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ストレートと変化球の直木賞

京都マラソンを走ったことがあります。全国高校駅伝のコースと同じ、たけびしスタジアム京都がスタートで平安神宮がフィニッシュの42.195kmです。広沢池、仁和寺、京都御所等歴史ある街を走り抜けるのは楽しく、時の重みを感じられ辛くっても、走れる、何かに守られているような気がしました。

昨年12月の女子駅伝は、アンカーのトラック勝負で仙台育英を逆転した神村学園のガリバ・カロラインの力強い走りは20歳で亡くなった先輩ランナーに守られていたようです。

歴史の重みのある京都だから生と死がどこかでつながっているのかもしれません。京都が生んだやさしい奇跡の小説です。

八月の御所グラウンド  万城目学

絶望的に方向音痴な女子高校生が、都大路にピンチランナーとして挑む「十二月の都大路上下ル」、ある大学生が、借金のカタに早朝の御所Gで謎の草野球大会・たまひで杯に参加する表題作。
京都で起きる、幻のような出会いが生んだドラマとは――。じんわり優しく、少し切ない人生の、愛しく、ほろ苦い味わいを綴る傑作。第170回直木三十五賞受賞作品。

文藝春秋

2作とも京都で、青春で(高校生と大学生)スポーツで(駅伝と草野球)、歴史で。ストレートだ。好き!好み!

マキメワールドも全開で、コミカルで笑える。

「きたおおじどーり、ほりかわどーり、むらさきあかるい?どーり、とりまるどーり、そこで折り返して、またむらさきあかるいどーり、ほりかわどーり、きたおおじどーり。ああ、ややこしい。」

「十二月の都大路上下ル」

「しょしゃはほっぺにたまひでのままのちゅうがもらえる」

「八月の御所グランド」

ふふふ。どちらもかわいい。

駅伝のスタート並びの他の選手の筋肉が強そうに見えたり、沿道を走る人とか、試合が終わったあとの同じ大会に出た選手との連帯感とか、またここに戻ってきたいとか、ああ、わかる、わかる、わたしもわたしもと興奮。

楽しそうに走る、それでいて強いのはいいな。

草野球も、寄せ集めチームなのに連帯感がありそれは野球というスポーツを楽しむ感じが伝わってきてわくわくする。

スポーツをこんなふうに書けるのはいいな。

だけど、だんだん、えっ?えっ?えーっ!!
と奇跡にびっくり、アイヤー。

見えるはずのないもの
見えるものには見えるけど、見ようとしないものには見えない。

俺たち、ちゃんと生きているか?

「八月の御所グランド」

12月の全国高校駅伝と、8月のお盆。
どこでも、いつでも。

自分たちの生きている世界だけでなく、
他の世界もある、あった、つながっている。

笑って切なくなって、ちゃんと生きようと前向きになれるやさしい物語です。

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