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(ミステリーホラー)混沌の化神 -6

2000年12月29日 13:20

見慣れた木目のある天井。

目を覚ました亜矢子は自分の部屋で眠っていたことに気付いた。
頭上を探っても携帯がないところをみると、自分でベッドまでたどり着いたわけではないようだ。

身体中にじっとりと汗をかいている。

意識があった時の最後の記憶では、誰かの声が聞こえていた気がする。
声の主に助けられたのだろうか。

部屋中心のテーブルに目をやる。携帯があることを確認し手を伸ばすと、時間表示は既に翌日のお昼になっていた。

今亜矢子が気になっていることは、おそらくは自分が誰かに部屋に運ばれてから、目を覚ます今まで見ていた夢の出来事だ。

今まで見たことのないタイプの夢だった。
既視感が強くあり、見ているというよりはまるでその場で体験しているようであり、夢の中の自分はこれまで感じたことのない感情に溢れていた。
悲しみ、苦しみ、恐怖、同情、親しみ、哀れみ。
言葉にするとこんなところだろうか、これでも足りない気がする。
体験したことのない感情の濁流の中にいる、そんな表現が正しいような気がした。

実際に夢で見たことと、その感情のせいで大量に冷や汗をかいたのだと理解した。

そんな夢の中で、感情だとか曖昧なものではなく、はっきりと確実なことがある。
それは夢で起きていたこと、それを起こした人物を私は知っているということだ。

なぜ今更、子供の頃に会ったのが最後のはずの人が夢に出てきたのか。
おそらくあの道で倒れたのだとは思うが、体調が悪いことが精神に作用してありもしない体験を夢でみることになったのだろうか。

いずれにしても、昨日あったことを確認しなくてはならないが、カーテンの隙間から漏れる光をぼんやりと見つめながら夢のことに頭が縛られ、なかなかベッドから起き上がれずにいた。

30分程度そうしていただろうか。
誰かが階段を上がってくる音がする。
ドアに目を向けるとすぐに、2回落ち着いたノックの音がした。
「起きた?」
聞き慣れた母親の声だった。
「うん。」
それだけ短く答えると、ドアを開けた母親が手にお盆をもっていた。

「大丈夫?あなた、森の側で道を這っていたのよ。それを青山のおじいさんがリヤカーで家まで運んで下さったんだから。一応、診療所のお医者さんに診て頂いたら、特に問題はなさそうで眠っているだけだって仰るから、そのまま寝かせておいたの。あなた何か病気してるとかないの?」
病気に心当たりはなかったが、やはりあの場所で倒れてしまったらしい。

「青山のおじいさん?」
「そうよ。あの道に畑があったでしょ?畑の向かいの家に住んでる、あなた昔よくお菓子頂いていたじゃないの。」
思い出そうとしても、いまいち名前だけではピンと来なかったが、どうもあの一見休耕畑の持ち主の方に助けて頂いたらしい。

「それ、食べていい?」
「おかゆにしたから。ゆっくり食べなさい。」
母親は手のお盆をテーブルに置くと、後で青山のおじいさんに必ずお礼を言いに行くことを念押しし、部屋を出ていった。




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