【仕事】ゲーム開発という行為の誤解を解くため、業務形態を細分化して説明します その4 UIを発明する ゲームの仕事を単純化して説明
ここまで、
(0)ゲームは捨てられる
(1)ルールを作る
(2)体験時間軸を設計する
ということを説明してきました。それぞれに飛べますので、もしこの記事からご覧いただく際、お時間があれば過去記事もお読みください。
(3)UIを発明する
今回、ラストの(3)UIを発明する、です。発明するのです。タイトルごとに。これは大変そうだ。
この作業は一度やればおしまい、というものではなく、タイトルやサービスごとに最適なものを毎回作っていく作業になります。もちろん、続編や設定を横展開した場合、類型化が進んだジャンル、などではスクラッチから作らなくても良い場合もあります。
↑こんなにボタンがあるので大変↑
しかし、続編においても必ず前作で出た不具合や積み残しを改善していくことはするので、決して楽にはならない作業です。
このメニューでは、この(1)(2)の作業に連携する形で、それを快適に操作するUIを作る、ということを説明していきます。
(3)-1 スクラッチとテンプレ
これまで説明してきた2つの条件を達成するためには、最適なUIがセットになっていることが重要です。
このUIは、タイトルごとに基本的には作られますが、逆に「テンプレ通りが望ましい」というものもあります。
例えば、十字ボタンの操作で、上を入力したらキャラが下に進む、などの実装をすると、恐らく多くのプレイヤーが混乱するでしょう。それがどの程度そのタイトルに必然性があるか、ということを考える以前に「普遍的に通用している操作ルールは継承すべき」ということを抑えるべきです。
例えば、縦に並んだメニューをしばしば使うようなゲームで、かつては2種類の方法論がありました。
一番下にカーソルがあり、さらに下に入力を進めた場合、
①止まる
②一番上にジャンプする
というものです。今はループする、という表現の仕方で②が一般的ですが、かつては概念的にポイントがジャンプするのは直観的ではないという理由で①を採用することも多々ありました。
これが概念的な飛躍があっても②が増えた理由は、「利便性」です。これが浸透すれば、ジャンプという違和感を利便性が超えたことになります。
こういった、「多くのユーザーが期待していること」の再発明は行わず、タイトルに必要な部分を考えることが、「タイトルごと」に行われているのです。
この多くのユーザーが期待していること、について詳しく説明します。
(3)-2 テンプレの意味するもの
ゲームを遊んでいる風景を想像してみてください。ほとんどのシーンでプレイヤーの視線は画面を見つめています。操作をする手元を見ていることはほとんどありません。
プレー中に一度も手元を見ないことの方がむしろ普通。
この文化はある程度の時間をかけて整理されてきた結果とも言えます。またそれほどある程度、がそれほど長時間かからずにテンプレートとして成立した理由は、ゲームが徹底的に「面倒くさい」を排除する傾向にあり、常に最短距離で利便を追求してきたから、ということでしょう。
(3)-3 ハードの発展でUIも変化
テンプレも出来上がり、みんながコントローラーに慣れた頃、またまた試練がやってきます。
コントローラーが変わるのです。
変わる理由は様々ですが、
ある操作をしたいが今まで出来なかった
が一番です。じゃあやればいいじゃないか、ということで、どうしても必要ならば、タイトル特有のコントローラーを作ってしまうこともあります。
↑これとか。もう基本コントローラーでは表現できない事をやってもらうため、「それしか」使えないコントローラーを付属させるもの。
しかし、これは、製品価格が上がるため、よっぽど必然性があるか、勝算がなければ手を出せません。
昔は変なのがいっぱいあったのですが、それはまた別の記事で。
なので、コントーラーが新しく提案されるためには、経済的な理由も関係します。デバイスが安くなる、などもその理由。
ジャイロセンサーが安くなった頃にWiiのコントローラーが出てきたり。
そうなると、それまで無かったテンプレートを作らないといけません。
またまた大変です。
(3)-4 しかしハードより内容
新しいコントローラーができたとしても、無理矢理新しい機能を使うのはあまりサービス上はいい結果を産まないこともあります。
あくまでも総合的に必然性があること。
例えば、十字ボタンが、360度の入力ができるジョイスティックに変わった!となってテトリスをそれで遊べるようにすると、微妙なコントロールを要求されて、遊びにくいものになる恐れがあります。
もう一度まとめ
何回かの記事で、ゲーム屋さんはどんな仕事をしているのか?というのを解説してみました。
まとめると、
(1)ルールを作る
(2)経験時間軸を設計する
(3)UIを発明する
をやってることになります。それぞれは相当地味に緻密に作らないと、それぞれの要素で破綻する事はお分かりいただけたかと思います。
こんな面倒な事をするにはもちろん理由があります。
では、目的はいったいなんでしょう?
