け、付き添いとしてそのクリニックで落ち合うことにしたのだ。

卒業してしばらく経つ小学校の先生に同伴で来てもらう、という事実だけでも、その子がどういう状況に置かれているか想像がつく。

待ち合わせのその日、彼女は1時間待っても来なかった。

「ああ、やっぱり来ないんだな。」

こういうことは一度や二度ではない。けれど、決して慣れることはない。

望まない妊娠と私の授業のあいだに直接の関係はないけれど、自分は無力なんだという気持ちに苛まれる。

クリスマスプレゼントを楽しむ子どもたち

警察署、駅の改札

小学校教師を定年退職し、NPO法人の代表としての活動に慣れた頃、私はとある警察署で面会をしていた。

面会の相手は、私の開催する日本語教室に2回ほど参加した人。「暇で仕方がないので、本を差し入れてほしい。」という。 私は本を差し入れた。

しばらくしてその人は釈放され、仕事を探すためにどうしても携帯電話が必要だといってまた私を頼ってきた。一緒に携帯ショップに行き、手に入れた携帯を使って職探しをした。

その人は何度も仕事を変えたが、どの仕事も続かなかった。それから数ヶ月が過ぎた頃には連絡も途絶え、あとから県外に行ってしまったことを知る。お金も返ってこないままだ。

定期テストに向けて必死で学ぶ

別の人。

「僕、どうしても今の仕事が 合わないんです。そっちに帰りたい。でも、お金がない、、、。」

「わかった。 A駅の改札口のところでお金を出すから、そこまでいらっしゃい。」

そんなやり取りの末、彼は地元に戻り、高校に戻り、仕事を見つけて3日ほど働いた。しかし、4日目に「頭が痛い」といって、仕事に行かなかった。

そして、その数日後、行方がわからなくなってしまった。

こういうことも一度や二度ではない。しかし、他にどうすべきだったのだろう。

親も困っている

なぜ、小学校教師として少しの間だけ縁があっただけの私が、彼ら彼女ら(みんな10代中盤〜20歳ぐらいまで子どもたちだ)の人生にこんなに深く関わらなくてはいけないのか。

それは、この子らの親たちが自身の生活で精一杯で、子どもたちを顧みる余裕がないからだ。

外国につながる子どもは困っている。同時に、親も困っている。


何とか心を通わせたい

親はたいてい長時間労働で、そもそも子どもと触れ合う時間が少ないことがほとんどだ。子どもは慣れない言語や環境に囲まれて、自分の世界は限定的。さみしい。さみしい子ども同士が近づく。わるい誘惑もつきまとう。男女の場合は早すぎる妊娠など、次の問題を引き起こす。

子どもたちは義務教育を終え、親身になってくれる大人を失う。

なんだかんだと言っても義務教育の間、子どもたちは制度に守られている。しかし、中学校卒業のあと、家庭に問題がある子ども、親とうまくいっていない子どもは、あてのない状態で家を飛び出してしまう。すぐに持ち金がなくなり、法律に反する行為に手を染めたりする。友達の家に転がり込んで、ろくなものは食べない。学習言語を身に着けていない状態では、まともな考えは浮かばない。悪循環の連鎖が待っている。

無軌道な生活。自分を傷つけ、人も傷つける毎日。

なぜこんなことになってしまったのだろう。
どうしたら防ぐことができるのだろう。

思いを伝え合う言葉を持たない家族。 自分を責め、親を責める。そして、やってしまったことに後悔する。

大きな問題が起こってからやっと真摯に向き合う家族もあれば、向き合うきっかけを持たず、バラバラになってしまう家族もいる。

子どもたちは居場所を失い、浮遊し始める。そして、ドロップアウトしていく。

危機は3度やってくる

この負の連鎖を断ち切りたい。私に何できるだろう??

そう思って作りはじめたのが、「音が出る漢字カード」だった。

自分の思いを伝える言葉を獲得させること。
人間は言葉で思考して、認識が行動に移り、世界が広がっていく。

はじめからやる気のない子どもはいない。

親の文化・言葉と日本の文化・言葉の2つの間で揺れる子どもは何度も危機的状況に出会う。

たとえば、小学校の中学年で来日した場合。
多くの場合、危機は3回やってくる。

  1. 来日直後 何も分からない、自分は本当に馬鹿になってしまったのかと悩む

  2. 来日3ヶ月ごろ 日常会話は分かるのに、勉強についていけない

  3. 来日3年目 こんなに真面目に3年も勉強しているのに、ちっとも成績が上がらない。(学習言語を習得するには5年〜7年はかかる)

子どもだけでなく、親も焦る。継続的な支援者がいない場合、子どもの成長を諦めてしまうことも多い。

悔やんでも何かが変わるわけではないから

子どもたちの親は、こうして日本に呼ばれてくる。

「日本で働きましょう。家を用意します。日本語ができなくても通訳がいます。子どもさんの学校の手続きは私たちが手伝います。」

その言葉に嘘はない。確かに住むところはあるし、子どもの入学の手続きはしてくれる。

しかし、その子どもがしっかり社会の一員になるための長い年月のフォローはしてくれないのだ。

「残業いっぱいしてください」といわれ、必死で働いていた親は、ふと気づきと自分の子どもと心が通じない。心が通じないどころか、言葉も通じない場合も少なくない。子どもが日本語で、親が母国語。心を通わすための共通の語彙が足りていないからだ。

母国と日本の学習進度の違いに苦しみながらも学び続ける

中学3年で進路を決めるとき、通訳がいないと親子の会話が成り立たないという話は決して珍しくない。

誰が悪い? 何がいけなかった?

自問自答する親。でも、考えたところで、何かが変わるわけじゃない。親も一生懸命生きてきたのだ。

私は小学校で外国につながる子どもたちの担当になってから、彼ら彼女らの人生に向き合いながら、自分にできることを考えつづけた。

私だからできること、限られた時間でできるもっとも効果的なこと、それは何だろうと考えた末に、現在でも使っている「音の出る漢字カード」に行き着いた。

少しでも子どもの学力をつけたい。 考える力と思いを伝える力がつけば、かわいくてしなやかなあの子たちは、きっと自分の人生を切り拓いていけるはずだから。

その思いだけで、漢字カードの着想を得てからこれまで突っ走ってきたのだった。

この記事で挙げた3人のその後について、またどこかで書きたいと思います


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