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漢字カードに込めた思い。 外国にルーツのある子どもたちに重要な1,2年の漢字を楽しく教えたい!

なんか違う。こんなに多くの子が、小学校2年生の漢字を

クリアできない。

外国ルーツの子どもに漢字を教えるには、何か工夫が必要なのかもしれない。
こんな思いを持ったのは、小学校の教師になって27年たった2008年。私はこの年、初めて、外国にルーツのある子どもたちに漢字を教えることになったのです。

今まで高学年の子どもに漢字を教えるのに苦労したことはあっても、2年生の漢字を教えるのに苦労することはなかった。何が違うのだろう。

外国にルーツのある子どもたちが、2年生の漢字が読めないままなら、この先の学習についていくのはほとんど無理なので、私はなんとしても2年生までの漢字は身につけさせたいと思うようになりました。何が原因なのだろう?そしてどうすればいいのだろう?この子たちを目の前にして、悩んでいるうちに、どんどん日々が過ぎていきました。そのうちに、次のようなことに気づきました。

原因
1    そもそも、その言葉を知らない。
2  一つの漢字に音読みと訓読みがあるので混乱している。
3   画数が多いので、見たくない、書きたくない。

このようなことを考えているうちに外国人担当としての1年は終わり、2年目の4月、私は10人の外国にルーツのある新1年生に日本語を教えることになったのです。<詳しくは前回のnoteをご覧ください。>

悩んでいる時間はなく、どんどん日々が過ぎていきました。

1日に一つだけでもいいから漢字を教えようと思い、
私は、A4の紙を8つに切って、漢字を大きく書き、その漢字の意味するイラストを描き、1文字1文字ずつマンツーマンで教えていくことにしました。

幾分指導しやすくなったが、また、困ったことが起こった。

中国人のリンちゃんへの対応です。リンちゃんは中国語の音しか理解できないので、日本語の日常会話もままならない。漢字どころか、「あいうえお」を教えるための「あり」とか「いし」とかの言葉も通じないのです。

そこで、わたしは苦肉の策を思いつきました。

中国語の通訳さんが来たときに、1単語を1つの音声ファイルにして、パソコンのデスクトップにずらりと並べてもらっいました。
「けむし」のファイルをクリックすれば、「マオマオチョン」と音声がなるという仕組み。50音は何とか教えたけれど、、、、。
この先の学習のことを考えると暗澹としてきました。

一方、スペイン語で子ども用アニメを見ているマリアちゃんは、スペイン語を交えた漢字の学習が楽しそう。

このカードにはやっぱり、その子たちの母語を書いた方が絶対いい。でも、この子たち、母語を読むことはできないのだった、、、。

せっかくの母語も音声がなくては、あまり役立たないことに私は気づき、どうしたものかと思うようになりました。

この間、フィリピン語しかできない子や中国語の音しか分からないリンちゃんのために「だいすき日本語フィリピン語」「だいすき日本語中国語」も作ったのです。相手の国の言葉がなんとわかるように「こんにちは」には「マガンダン ウマーガ」「ニィハォ」とふりがなをつけてみたのです。

これがまた、大変でした。そもそも外国語に日本語でふりがなをつけるなんで、無理な話だったのですが。修正に次ぐ修正。次に、教材を作るときには、音の出るものにしたいと思うようになりました。

さて、そんな日々を送っているうちに、私はA小学校での外国人の担当を離れ、M小学校に転勤となりました。修正中の「だいすき日本語フィリピン語」「だいすき日本語中国語」の冊子を抱えて、、、。

論文書いたら、30万円、助成金がもらえる!

転任先では2年生の学級担任でした。日本人の2年生の子どもはちょっとした冗談も通じます。みんな漢字もどんどん覚えていきます。「ああ、楽だ。日本人に日本語を教えるのは。」と心の中で私はつぶやいていました。

しかし、A小学校に残してきた外国にルーツのある子どもたちのことが気になっていました。仲良し通訳さんから、残してきた子どもたちについての相談もありました。「このまま、日本人の子に漢字を教えているだけで、いいのかなあ。」という思いが時々私の頭をよぎります。

