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リレー小説 合宿2024(仮題) vol.8
顕現した三柱目の荒神——
ギョロリとむき出した眼球と、細くとがった髭。鍾乳石のような牙を無数にのぞかせている、大きく裂けた口腔。蝦蟇のごときその相貌から、かよわく愛らしいカイコガの姿を連想する者は、皆無といってよいだろう。
かろうじて、巨大な胴体から真横につき出すように生えている八本の脚——ただし猛禽類のような鉤爪をそなえている——と、斜め上方に伸びた翅の格好に、その面影がみとめられないこ
リレー小説 合宿2024(仮題) vol.7
白々しく反射していた——その陽光が、魁偉な異形に遮られる。
「——————」
無数の瓦礫の破片と共に、一直線に落下してくる双頭の巨竜。全長一二〇メートル。推定体重七万八千トン。その速度が不自然なほど緩慢に見えるのは、あまりの大きさに遠近感が狂わせられるからだ。
だが、しかし、このときは。このときばかりは。
走馬灯よろしくこの一ヶ月を回顧する彼の脳髄の回転数が、世界の全てを置き去りにしたが故
リレー小説 合宿2024(仮題) vol.6
「……え?」
僕はしばし言葉を失った。
扉の先には誰もいなかった。廊下に出て、双方向を見渡す。左は廊下の突き当たり、右は複数の扉が並んですぐ、廊下はさらに右側に折れ曲がっている。年月を感じさせる木の扉と、表面がくすんで剝がれかけたクリーム色の壁。そのどこにも人の姿は見当たらない。
ピンポンダッシュ? 自分で思い浮かべた可能性に、自分で疑問符を打つ。そもそも今日、この旅館には僕しか泊まっていな
リレー小説 合宿2024(仮題) vol.5
蚕というのは蛾の一種であり、人々の生活に密着した存在だった。その繭から取れる生糸の生産、輸出が盛んだった頃にはお蚕様として大層な拝まれようだったそうだ。虫に対して様をつけるなんて、と僕なら思うし、そう思っている人も結構いるかもしれない。これまた僕の思っていることだが、お蚕様とは元々蚕ではない別のもののことを指していたのではないだろうか。少なくとも僕の育った村ではそうとされている。
僕の地元は某
リレー小説 合宿2024(仮題) vol.4
ひどい夢を見た。僕は虫が大嫌いである。自分の口から糸が……、思い出しただけで吐き気がした。体を起こす気力もなく、心臓の鼓動を鎮まるのを待つ。暗闇にだんだん目が慣れる。しかし早く忘れてしまおうという意思とは裏腹に、新しい衝撃が僕を襲った。部屋がおかしい。僕の部屋は自慢じゃないが散らかっている。そのうえ床から積み上げた本の塔は優にベッドの高さを超え、起き抜けには視界に飛び込んでくるはずなのである。今僕
もっとみるリレー小説 合宿2024(仮題) vol.3
「ハ……??」
僕の体内から伸びる白く長い繊維は糸のように撚られており、艶めいた光沢を放っていた。まるで絹糸のようだった。一瞬その光沢に魅入られたものの、糸に纏わりついた滑りがどうにも不気味だ。取り敢えず吐き出そうと糸を引っ張ったが、口から糸が排出されるのに伴いナニカが体内で紡がれていく気持ち悪い感覚が臓腑を走った。反射的に糸から指を離す。
糸が口からダランと垂れる様は、さぞ間抜けに映ること
リレー小説 合宿2024(仮題) vol.2
とは言っても、途中までは特に変わりのない日だったのだ。少なくともその時は、そう思っていた。
心地の良い惰眠から目覚め、冷凍しておいたパンをおざなりに焼いて食べる。引き伸ばされたような時間の中、日に透かされてワタボコリが舞っている。二月にしては暖かい日。
パンくずが不意に口からこぼれ落ち、毛布に落ちそうになってとっさに吸い込んだ。半年以上畳んでいない折りたたみベッドに腰掛けていると眠気がまた襲
リレー小説 合宿2024(仮題) vol.1
怪獣というのはあまりにも巨大なものだから、ごく小さい人間どもの都合など知ったことではない。
なるほどわざわざこちらを狙って殺してくることはないけれども、しかし、大都会の真ん中を決戦の舞台に選びやがったおかげで何千人が踏み潰されることになるか、連中が考えることもまた、ないらしい。
「先輩! 先ぱぁい! 離れないでくださいよ!」
いま、僕と先輩は逃げ遅れた多くの民衆でごった返す東京駅丸の内駅前