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インタヴュー・ウィズ・ハイオーク・ミックス

 彼のことは仮にジョナサンと呼ぼう。私達の言葉で彼の名を発音することはとても難しい。
 ジョナサンは手早く火を起こす。鉄帽子を取ってひっくり返し、焚火に掛ける。切り分けた軍馬の肉を帽子の中へ放り込む。肉の焼ける臭いが広がって大気に混じる。離れたところで燃えている家々の煙と同じように。つい一時間前まで此処は戦闘状態だった。ジョナサンの所属する傭兵団が勝利したのは真夜中だった。
 ジョナサンは荒野に灯る火を使い、死体から剥いだ兜を鍋代わりにし、死んだ馬の肉を焼き、乾燥させた香草と酒を入れてスープを作った。そして私に視線を向け、腰袋から丸匙を取り出しながら「食べるか?」と訊ねた。
「お気持ちだけ。此方での食事は原則禁じられているので」
「そうか。誓約か?」
「いえ、帰還時に事前登録していた身体情報とズレが大きいと弾かれるので」
「つまり誓約ってことだな」
 私はジョナサンの常識で理解されることを許容する。
「お前が持っているその小さな箱、何度説明を聞いても理解できない」
「カメラです。貴方を撮影して記録するためのモノ。貴方から見ると私は、正確にはこの世界線ではありませんが、未来から来た存在」
「なるほどわからん。なんで俺なんだ? ハイオークと人間の混ざり物は其方でも珍しいのか?」
「単純なランダムです。ドキュメンタリーでは分かり易い風貌の現地住民が喜ばれる」
「ああ、見世物ってことで良いのか?」
「歴史記録です。アーカイブは永久に保管されます」
 スープを食べながらジョナサンは笑う。口唇から牙が覗いた。
「いつだって過去は美しい。さんざめく煌めいて、未来には何の価値も無いってことを教えてくれる」
 ジョナサンはそう言って肉を咀嚼する。
「では、この先を生き続けることも無価値ということですか?」
「生きるということは地獄の苦しみだ。だが俺はそれを楽しみたい」
 そう答えて火を見詰めるジョナサンの顔は恐ろしく美しかった。





つづく(800字)

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