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2018年5月福島、浪江駅前<終>

<続き>

浪江小学校は閉鎖中だった。時間があれば周囲を歩いて、開いている場所から中に入ってもいいが、さして時間もなく疲れもあったため、そこまでは踏み込まなかった。

玄関が見渡せる場所へ。中は綺麗に掃除されているようだ。

校庭は荒れていた。定期的に除草はしてるだろうが、雑草はたくましい。

こんな風景はそうそう見れるものではない。

0.133μSv/h。駅前の小学校でありよく除染されているのだろう、比較的空間線量は低い。しかし首都圏ではほとんどが0.05μSv/hだということを忘れてはならない。震災前と比較すれば3倍以上。そして土壌汚染については調べてもいない。

健康被害があるかどうかという観点だけで物事を見ると、それは事故の矮小化に繋がる。大切なのは、平和だった日常に放射能がばら撒かれ、それを意識しなくては生きていけなくなったこと。何かと言えば「風評」というが、これは風評ではない。目に見えなくとも今そこにある「実害」なのだ。

小学校を後にし、浪江神社に向かう。

ブルーシートが痛々しい。盗人の破壊か野生動物の侵入か。

地震で傾いたまま。

とぼとぼと浪江駅へ向かう。

廃棄されたバイク。おそらく震災後からそのままだ。

ブロック塀も崩れたままだ。内堀知事、これは復興したというのでしょうか?

駅前のスナック。震災前は行きつけの人も多かっただろうけど。

棒のようになった足でとぼとぼと浪江駅へ到着。16:28発の富岡行き代行バスまで40分ほど時間があるので、もう少し駅前を徘徊する。

駅前の西病院。

2015年2月の記事
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2015/02/post_11589.html

裏側に回ってみて驚いた。病院が沈下している。

放射能汚染は言うまでもなく、病院がこれでは業務再開など出来るわけがない。これだけの規模の病院を取り壊し、仮設診療所を作ったところで、帰還者が数百人では営業など出来るわけがない。

駅前のモニュメント。

モニタリングポスト。
これさえ「風評」と言い、撤去を主張する人間は頭がおかしいのではないか。まともな判断力を失っているとしか思えない。そもそも、ここに表示されている数値「0.236μSv/h」も、福島県外であれば立入禁止で除染しなければならないレベルだ。

イデオロギーに関係なく、福島県内だけ法の基準が違うことの異常性に気付かなければいけない。これこそが「福島差別」だと思うが、「放射能安全」を主張する人々はこのことには触れない。

…缶コーヒーを飲みながら、この2日間を振り返った。

帰りの代行バスに乗り、帰途へ就く。帰還困難区域通過中は最高3.45μSv/h。雨が降り出したせいか、行きよりも高い数値が出た。もはや1μSv/hでは驚かない自分がいる。写真はそんなに撮らなかった。それよりも考え事をしていた。

富岡駅に着き、いわき行きの電車に乗り換える。

帰りの電車もなぜか特急列車。
マニアを呼び込むためだろうか…

いわき駅でコインロッカーから着替え等の荷物を取り出し、本格的に帰途に就く。

双葉に取材に行く際はいつもいわきが拠点になる。しかしそのいわきも、除染が終了し作業員等が広野や楢葉へ移った影響で、様々な店の閉店が相次いでいる。

原発事故はまだ終わっていない。今も福島第一原発からは少しずつ放射性物質が漏れ続けている。そして様々な生活面でも、次々と問題が可視化されていくだろう。時が経ってから顕在化し、いつも後から慌てる。人は学ばない。

今回の取材の成果、アウトプットは、これからの1ヶ月、3ヶ月、そして来年3月に向けて生かすことが出来るだろう。今回の取材は、1人で徒歩で歩いた割には、かなりのものが見れたと思う。

…そして今、僕はかなり怒っている。東日本大震災という天災については、怒っても怒りようのないものかもしれない。しかし原発事故は防げたものであったことが裁判でわかりつつあるし、仮にあれだけの規模の天災に遭った以上事故がやむを得ないものだとしても、その後の対応が余りにも酷すぎた。国も東電も、そして我々国民も。
今回、記事を書くにあたって、ネットで調べ物をして出てきたのは、「心の復興」「絆」等々、まるで戦時中を思わせるような精神論の数々だった。行政は精神論を煽り、面白いことに、普段から「科学」を言い募り、自主避難者や不安を抱え保養を利用している人々を批判、いや誹謗中傷している集団に限ってその精神論に酔っている。異常としか思えない。

東日本大震災後の日本は、戦時中と同じなのかもしれない。だからこそ社会そのものが不寛容になっている。恐ろしい世の中だと思うが、闘うことが昔からの性分である僕は、改めて、時流に抗って福島の今を表現していきたいと強く思った。気持ちだけじゃなく、それに見合うだけの技術も磨かなければいけないけど。

<終わり>

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