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映画『オテサーネク』の演出が怖すぎた。【映画紹介】

この記事のあらすじだけ読んで、必ず前情報なしで見てほしい。

★★★★☆

実在するチェコの民話を元にして作られた本作。
しかし、そのストーリーをなぞらえただけの作品ではない。演出によってかなり作品として昇華されている。
※CGのクオリティだけは2000年発表の映画ということで目を瞑ってほしい。

舞台はチェコ。不妊症に悩む夫婦と赤ちゃんの話。
いつ産まれてもおかしくないほどお腹を大きくした妊婦が我が子の安否を心配して産婦人科に並ぶ中、診察室から一組の夫婦が顔をもたげて出てくる。
この夫婦は不妊症で悩んでいる。原因は夫の無精子症。

2人は子を望んでからどれくらい試行錯誤してきただろう。
そんな時、窓の外を見ると3500gの元気な赤ちゃんが量り売りされていた…。

あらすじ

※以下、ネタバレ含む


ココが良かった

演出が本当に良かった。
該当するシーンが多すぎて、もう好きなシーンを羅列していく。

1.ほっしすぎて周りの物がすべて赤ちゃんに見える
 冒頭の赤ちゃんが量り売りされているシーンで完全に釘付けになった。
 スイカを割ったら中から赤ちゃんが。
 夫婦のどちらかがそう見えている訳ではなく、オチークが来るまでは2人とも同じように見えているところがミソ。2人以上に赤ちゃんが見えていたらそれはもう本物。
夫婦だけでなく、同じアパートに住む家族の一人娘も赤ちゃんを羨望していて、夫婦と違い”まだ産めないだけ”ではあるが、子供を産む機能を持たない少女がお腹にボールを入れてみる、性に関する知識を蓄え続けるシーンは夫婦の立場と重ねて表現される。少女の執念もこの物語に大きく関わってくる。

2.夫がオチークを叩きつけるシーン
妻を勇気づけようとプレゼントした子を模した木の根っこを、妻は自分の子だと信じ切ってしまった。夫はこのままではまずいと思い、妻から木(赤ちゃん)を取り上げて机に叩きつけ、目を覚まそうとする。
オチークが怪物化するまでは妻の目には完全に人間の赤ちゃんに見えていたのだが、この叩きつけられるシーンは夫視点でしか映らない。
もし妻視点が映されていたら、どんな酷い映像になっていただろうか。
妻にはそれが見えていたと考えたら…妻に同情せざるを得ない。

3.目玉焼きの黄身を舐めるシーンが意味深
隣のアパート家族の食事シーンは頻繁に出てくる。少食な娘はその空っぽなお腹に赤ちゃんをいれるためだと言うが、最後はオチークの食事をあげるために暴食の娘を演じる。
そして、最後の食事シーンでは半熟の目玉焼きをつつき、ドロっと流れ出る黄身を舌で舐め取る。お腹の中に赤ちゃんを入れるという比喩か。

4.別の人物が言った同じセリフ「殺すなら私から殺して」
不妊の妻と隣の娘はオチークが殺されそうになるシーンで同じセリフを吐く。
「殺すなら私から殺して」
まるで奪われようとしている命が、紛れもない我が子であるかのように。


ココが残念

1.「オテサーネク~妄想の子供~」 ←このサブタイトルが本当に要らない。
事前情報なしで見れたため未知数な展開を楽しめたが、もし知っていたら「ああ、それもこれも全部妄想なんだな」と大方察しがついてしまうのでもったいない。しかし、妄想が全てでなく、もう一展開あるところが唯一の救い。

2.夫婦でオチークの名前が同じだったのがもったいない
妻の妄想によって木を子供と勘違いしたことで周りに言いふらしてしまう。そして子供が産まれたことを聞かされたお隣の家族は夫に名前を聞き、夫は妻の居ないところで咄嗟とっさに「オチーク」と名付けるが、次のシーンで妻も「オチーク」と呼んでいたのが少し違和感を感じた。
妻は夫のつけた名前をそのまま使うとは思えないし、勝手に名前を付けていてもおかしくない。なんなら夫婦で呼び名が違うとかの方が現実味を帯びるように思う。

3.オチークを引きずる音
オチークに見切りをつけた夫が袋に入れてアパートの地下室へ閉じ込めようとするところを、隣の娘が偶然目撃する。この段階で娘はオチークの姿形を知らない。枝を引きずる音と袋が暴れる様子しか分からない。
それでも得体のしれないものに対する好奇心で実物を見に行き、可哀想な捨て子としてオチークを可愛がる訳だが、
これ以前のどこかのシーンで、娘が拾った枝を引きずるシーンを入れても良かったかもしれない。もし川にでも流された枝を拾ってあげて、それを気に入り引きづって歩くシーンがあれば、オチークが引きづられている時に、「あの時の音と同じだ」と、より好奇心を煽ることになる。

実在する民話「オテサーネク」

子供を授かりたいと常日頃から願っている貧しい夫婦の夫が、近くの森の切り株を掘り起こしていた時に見つけた人間の赤ちゃんそっくりの形をした切り株に命が宿った存在。
元々は本当にただの切り株だったが、夫婦でこの切り株に名前を付けておままごとを始めている内に、やがて子供を授かりたいと願う夫婦の強い思いや執念が切り株に命を与えてしまったのか、やがてそれは動き出し『なにかたべたいよ‼』と言い出すようになった。
夫婦は最初驚きはしたものの妻は大変喜び、早速オテサーネクに次から次へと食べ物を与えるが、オテサーネクは全く満足することは無く、やがて夫婦を飲み込み、空腹を持たすために家から出ると出会ったものを手当たり次第に飲み込んで行き、それに比例するようにその体も段々と大きくなっていった。
そして最後に出会ったキャベツ畑で働いていたお婆さんも調子に乗って食べようと襲い掛かるが、キャベツ畑を荒らされ怒り心頭のお婆さんの振り下ろした鍬で退治された。
そして裂かれた腹かの中からオテサーネクが今までのみ込まれたものたちは無事に帰って行き、オテサーネクを生み出してしまった夫婦も無事に助かった。
なお、この事件以来、夫婦は二度と子供が欲しいとは言わなくなったという。

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