十二月三十一日 十三

人でいられない

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人でいられない

最近の記事

Yeah! 常夏エターナルバケーション!

 今朝はとうとう仕事が嫌になって有給申請もしていないのに会社を休んだ。支給されている社用スマートフォンの電源を落としてテーブルに置いたままにして、俺は鞄を掴んで外に出た。外は相変わらずの冬の寒空。寒さに悴む指で、俺は自分のスマートフォンで旅行サイトを検索する。とにかく何処かへ行きたかった。できれば暖かい場所へ。  案外探せばあるもので、俺はその日の夕方前には飛行機に乗っていた。行き先は国内最南端の島。飛行機に酷く揺られながら、会社のことや将来のことをつい考えてしまっていた。

    • 冬の過去より愛を込めて

       車窓の外は地平線が広がっている。この列車は首都から極東の都市へと向かっている。私は流れていく景色を独りで眺めていた。目の前に少女が座るまでは。  プラチナブロンドのロングヘアとヘーゼルの瞳。レース生地の黒いワンピース。そこから伸びるしなやかな足はタイツと軍靴に包まれている。彼女の姿は一枚の絵画のようで、廃炭鉱に雪が降り積もった夜を思い起こさせる。私の生まれたアメリカの町を。  少女は不釣り合いなRsh-12、大型リボルバーを持って私の対面に座った。 「貴方は凄腕のスパイだっ

      • インタヴュー・ウィズ・ハイオーク・ミックス

         彼のことは仮にジョナサンと呼ぼう。私達の言葉で彼の名を発音することはとても難しい。  ジョナサンは手早く火を起こす。鉄帽子を取ってひっくり返し、焚火に掛ける。切り分けた軍馬の肉を帽子の中へ放り込む。肉の焼ける臭いが広がって大気に混じる。離れたところで燃えている家々の煙と同じように。つい一時間前まで此処は戦闘状態だった。ジョナサンの所属する傭兵団が勝利したのは真夜中だった。  ジョナサンは荒野に灯る火を使い、死体から剥いだ兜を鍋代わりにし、死んだ馬の肉を焼き、乾燥させた香草と

        • 【纏め読み】マーダー・ライド・コンフリクト

          【纏め読み】 マーダー・ライド・コンフリクト 【総集編】 [静かに。]  また「13」だ。開店時間から間も無い焼肉屋の、「空いているお席にどうぞ」と言われて座った四人掛けのテーブル席に振られていた番号は「13」だ。朝に立ち寄ったコンビニの会計も釣りが「13」円だった。読みかけの小説は最後に栞を挟んだページが「13」章目だった。ふと腕時計を見たら秒針が「13」を指していた。  リュックを下ろして着ていたトレンチコートを脱ぐ。くたくたになっているコートをクシャクシャにして

        Yeah! 常夏エターナルバケーション!

          再臨

           こうして手紙を書くのは生まれて初めてです。いつもだったらラインで済ませてたから、ちゃんとした手紙を書ける自信がありません。電話もお互いあんまりしなかったもんね。私たち、中学から付き合ってるのにね。心配しているかもしれないけど、私は元気です。お母さんたちにもそう伝えてください。あと、大学を勝手に辞めてしまったことをとても謝りたいと私が思っていることも。  私がそのサークルに出会ったのは去年の年末頃でした。我ながら変な時期だったと思うし、よく考えてみれば校内のサークルじゃなく

          それはもはや「兄」ではなく「船」

           物心ついた時から虫の足を捥ぐのが好きだった。捕まえた虫を片っ端から。私はそういう子供だった。 「エリザ! そういうことはしちゃ駄目って言っているでしょう!」  お母さんは見つける度に私を叱り、夕食の席でお父さんに言い付けて、お父さんにお説教をさせた。 「いいか、エリザ。虫だからといって無闇矢鱈に殺してはいけないんだ」  お父さんのお説教はいつも同じ文句で終わる。だから私は虫の死骸をくっ付けて「元通り」にした。虫はちゃんと動き出した。頭がカブトムシになったってチョウチョは飛ぶ

