ファシリテーションの心得

社内の開発チームの中で、会議のファシリテーションが初めてで、自分がファシリ担当の会議があるときには緊張して身構えてしまうという話があったので、自分の経験やファシリテーションの関する記事・本を参考に「ファシリテーションガイド」というものを作成しました。せっかくなので、noteでも公開してみます。

ファシリテーションとは何か

広義

  • 日々のチーム活動の中で、会議の進行やプロジェクトの管理、あるいは仕事を成し遂げるためにチームをまとめ、チームを舵取りをしながら支援し、チームの可能性を最大限に活かす力

  • チームでのリーダーシップ発揮のための中核となるスキル。

ミーティングの文脈

  • ファシリテーションは、議論の枠組みと流れを定義し、チームが円滑に会議を進め、コミュニケーションが効率的に行われるようにするスキル。

💡つまりファシリテーションは、ミーティングに限らずチームが特定の目標を達成しようとするすべての場で求められるスキル・リーダーシップ。

ファシリテーターとはどんな人か

広義

  • チームの目標達成を支援するプロセスと枠組みを計画・管理し、チームが必要とするものや集団ダイナミクスに注意を払い、チームの目標達成を支援・促進することに責任を負うもの

  • チームメンバー同士のインタラクションを活発にし、創造的なアウトプットを引き出すもの

  • チームの可能性を信じ、チームメンバーの意欲、能力、知恵を引き出すもの

ミーティングの文脈

  • ミーティングの目標をチームが達成するためにミーティングの枠組みと流れを決定し、発言を促したり、議論を促したり、気づきを促したり、発散と収束を促したり、アクションの具体化を促したりするもの。

💡ミーティングの目標をチームが達成するために舵取りをすると言う点で、ファシリテーターはミーティングのリーダーである。しかしそのリーダーシップは、「伝え、説得し、動かす」ものではなく「引き出し、決めさせ、自ら動くことを助ける」ものである。

ミーティングでのファシリテーション実践ガイド

ミーティング前

  • 開始前に各会議の明確な目的と成果物を定める

    • 成果物には次の3種類がある

      • 頭:学べることの全て。例えばスキル、アイデア、状況把握など。

      • 心:自ら取り組む姿勢、信念、エンゲージメント、意気込み。

      • 手:具体的なアウトプットを作成する。アクションプラン、タイムライン、リストなど

  • 誰が参加する必要があるかを定める

  • いつどこで会議を開催するかを定める

  • どのように会議をファシリテーションするかを定める

    • どのようなアクティビティを使うか

  • 議論の仕込みをする

ファシリテーターの頭の中には常に、「この会をどうしたいか?」という、メンバーとはレベルが異なる関心事があります。 どんな結論を導く必要があるのか、議論のプロセスでメンバーにどのように振る舞ってほしいのか。 最終的な到達点に至るために、今ここで行われている議論は適切なものなのか、といった関心です。それと同時に、多くの人間がいろいろな方向から述べる意見を聴き、その意見に即座に対応することが求められます。 つまり、人の話を聴き理解すること、本来議論すべきことは何かを考えること、話をしていない人の状況を把握することなど、複数のことを頭の中に置き、それらを同時に処理する必要があるのです。それをそのままやると、 頭のキャパシティ(処理能力)がオーバーフローしてしまうというわけです。これは当たり前のことです。人間は一度にたくさんのことを考えられるだけの認知・思考のキャパシティは持っていないのです。このため、この限界を超えるためには、ファシリテーションの現場において自身が考えることを減らすしかありません。 つまり事前に十分な準備をし、本来あるべき議論の姿をイメージしておく。そして、その場で出てくる発言を適切に位置づける地図を頭の中に持っておく必要があります。 私はこれを「議論の仕込み」と 呼んでいます。 メンバーにしっかり議論してもらうために、議論すべき内容について、ファシリテーターが十分に理解し、 準備するということです。

