(ミステリーホラー)混沌の化神 -10
2000年12月30日 9:25
キッチンのテーブルで、何年ぶりかに両親と少し遅めの朝食を摂っている。
基本的には和食中心だった実家の朝食も、自分が帰らない間にすっかりと様変わりしたようだ。
トーストにコーヒー、簡単なサラダと目玉焼き、いちごのジャムとピーナッツバターもある。
母親とは、年末に帰郷して依頼一緒に食事を摂ることがあったが、両親揃ってとなると、それこそ在学中以来である。
「今日は、青山のじいさんにお礼に行くのか?」
トーストを齧りながら、切り出したのは父親だ。
「行くよ。もう体調も全然問題ないし。さすがに早く伺わないとね。下手したら命の恩人だったわけだし。」
「それは昨日から大丈夫だったでしょ、充分に酔っ払って帰って来たんだから。」
どうやら母親は、なぜ昨日行かなかったのかと多少不満に思っているような口ぶりだ。
「昨日はね、少し間を置きたかったの。恩人とはいえ会ったことない人なわけだし、なんとなく心の準備がいるでしょ?」
なんとなく少し責められているかような状況の気まずさから、目をそらしながらおずおずとコーヒーをすする。
「なら、じいさんのところ伺うなら俺が付いていこうか?」
「いやいいよ、子供じゃあるまいし。場所は分かっているから午後のどこかで伺うよ。午前中は予定あるし。」
続いて、食べ終わってお皿を片付けていた母親が何か引っかかったのか訊ねる。
「予定?何か予定があるの、人と会うとか?」
「うん、昨日飲んでた人に車届けてもらうことになってて、10:00頃来ることになってるの。職場の同僚だよ。」
「男か?」
今度は父親が引っかかったようだ。
「男だけど、男じゃない。」
「そうか。」
それだけ答えると、事もなげにコーヒーだけ持って他の部屋へ向かってくれた。
どうやら納得してくれたようだ。父の気性ではめんどうなことになりかねないので助かった。
事実、男ではないというのは彼女の本心である。
その時、知らないところで男ではない宣言をされていた男は、今まさに亜矢子の実家へ向かおうしているところであった。
昨日の亜矢子の話を聞いてから、どうにも気になっていた青山の姓。もしも本当につながりがあるとしたら、全くありえそうもない妄想に近い亜矢子の夢の話が、少し、ほんの少しだけ現実味を帯びてくることになる。
「まさか正夢…なわけないよな、さすがに。」
そう呟きながら、亜矢子の車のエンジンをかけた。
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