ラストサマー

毎日更新57日目。

暑い。

夏真っ盛りである。

気付けば7月も21日である。

うかうかしてたら、夏が終わってしまう。

いやまあ、終わってもいいんやけども。

おじさんが夏に何を期待してんねんって話やけども。

基本的に僕は夏が来るたびに「忘れられない夏にしたい」と思ってしまうのである。

ほら。

2年前もこんな事言ってる。

結局この夏は「無職の夏」になっただけやったけど。

ある意味忘れられない夏になったけど。

とにかく僕の中では夏は特別なものとしてインプットされているのだ。

ちなみに僕は暑いのは好きではない。

むしろ嫌いである。

どっちかと言えば冬の寒さの方がまだ好きである。

では何故こんなに夏に想いを寄せるのか。

おそらくこれは友人の影響である。

僕の高校時代からの友人である、めちゃくちゃ変な人"変人"が夏に対して異常な思い入れを持っていたのだ。

学生時代、変人は毎年夏が来るたびに並々ならぬ決意を僕達に話していた。

彼女を作って、遊びまくって、最高の夏にすると。

僕はすっかりそれに影響を受けてしまい、それが未だに続いてるのだ。

変人は夏が来ると毎回

「今年こそはラストサマーにする」と決意表明をしていた。

ラストサマー。

変人が言い出した謎の言葉。

直訳すると最後の夏。

でもたぶんそういう意味ではない。

おそらく「特別な夏」みたいな意味だったのかもしれない。

何がラストなのかは全く分からないが。

とにかく、いつしかラストサマーは僕達の中で夏への期待を象徴する言葉となったのだ。

ちなみに変人には僕以外に頼れる仲間がいた。

周りからウッズと呼ばれるタイガーウッズに似た小柄な男である。

変人とウッズはいわゆるナンパ仲間だった。

ただナンパ仲間と言っても実際にナンパした事はほとんどなく、ナンパ出来そうな場所に2人で出かけ、他の男達がナンパしているのをじ〜っと眺める、というのがお決まりのパターンだった。

ナンパ出来そうな場所に行く仲間、略してナンパ仲間である。

このように変人はラストサマーを合言葉に、時にウッズを引き連れ、時に一人で、毎年夏に挑んでいたのである。

その闘いの一部を紹介すると

・ウッズと共に一泊2日のナンパ旅行に出かけた変人。1日粘ったもののナンパは出来ず、疲れから2人の雰囲気は険悪になる。さらに民宿で寝る際に変人がウッズのメガネを踏んで割ってしまい2人は絶縁。怒涛のバッドエンド。

・変人の家の車をウッズが運転して海にナンパしに行こうとした2人。海にたどり着く前から2人のテンションは爆上がり。「夏の日の1993」を大声で熱唱する。とその瞬間、ガリガリガリっとウッズが変人の家の車の両サイドを思いっきり擦ってしまった。海を目の前にしての惨劇。しばらく沈黙した2人は何故か海には行かずそのまま京都に引き返して絶縁。驚愕のバッドエンド。

・ウッズに彼女ができ、散々のろけ倒された事にブチギレた変人。「夏最高やし！」という謎の捨て台詞をはき、スクーターに乗って逃走。そして絶縁。もはや安定のバッドエンド。そしてウッズは付き合った直後に屋久島一人旅に出るという謎の行動をとり、帰ってきてすぐフラれる。こちらもバッドエンド。

・ウッズを失った変人は何故か海ではなく山のリゾートバイトに1人で出かける。もちろん夏の山に変人が期待するようなメンバーがいるわけもなく、100キロ超級の女子柔道選手、全身タトゥーのお兄さん、変人、というおもしろ3人組でバイトする事になってしまう。結局変人は1日で下山。電光石火のバッドエンド。

・結局復縁した変人とウッズの2人は今度はクラブに出かける。クラブに入る前、ウッズがポケットからガムを取り出して変人に差し出し「エチケットや」と言ってニヤリと笑う。クラブに入りウッズはバーテンのお姉さんに「この店で1番強い酒を！」というとんでもなく恥ずかしいセリフを言い、結果ジーマを出される。そしてその後はナンパする男達を尻目にクラブの隅の方で誰に声をかけるでもなく2人座る。ウッズがナンパしてる男を見て変人に「見てみい。あんな男でもいけるねんで」と渾身の負け惜しみを繰り出してこの夜は終了。静かなるバッドエンド。

壮絶。

まさに壮絶な闘いの歴史である。

このように変人はラストサマー目指して壮絶な闘いを繰り広げていたのだ。

ウッズとはラストサマーのために少なくとも3回は絶縁している(毎回すぐ復縁)

そんな姿を側から見てた僕はいつしか自分もラストサマーを意識するようになったのだ。

あれから十数年。

この前変人と電話した時、どちらともなくラストサマーという言葉が出てきた。

2人ともまだ忘れてないのだ。

未だにラストサマーを意識しているのである。

僕達のラストサマーはいつか叶うのだろうか。

いつまでラストサマーと言い続けるのだろうか。

そもそもラストサマーって何なのだろうか。

その答えはまだ誰も知らない。