ファシリテーションの教科書

ミーティング中

  • 会議の目的と成果物を参加者と一緒にレビューする

  • 会議の開始と終了の際に、チェックインアクティビティを行う

  • ミーティング中、ファシリテーターはさまざまなアクティビティを使ってチームの目標達成を支援する

    • 例えば、ブレーンストーミング、リストアップとグループ分け、優先順位づけ、ペア作業やグループ作業などを活用して、議論の場を広げたり、狭めたりする

    • 基本的なステップは「意見を引き出す」「話を聴き、理解する」「話を導く」「話をまとめる」

  • 集団ダイナミクスを管理する

    • 言うべきことのある人には確実に話せる機会を設け、話しすぎる人には会話を支配させないようにする。よく話す人には他の人の意見を聞いてもらうようお願いし、おとなしいチームメンバーには口を開いてもらうようにする。喋りたそうなのに遮られている人はいないか注意して観察すること。何か言いたいことはないかとこちらから尋ねてみること。答えを無理に要求して困らせたりせずに、話す機会を設けるだけでよい。

    • 大衆の集合知のメリットを引き出すためには、錯覚のようなものがないかチェックしたり、個々の意見がお互いに影響を与えないよう情報を伏せるなどの工夫が必要。順番に発表したりすると後半の人が影響を受けてしまう。(https://qr.ae/pvBSIl)

  • 時間を管理する

    • 計画した時間になってもまだ議論が活発な場合は、チームにどうしたいかを尋ねる。「このまま議論を続けると最終的な目標を達成できないと思いますが、どうしますか?」グループは、議論をやめて先へ進むか、この議論は目標よりも重要なのかをあなたに告げる。決定は必ずチームの手に委ねること。結論が出ない場合は、タイムボックスを設けて議論を続けたり、あとで(別の会議として)議論を続けることを約束するなどして、何らかの妥協点を探すこと。

ミーティング後

  • まとめを忘れないようにしましょう。参加者がどのように目的に取り組んだのかを確認し、今後のアクションアイテムをまとめます。

ファシリテーターのマインドセット

  • ファシリテーションを行う際は、議論の内容や解決策について絶対に干渉しないのがルール。議論の流れを整えるだけにする.

  • 議論においては、例え個人的に強い意見を持っていても、常に中立に保つ必要がある。

    • あなただけが重要な情報を知っていることがあるかもしれない。そういうときは、ファシリテーターの役割を一時的に外れて、議論に貢献する旨をチームに知らせること。

  • 優れたファシリテーターは柔軟で、アジェンダを変更する準備ができている必要があります。準備も必要ですが、柔軟であり、決まり切った構成や計画にこだわるべきではない。

  • あなたがもし「チームにふりかえりの中で出してほしいアクション」を心の中に持っているのであれば、それを捨てることから始めましょう。チームを信頼し、チームに委ねてみましょう。

参加者のマインドセット

  • 全員がファシリテーターであると言う考え方。主体となるファシリテーターが一人いて、それ以外のメンバーは自分の得意な分野で会議をファシリテートする

    • 意見をホワイトボードや付箋に可視化する

    • 意見を引き出す問いを投げる

    • 気になるところを掘り下げる

    • 発言を絵に表現する

    • 場を観察する

デイリースタンドアップでのファシリテーションTIPS

 💡 大前提として、アジャイルやスクラムでは、誰かが自分たちの進捗を管理してくれるのではなく、自分たちで自律的にゴールに向かって協力し合う、自己組織・自己管理できているチームを目指していく。そしてチームがゴールに向かって自己管理的に協力し合う枠組みを整理して旗振りするのがファシリテーターの責任。

  • デイリースタンドアップの⽬的:今のスプリントの状況をチーム全員が把握(透明性)し、スプリントゴールに対する進捗を検査し、必要に応じてスプリントバックログを適応させることで、スプリントゴールを達成できるようにすること

  • デイリースタンドアップの成果物:

    • その日にやり遂げるべき最重要事項をチームメンバー全員が分かっている

    • ゴールを達成するために更新されたスプリントバックログ

  • 進捗の検査では以下の三つをチームに問いかけよう

    • 昨日やったこと

    • 今日やる予定のこと

    • 何かチームの妨げになることはあるか

  • 進捗の検査・適応は15分以内に終わるようにしよう(6人であれば一人2.5分)

