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リレーレビュー企画⑤ 呉勝浩『スワン』
推薦文 『スワン』は真実にまつわる小説です。悲劇の裏で何があったのかめぐるお茶会で明らかになるのは、単に何があったのかだけでなく、その事実の裏にある葛藤と決断に他なりません。その先に立ち上がる、黒と白とも悪とも正義とも言い切れない、複雑なグラデーションに彩られた人間像には、単なるフィクションとは退けられない、リアリティを帯びた凄みがあります。このような傑作を一人でも多くの人に読んでもらいたいと思い
もっとみるリレーレビュー企画④周藤蓮『吸血鬼に天国はない』
推薦文 えー、どうも今回「吸血鬼に天国はない」の1巻を推薦しました鳥羽ノラです。 推薦した理由はシンプルで自分がこの作品を好きだからです。シンプルだね。 まぁ内容としてもボリュームたっぷりで結構レビューしやすいかなと思ったのもあります。 ほんとだよ。嘘じゃないよ。この理由はちょっとしかないってだけで嘘じゃないよ。 9割9分9厘、周藤蓮先生の作品を読んで欲しいっていうオタク心だけど。
こんな感
リレーレビュー企画③ らきるち『絶深海のソラリス』
推薦文 みなさんは『絶深海のソラリス』というライトノベルをご存知だろうか。『このラノ2015』の作品部門では名だたる名作に次いで6位という脚光を浴びておきながらも、その年以降音沙汰がないためにタイトル通り深海の底に埋もれてしまったかのような、隠れた名作ライトノベルである。ソラリスという題からも察せられるSFとしても緻密な世界観と、気づいたら愛しくなっている魅力的なキャラクターたち。そしてなによりド
もっとみるリレーレビュー企画② 駄犬『誰が勇者を殺したか』
推薦文 当作品はファンタジーの世界観を上手く活かしながら、タイトルの意味が読むにつれて二重三重に意味を持っていき、かつ登場人物の関係性も一冊の中で綺麗にまとめられているということで、いずれかの要素一つをとっても間違いなく名作と言える作品です。結末がわかってしまえば新鮮な驚きは大きく減るにも関わらず、複数回読んでも楽しめるというレベルですね。そして世間の評価もそれにふさわしく高かったと認識している
もっとみる『冬期限定ボンボンショコラ事件』米澤穂信(東京創元社)
BLACK HOLE:NOVEL 2024年5月 小市民を志す小鳩くんはある日轢き逃げに遭い、病院に搬送された。
本作は、この衝撃的なエピソードから始まる。小鳩くんの小市民を目指すうえでの相方である小佐内さんは犯人探しを始め、小鳩くんは自分が轢かれた件について考えるとともに、小鳩くんと小佐内さんの原点となった、そして今回の事件と妙に符号する、過去の事件について思いを馳せることになる。この過去の
『絆光記』(アイドルマスター シャイニーカラーズ)
BLACK HOLE:EXTRA 2024年5月 アイドル育成ゲームに登場する46歳の名前のないおじさんがやたらと魅力的なイベントシナリオこと、『絆光記』の話をします。
物語の表の主人公であるアイドルユニット・イルミネーションスターズは、往年の名作をリメイクしたある映画作品の宣伝大使に任命されることになります。映画の魅力を伝えるためのイベントの一貫として、イルミネの三人は同年代ながら全く異なる
『涙は目覚めの後で』(崩壊:スターレイルVer2.2)
BLACK HOLE:EXTRA 2024年5月 RPGのプレイヤーとは、主人公がとりうる選択の可能性にほんの少しの指向性だけ与えることができる妖精のような存在である、という思想があります。
おそらく大空スバルの『ドラゴンクエストⅧ』実況で聞いた言葉だったと思うのですが、「DQ8は記憶喪失で自我の薄弱な主人公をプレイヤーが導き誘う物語だったから、自らの正体を知って『自分』を取り戻した彼がプレイヤ