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フラジャイル・メイジャー・アーサー

 針葉樹に覆われた大地が震え、鳥が慌ただしく群れとなって飛んでいく。轟音と共に地割れが起きた。それは自然現象として発生したのではなく、鋼鉄の巨大な発射台が地割れの合間から現れた。けたたましいサイレンが深く暗い人工の奈落から響く。レールの軋む音が聞こえる。爆音に近いブレーキ音と共に、高速で巨大なヒト型の何かがせり上がってきて姿を現した。
 巨大な衝撃と共に陽光の下に現れたソレは、金属質で仄かに光を纏っていた。デフォルメされた無骨な躯体は甲冑姿の騎士にも似ている。関節から蒸気らしき煙を噴き出して一歩踏み出した。歩く度に地面が揺れた。
 コルコバードのキリスト像が現存していて歩き出せば、ああいう風になるのだろう。1.5キロメートル離れた高台の観測所から双眼鏡でソレを観察していた男はそんな感想を抱いた。
 鋼鉄の巨人が地面を揺らしながら歩く。向かう先には三十世紀半ばでは既にお馴染みとなった自律要塞。動くモン・サン=ミシェルの旗印は帝国と国境が接している州国のものだ。越境作戦の最中だったらしい。運悪く、鋼鉄巨人が目の前に現れてしまったのだろう。
 砲撃を繰り返しながら後退するが如何せん鈍足の要塞はすぐに巨人に追い付かれる。
『ウオォオオォオオォオォォッ!』
 オープン回線に操縦者らしい少女の雄叫びが流れた。哀れな自律要塞は十数分間の戦闘の中で、巨人の装備していたミサイルやビーム砲で木っ端微塵となった。


 巨人の大立ち回りを観察していた男は双眼鏡を外して作戦室を振り返る。深緑色の左目は自前だが、青灰色の右目は義眼だった。野戦服に身を包んだ四十手前のその男は肩を竦めて室内にいる全員に問い掛けた。
「アレを倒せってのは、皇帝陛下の性質の悪い冗談だよな?」
「いいえ? アルトリウス・ショウクロス医術局少佐」
 冷めた笑いが細波のように広がる。それを見て少佐は自分の問いが無意味だったことを理解した。



つづく(800字)

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