    • 大事なのは「今日どう協力し合うか」なので、「やったこと」や「やること」の詳細な共有ではなく簡潔な説明に留めるように促そう

    • 更なる話し合い・共有の必要がある場合は、別途場を設けよう

    • 全員に有益な話以外は、別途場を設けて関係者だけで話そう

  • 進捗に遅れがある場合には、その遅れをどうリカバリーするのかチームの協議を促そう

    • よくあるアンチパターンは、デイリースタンドアップがただの個人の進捗報告の場になってしまうこと

    • いいパターンは、チームメンバー全員が「このスプリントで提供したい本質的な価値」を理解し、かつ価値提供をするために全員が協業している

      • 誰かが「このタスクは一日かかる」と言えば、他の誰かが「一緒にやれば1時間でできる」と提案する。

      • 誰かが「このPBIは終わらなそう」と言えば、他の誰かが以下のような提案をする

        • 「同じ価値は別の方法でも実現できるのでやり方を変えよう」

        • 「スコープをすべて満たさなくても価値になるのでスコープを変えて価値提供を優先しよう」

        • 「自分が対応しているPBIよりもそちらのPBIの方が優先度が高いので分担して進めましょう」

      • 💡 こうした提案ができるためには、「このスプリントの本質的な価値は何か?」「このPBIが実現したいことは何か?」というのをチームメンバー全員が理解していることが大事。

  • 💡 進捗の遅れを検査・適応するためには、「何がいつまでに終わっている予定」という状況が可視化されている透明性が必要。そのためスクラムガイドでは、PBIを1日以下のサイズのタスクに分割するプラクティスを紹介している。

  • 差し込みがある場合には、「これは今やらないといけないことなのか?次のスプリントではダメなのか?後回しになるアイテムはどうする予定か?」と問いかけよう。このスプリントで対応する必要がある場合は、どのような計画で進めていくのかチームに問いかけよう。

  • スプリント終盤になっても進捗のないPBIがある場合には、「このPBIはどうする予定ですか?」とチームに質問してみよう

  • 3つの質問に答えるやり方は、はじめたばかりの人のためのもの。 チームは質問を追加したり、フォーマットを変えたり、ニーズを解決するために必要なことをすれば良い。 (from here)

チームメンバーからの感想

上記のガイドをチームメンバーに共有したところ、以下のような感想がありました

  • これまでは、ファシリテーターである自分が結論を出そうとしていた

  • ファシリテーターである自分が話しすぎてしまうことが多かった

どちらも、僕自身もやってしまうことで、意識しないとついついやってしまいます。特に前者は、「チームメンバー同士が議論して決定するのを促す」というのが難しくて自分で決めてしまうという感想もあり、なるほどと思いました。確かに、問いを投げ掛けてもシーンした沈黙が苦しかったり、あるいはみんなから出た意見を収束させる方法が分からなくて、先に進めるためにファシリテーター自身が意見を出したり決めたりしたくなる力学が働くのは共感できます。ですがそこでファシリテーターが決めてしまうと、「チームでの決定」ではなくて「ファシリテーターの決定」になってしまってチームのエンゲージメントが下がってしまう可能性があるので、チームを信頼し、チームに決めてもらうように様々な工夫が必要なんだと思いました。まずは沈黙に慣れつつも、漠然と「〜についてどう思いますか」ではなくてバイネームで指名してみる、口頭で答えてもらうのではなくNotionなりMiroの付箋なりに書き出してもらう、など。人によっては、話すよりも書くことで意見を伝えるのが得意な人もいますし、議事録を取る手間が省けたり、それぞれの意見に投票するなどの応用もできます。


参考にさせていただいた本・記事

ファシリテーションの教科書
https://amzn.to/3VCVxDR

アジャイルなチームをつくるふりかえりガイドブック
https://amzn.to/3XqxlpP

Agile retrospectives
https://amzn.to/3tR4ayH

効果的なデイリースタンドアップをするための10のTips

Great ScrumMaster

日本ファシリテーション協会

国際ファシリテーション協会

ファシリテーションでスクラム開発の改善に取り組んだ話


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