そんなとき、M物産の社会貢献部のSさんから、こんな情報が来たのです。

「学校の教員が論文書いたら、30万円、助成金がもらえるかもしれないよ。」

「おお!これだ。この資金で漢字カードを作ろう!」と思い、応募したのです。そして、運良く、助成が決まりました。

1年生の漢字80文字の漢字カードを作ろう。
一つの漢字に1例文、音読みと訓読みが入った例文を作ろう。
カラーのイラストもつけよう。
音声が出るようにしたいな。

わたしは張り切って準備を始めたのです。

「音声はそれぞれのカードに磁気テープを貼ることにしよう。でも、結構大変だな。何かいい方法はないかな。」そんなことを思っていたところ、「障害児教育」という雑誌の中に「音声ペン」を使った指導のことが載っていました。
 
「これを使ってみたい!」と思い、このペンを作っている会社に問い合わせてみました。本来はとても高価なものだったのですが、ダメ元で、事情を説明すると、「教育利用なら、格安で、使うことができる。」ということになりました。
 
よかった!と思い、例文を作っていると、
「あれ、やっぱり1年生の漢字だけでは足りない。2年生の漢字もないと、

漢字は部品の組み合わせで成り立っているということが教えられない。やっぱり2年生までの漢字カードを作ろう!と思うようになりました。

このような経緯で、漢字カードの枚数は80枚から256枚に増えたのです。

一番苦心したことは、「漢字をどのような順番で並べるか」

製作の過程の中で、一番苦心したことは、「漢字をどのような順番で並べるか」ということでした。外国人の子どもたちにとって、どんな順序でおしえるのがいいのかなあと、考えに考えました

その結果、部品の画数順に並べようと思うようになりました。例えば、二画の漢字には「二」「人」「八」「入」「十」「七」「九」「力」「刀」があります。あの子たちは「人」と「入」や「力」と「刀」で困っていたことを思い出しました。

「力」の後に「助」「刀」の後に「切」を提示することにしました。何回も何回も並べ直して、やっと確定したのが、今の漢字カードの並び順です。

「土」と「士」は違う!


「声」という漢字は2年生の漢字です。この漢字の上の部分を「土」と書いてしま宇子が多い。この間違いを防ぐには「土」と「士」は違うということも教えなくてはいけない。

そこで、「士」は4年生の配当漢字ですが、これもこの漢字カードセットには入れることにしました。そのため、1年生の漢字が80文字で2年生の漢字が160文字の合わせて240文字なのですが、それ以外の学年の文字も入れ256文字となったのです。

音を出す音声ペンは、紙に印刷された細かいドットコードを読み取るもの

 「イラストも完成、音声も完成!さあ、印刷だ。」ということになったのですが、ここからがまた大変でした。音声ペンは、紙に印刷されたとても細かいドットコードを読み取るもので、精密印刷用のコピー機でなければ印刷できないものでした。何度も紙を無駄にした末、やっと音が出たときは本当にうれしく思いました。

 このような経緯で1、2年漢字カードの表面はでき、裏面もSVP東京のみなさんの応援を得て、完成させることができました。

ある日、これを外国人が集住している団地のボランティア日本語教室に持っていくと、4年生ぐらいのブラジル人の男の子が「これがあったら、僕も漢字覚えられるだろうな。でも、無理。きっと高いんだろうな。」というのです。私は嬉しさ半分、悲しさ半分の複雑な気持ちになりました。「大人たちより、この子はこの漢字カードの価値を分かってくれた。でも、自分たちにはきっと手の届かないものだと、もう諦めている、、、。」
 
こんなことがあって、私は漢字カードを作るだけでなく、必要としている子どもたちに届けなくてはと考えるようになりました。その日、もちろんその漢字カードは、その教室に置いて帰りました。その教室は、大学生がボランティアで行っている教室で、その後、渡したカードのことやその男の子がどんな成長遂げたかは分からないのです。

あれから、10年。多くのボランティア教室に漢字カードを寄付してきました。学校など教材費が確保できるところには購入もしてもらいました。平均1年に10団体に寄付してきました。1つの教室に10人子どもがいれば、1000人の子どもが触れたことになます。
 
教師生活30年の思いとノウハウを詰め込んだ漢字カードですが、その意図がちゃんと伝わっているかどうかと思うようになり、漢字指導インストラクターコースも行うようになりました。
 
にわとりの会への問い合わせには、今も「購入したいが資金がない。」という相談も寄せられています。コロナ禍で私が実際に出向いて講演する機会が減って、漢字カードの売れ行きも落ち気味です。

外国人の子どものために作ったこのカードが必要な子どもにちゃんと届いているのだろうかという思いは消えません。

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