          それはもはや「兄」ではなく「船」

          フラジャイル・メイジャー・アーサー

           針葉樹に覆われた大地が震え、鳥が慌ただしく群れとなって飛んでいく。轟音と共に地割れが起きた。それは自然現象として発生したのではなく、鋼鉄の巨大な発射台が地割れの合間から現れた。けたたましいサイレンが深く暗い人工の奈落から響く。レールの軋む音が聞こえる。爆音に近いブレーキ音と共に、高速で巨大なヒト型の何かがせり上がってきて姿を現した。  巨大な衝撃と共に陽光の下に現れたソレは、金属質で仄かに光を纏っていた。デフォルメされた無骨な躯体は甲冑姿の騎士にも似ている。関節から蒸気らし

          フラジャイル・メイジャー・アーサー

          Q.殺し屋には向かない仕事ってなーんだ? A.異世界転生勇者

           俺の仕事は激しいストレスを感じるものだ。 「ボルシチ! ここで会ったが百年目! 覚悟しn、」  バンバン。二発撃って終わり。断末魔も無い。月明かりのない夜だからかいつもより馬鹿に絡まれる。 「ボルシチ! オジキの敵だ! 豚のえs、」  バンババン。ムカついたので三発も撃ち込んでやった。俺は依頼されたら人間を殺すのが仕事なのでずっと誰の敵だった。  麗しのクレムリンも随分治安が悪くなった気がする。今日はもう五人も撃ち殺している。さっきので八人目だ。酒を飲んでいるので足し算が出

          Q.殺し屋には向かない仕事ってなーんだ? A.異世界転生勇者

          【纏め読み】おしまいの国:踊る人虎とヒヤシンス、或いはテセウスの祈り、若くは追悼の怪物たち

          【纏め読み】 おしまいの国: 踊る人虎とヒヤシンス、或いはテセウスの祈り、若くは追悼の怪物たち 【補完版】 おしまいの国まで:憎悪と絶望の国から  傷が癒えるたびに「あなた」は人の形を忘れていき、徐々に悍ましい獣になっていく。そうして「あなた」がかつて人間だった頃の残滓を失っていくのだと教えたら、「あなた」はどう思うのだろう。  「あなた」は怒るだろうか。私を憎むだろうか。「あなた」は私がしたことを、私を、赦すだろうか。  たとえ「あなた」が私を忘れていたとしても。

          【纏め読み】おしまいの国:踊る人虎とヒヤシンス、或いはテセウスの祈り、若くは追悼の怪物たち

          【纏め読み】悼む色は赤

          【纏め読み】 悼む色は赤 【ディレクターズ・カット版】 1. 人を殺すより簡単  子供の頃から、誕生日が嫌いだった。誕生日になると陽のある内しか外へは出られない。陽がない時間に外へ出てはいけない。イノリはそれが嫌だったし、怖かった。日がぽっかりと暮れた誕生日。家の低い門扉の前に、女が立っているのだ。その女は街灯かと見紛う程に、異様に背が高い。顔の三分の二を占める大きな目も異様だった。女はイノリに向かって、間延びした声で言う。 「お母さんだよぉ お前は拾われた子だよ

          【纏め読み】悼む色は赤

          lainでもヱヴァテレビ版でも思ったけど昔のオタク毎週こんなん観てよく気が狂わなかったな……「ランバ・ラル特攻!」なんて予告出たら次回まで初七日だぞ……

           よお、俺だ。全然創作書いてなくてスマンな。逆シャアとガンダム(ファースト・テレビ板)を視聴したので感想を書くことにした。まあ言いたいことはタイトルが全てだ。昔のオタクってすげぇなァ……今生き残ってる古参は異能生存体か何かだろ。  突然だが俺は「虐殺器官」、というか伊藤計劃が好きだ。「マスマティックな夕暮れ」(世にも奇妙な物語)を観て数学の能力がカスみたいな俺は「全国模試1位取るくらい勉強したら伊藤計劃を蘇生できたのにな……」と思って涙したほどだ。  虐殺器官をアニメ映画化