もちろん、ゲームの中身にいちはやく集中してもらうため、余計なことにエネルギーを使わせたくないから。
これをまとめるなら、
飽きさせない
迷わせない
脱落させない
でしょう。これに中身です。楽しい体験を作り、遊んだ満足を得てもらう。
それで、続編や自分の会社の別の作品を買ってもらう。
ユーザーのための頑張りがビジネスの数字に直結するのです。そりゃー頑張るところです。
全てのサービスフローに有効
もう一度ゲーム屋が手掛けている3つの作業を見てみましょう。
(1)ルールを作る
(2)経験時間軸を設計する
(3)UIを発明する
これは、実は世の中の全てのサービスで行われていること、そのものなのです。
クレジットカードの申し込み、健康診断の登録、料理ができるようになるまで、徒競走で速く走るプロセス、ピアノを上手になるための行動・・・
全く異なる分野でも、これらの要素が共通するのは実は当たり前です。
それは・・・
ゲーム屋はゲームを設計するのではなくプレーヤーの体験を設計している
からなのです。普通に、ゲーム、の部分をどの分野でもいいので置き換えてみてください。もちろん、それを設計するのはゲーム屋ではありません。農業だったら、先輩農家のベテランさんが設計して教えていることでしょう。車の整備だったら学校で習ってさらに先輩整備士が教えているでしょう。
ある分野の人が必要なプロセスを設計することは、どの分野でも行われています。
ゲーム屋が少し違うのは、ゲームが取り扱う題材が異様に広い、ということがあります。
中世ヨーロッパ風の世界で魔法と剣でお姫様を守っていたかと思ったら、次のプロジェクトではいきなり髭のおじさんがジャンプして進むゲームを作ったりします。また、サッカーの経営者になるゲームを作ったり、競馬馬を育てることも。はたまたやったことがないウィンタースポーツを題材にすることだって。
そのたびに、その分野の「ユーザーから見た共通項」を一生懸命勉強して、実装するのです。
もちろん、その分野の「根源的な技術や知識」が専門家にかなうはずはありません。
でも、「ユーザーから見た」というのがポイントなのです。得られる知識や技量は違っても、「情報の無いユーザーがだんだん理解していくプロセス」の設計の専門家が、ゲーム屋なのです。
ユーザー経験設計の専門家
なので、操作や習得に関する設計はできますが、超冒頭に出したように「ゲーム屋がなんでも解決できると思ったら大間違いだからね」は真実です。
なんでも解決はできないのです。
専門領域は専門家でしか構築できません。あくまでもゲーム屋は万能なのではなく、「情報の足りないユーザーがだんだんはまる」関与の部分を設計する専門家なのです。
ということで、専門家+ゲーム屋=最強のサービス作りのチーム!と言い切りたいのですが、謙虚に「お役に立てる可能性がかなり高い」としておきます。
追加:
ここまで書いてみたものを、Kindle書籍にしてみました。内容も少し見直してあります。
まだまだ色々と書きたい記事もあります。金銭的なサポートをいただけたら、全額自分の活動に使います!そしたら、もっと面白い記事を書く時間が増えます!全額自分のため!