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【セカイは今】五輪の“恩恵”は… バルセロナ「観光客減らせ!」のワケ

スペイン・バルセロナでは1992年に行われたオリンピック以降、観光客の誘致を続け、世界屈指の観光都市となりました。ところが、今、バルセロナは一転してその観光客の数を削減する政策に乗り出しています。その理由を取材しました。
(TBS NEWS23 17年7月26日オンエア)

サグラダファミリアをはじめとするガウディの建築。砂浜のビーチ、スペイン料理・・・。

これらを目当てに、バルセロナには連日、世界中から観光客が押し寄せています。スペインには去年、日本からの直行便が復活。日本人観光客の姿も多く見かけます。

しかし、今、ある「異変」が起きています。

●櫻井雄亮記者
「サグラダファミリアを訪れている観光客の前には『観光客が街を殺す』というステッカーが貼られています。」

バルセロナでは反観光客感情が高まりを見せていて、街には「観光客は帰れ」といった落書きが増えています。

原因となっているのが観光客の多さです。

92年のオリンピックでインフラが整備されて以降、観光客は増え続け、実に人口のおよそ20倍、年間3000万人が訪れる世界屈指の観光都市となりました。

市場では・・・

●櫻井雄亮記者
「ものすごい数の観光客です。なかなか前に進むことができません」

もともと地元の人向けだった市場は観光客で溢れかえり、ほとんどの客が見物だけして帰るため、売上が半分に減った店もあるといいます。さらに観光客の「騒音」といった迷惑行為も住民を悩ませています。

深夜、酒に酔った観光客は朝まで騒ぎ続けます。取材中も、路上で嘔吐したり、用を足したりする観光客の姿がありました。人通りの少ない路上はまるでトイレのように使われ、ゴミも平気で捨てられていきます。騒音が激しい海岸近くの地区では寝ることが出来ず、病院に通う高齢者もいるほどです。

問題は騒音だけではありません。海岸近くの「バルセロネータ」地区で生まれ育ったマネルさん(51)は、観光客用の「民泊」のせいで街が消えてしまうと訴えています。

●地元の住民 マネル・マルティネスさん
「地元の友人の6割がこの地区から出て行きました」

この地区では民泊が急増、家賃もこの4年間で2倍に高騰しました。その結果、住むことが出来なくなったり住むよりも売ったほうが利益になると考えた住民が地区から相次いで出て行っているのです。

わずか1キロメートル四方のこの地区からこの1年で400人の住民が出て行きました。

●地元の住民 マネル・マルティネスさん
「昔は漁師と労働者が住む小さな村のような場所で、私達ならではの文化を持っていました。昔のコミュニティーはなくなり、通行人が通るだけの場所になりつつある」

バルセロナ市が市民に「困っている問題」を尋ねたところ去年まで首位だった「失業」を上回り今年は「観光客」が首位となりました。こうした事態を受けバルセロナ市は中心部で新たなホテルの建設を禁止したほか、民泊の数を制限するなど、観光客の削減につながる政策に乗り出しました。

●バルセロナ市商業観光部 アウグステゥン・コロム参事
「観光にはリミットを設けなくてはいけません。他のビジネスと同様、無制限に発展させるわけにはいかないのです」

市の担当者はオリンピック以降、観光客の数を増やすことを優先してきたことを反省していると話します。

●バルセロナ市商業観光部 アウグステゥン・コロム参事
「オリンピックの時には、観光を発展させつつ秩序を保つというビジョンに欠けていました。今、バルセロナは観光客で溢れかえっている状態です。過去の政策は反省しなくてはなりません。」

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●櫻井雄亮記者
オリンピックを控えた日本では外国からの観光客の誘致を進めていますが、観光客の数を増やすことだけを優先してきたバルセロナの失敗から学ぶべきことは多いと感じました。

日本では京都がバルセロナと似たような状況になりつつあります。急増する外国人観光客の影響で市民がバスに乗れなくなるなど、生活に影響が出ているほか、京都では無許可の違法な民泊が乱立し、京都市は去年1年間で就学旅行生と同じ規模の110万人が違法民泊を利用したと推計しています。

政府は東京オリンピックが行われる2020年に外国人観光客を4000万人に倍増させる目標を掲げ、来年には民泊が全国で解禁となる見通しですが、外国人観光客との共存は日本にとっても大きな課題となりそうです。