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本を語ろう ー 本との関係について ー


本についての思いはきっと人それぞれ。好きな人もいれば苦手な人もいる。

読書という趣味があるということは幸せで、本を読んでいれば孤独ということはない。

しかし、本以外からもたくさんのことは吸収できるし、魅力的な趣味は他にもたくさんある。
読書にこだわる必要はないかも知れない。

それでもあえて今回は、本はいいですよ、という話をしてみたい。

本好きの人に共感してもらえればうれしいし、苦手だった人が一冊読んでみようかと思ってくれたらもっとうれしい。

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作家の司馬遼太郎さん(1923ー1996)は随筆「二十一世紀に生きる君たちへ」の中で「私には、幸い、この世にたくさんのすばらしい友人がいる。歴史のなかにもいる。そこには、この世では求めがたいほどにすばらしい人たちがいて、私の日常を、はげましたり、なぐさめたりしてくれているのである。だから、私は少なくとも2千年以上の時間の中を、生きているようなものだ」と述べている。


司馬さんには、この世だけではなく2千年以上の時間の中にも友人がいて、このすばらしい友人たちが、はげましたり、なぐさめたりしてくれる、という。

これは司馬さんだけに与えられている幸運ではない。
私たち一人一人にも2千年以上の時間の中から友人を見つけるチャンスが与えられている。

司馬さんは約6万冊の本を所蔵していた。

その内の2万冊が、大阪府東大阪市の「司馬遼太郎記念館」に展示されている。司馬さん所蔵の本は現在は展示されているだけで読むことはできない。

手に取って文字を読まなければ何も伝わるはずがないのに、書架に並ぶ2万冊の本は多くのことを私たちに語りかけてくれる。

本に圧倒される場所である。

本は不思議な力を秘めている。
6万冊を手にした司馬さんには、どんな友人がいたのだろうか。
想像の域をはるかに超えている気がする。


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私自身、両親が遺した本を片付ける機会があった。

比較的新しい本もあったが、変色して埃をかぶりその役目を十分果たした本がほとんどだった。

それらを片付けながら本について考えた。


色褪せた本は過去のものという気がした。

しかしながらその本を選び、読んだり考えたり心を動かしたりした当人にとっては、決して色褪せることのない宝物だったと思う。

雑誌は発行順に並べられ、専門書には付箋がわりの紙片が挟みこまれていた。
小説の類は所々頁の角が折れている。


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生前の母に何かを相談すると、結構的確な答えが返ってきた。

「年の功」と思っていたが、遺された本を見ていて「年の功」だけではなかったと感じた。

読書する姿はよく見たが、何を読んできたのかを気にしたことはなかった。

しかし古い本をパラパラとめくってみると、この本を読みながらそこに書かれている一つ一つの内容を心の糧にしながら生きてきた人の気配を感じた。


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一言で本といっても様々である。

知識や情報を得るための本もあれば、読むこと自体を楽しむ本もある。どちらも必要でありどちらも価値がある。

読み込まれた専門書にはその時代の新しい情報や知識が詰まっていただろうし、流行作家の本には日常の煩雑なことを忘れさせてくれるようなストーリー、時代を映し出す登場人物や物事の機微も描かれていたことだろう。

歴史小説は、著者が命を吹き込みよみがえらせた歴史上の人物と出会える。


母の人生は、時代背景もあり決して恵まれたものではなかったかも知れない。

しかし、本を手に時を忘れて読んでいた姿を思い出すと、きっと幸せな人生だったと確信する。

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最近は近所の本屋さんが少なくなり、ふらっと立ち寄った店先で偶然手にした本を買って帰り気づいたら愛読していた、という経験が減ってきている。

大量の情報源から情報を得てめあての本を手に入れることが多い。
本との出会い方は時代によって変化していくだろうが、偶然の要素は多い。

本と出会うということは著者と出会うということである。
本の向こう側に著者がいる。

読むことによって著者の思考過程をたどったり、自分とは違うものの考え方を知ったりすることができる。

様々な生き方を知ることもできる。
著者の体験を追体験したり、時間を越えて著者や登場人物と友人になることもある。

読むこと自体が心の安定やストレス解消につながり、仕事や日常のヒントをもらえることもある。


知識や語彙が増える。
論理的に書かれた文章を読むことで、読解力が高まり脳が活性化する。
視野が広がる。
そして何よりも心の成長を助けてくれるものではないだろうか。

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司馬さんは随筆の中で「鎌倉時代の武士たちは、「たのもしさ」ということを、大切にしてきた。人間は、いつの時代でもたのもしい人格を持たねばならない。男女とも、たのもしくない人格に魅力を感じないのである」と述べている。

鎌倉時代の武士の生き方から感じ取ったことを、目の前の読者に伝えようとした文章である。
司馬さんを通して、時を越えて鎌倉時代の武士からのメッセージが届けられる。


人は、成長し続けたいと願う限り、様々な体験や経験や学習を通して成長できる。
「読書」も体験の一つである。

活字離れが進み、活字の並んだ本だけでなく漫画も読まない人が増えてきているらしい。

2千年以上の時間の中に生きる人々の生き方やメッセージに出会えないのは本当にもったいない。
もしかしたら心を動かされる一冊にまだ巡り合えていない人もいるだろう。

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書店に立ち寄りぶらっと見て回るのもいい。

誰かのお勧めを読んでみるのもいい。

電車の中で夢中で読書している人の表情をチラッと覗き見するのもいい。

本に囲まれてただ佇んでみるのもいい。


これからもいろいろな形で本との関係を積み重ねていきたいと思う。

本が苦手な人も、本との関係を少しずつ積み重ねていってほしいと思う。







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