          lainでもヱヴァテレビ版でも思ったけど昔のオタク毎週こんなん観てよく気が狂わなかったな……「ランバ・ラル特攻!」なんて予告出たら次回まで初七日だぞ……

          おしまいの国へ:死荷役

           馬鹿みたいに暑い。当然だ。荒野を歩いてるんだから。ちょっとした小学校中学年みたいな重さの荷物を背負って歩いてるんだから。馬鹿みたいに苦しい。仕方が無い。これが俺の仕事なんだから。 「ご主人様、お早く」  背後から俺を急かす声が聞こえる。俺が渇いた大地にぼたぼたと汗を垂らしているのが見えないらしい。 「うるせぇな! 黙ってついてこいクソ野郎!」  立ち止まって俺は振り返り怒鳴った。長袖のソフトシェルジャケットを着て、サファリハットを被ったソイツは汗も掻かないままで「はい」と言

          おしまいの国へ:死荷役

          アイデンティティよ消えないで!

          私、一体どうしちゃったんだろう? 何をしてしまったんだろう?  深夜の路地で一人きり。街灯から落ちる丸い光の中に座り込んでいた。いつの間にか。どうして? 口の周りや服が濡れている。なんだろう?  顔を拭おうとして持ち上げた掌に、べったりと血が付いていた。それと、布の切れ端。男物のシャツの襟。ショウタ君のシャツ。どうしてそんなものがあるのか分からない。  急に噎せた。胃から何かが迫り上がってきた。我慢できずに吐こうとして、咳き込んで、何かが口から飛び出した。アスファルトの上に

          アイデンティティよ消えないで!

          悼む色は赤            「憎い相手を喰えたなら」

          「『変なモノ』が出てきた? 壁から?」  午後の業務はアクルの携帯電話に掛かってきた緊急連絡から始まった。  のんびりとした冬晴れの昼下がり。年末調整も終えて事務方は一段落。会社にいつもいるメンバーはいつもより緩慢に生きていた。  赤松は解体を依頼された工場についての資料を読んでから遠い目で窓の外を見ていた。かなりの難工事なのに依頼主がケチなので、殆ど利益の出ない見積を作る気になれない様子だった。  イノリとアクル、そしてクエの三人は円柱型の石油ストーブで餅を焼き、干し芋を

          悼む色は赤            「憎い相手を喰えたなら」

          ##この作品はフィクションであり、実在する個人、企業、団体とは一切関係ありません##そしていつかの存在証明##この作品はフィクションであり、実在する個人、企業、団体とは一切関係ありません##

           幾つ世界線を越えようと構わない。親友の背を追う為なら狂気山脈だって飛び越せる。彼を勇姿を、足跡を、捉えて残し続ける為ならなんだって。 「あーっ! やっと見つけたー!」  ポップでカラフルな街、のぉとタウン。その中心にある巨大交差点の真ん中で可憐な少女が叫んだ。有名女子校の可憐な白いブレザーに身を包んだ、大きな一眼レフを首から下げた彼女が指差した先には ##401-Unauthorized## が美しい緑髪を流した黒の留袖姿で佇んでいた。  少女に大声で名前を呼ばれて驚いた

          ##この作品はフィクションであり、実在する個人、企業、団体とは一切関係ありません##そしていつかの存在証明##この作品はフィクションであり、実在する個人、企業、団体とは一切関係ありません##

          光の中を一人で歩むよりも、闇の中を友人と共に歩むほうが良い。

           急にごめんね、夜に電話なんかして。うん、ちょっと、怖いことがあって、聞いて欲しくて。親友じゃなきゃ話せないって、思って。うん、親友だよね? だよね? 私の話、全部聞いてくれる? 聞いてくれるの? ありがと、ごめんね。ホント、ごめん。 その日は、学校に行くと教室がなんだかざわざわしていた。 「おはよー、なに? どうしたの?」  自分の席まで行って隣のミナに聞けば、ミナは「なんかね」と教えてくれた。 「隣のクラスの子、いなくなっちゃったんだって」 「えっマジで?

          光の中を一人で歩むよりも、闇の中を友人と共に歩むほうが良い。