東大新月お茶の会

「SF・ミステリ・ファンタジーetc...」を掲げる東京大学の総合文芸サークル・新月お…

東大新月お茶の会

「SF・ミステリ・ファンタジーetc...」を掲げる東京大学の総合文芸サークル・新月お茶の会の公式noteです。

マガジン

  • 新入生レビュー企画(2024)

    新入生によるレビュー企画です。ジャンルを問わず、おすすめ作品のレビューを書いてもらいました。

  • リレーレビュー企画

  • BLACK HOLE:VIDEO

    新作映像作品レビュー企画。姉妹企画「BLACK HOLE:NOVEL」「EXTRA」「MICRO BLACK HOLE」とともに、毎月末更新予定。

  • BLACK HOLE:NOVEL

    新作小説レビュー企画。姉妹企画「BLACK HOLE:VIDEO」「EXTRA」「MICRO BLACK HOLE」とともに、毎月末更新予定。

  • BLACK HOLE:EXTRA

    新作コンテンツレビュー企画。ゲーム、漫画などサブカルコンテンツ全般を扱います。姉妹企画「BLACK HOLE:NOVEL」「VIDEO」「MICRO BLACK HOLE」とともに、毎月末更新予定。

記事一覧

新入生レビュー企画⑤入江君人『蜘蛛と制服』

あらすじ  海野琥珀っていうちょっと変な娘、具体的にはまぁ、昆虫あのクワガタとかそういうかっこいい系じゃなくて蛆とかそこらへんの一般的には忌避されがちなのが好き…

新入生レビュー企画④山尾悠子『初夏ものがたり』

あらすじ ダークスーツをまとった謎の日本人ビジネスマン、タキ氏。彼のビジネスとは、「あちら側」の人々の「こちら側」を再び訪れたいという願いを叶えること。遺した娘…

新入生レビュー企画③カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

あらすじ 「介護人」キャシー・Hは「提供者」の世話を仕事としている。生まれ育った施設ヘールシャムはもう跡形もないが彼女にとっては何年もたった今も大切な記憶である。…

新入生レビュー企画② 宮田眞砂 『セント・アグネスの純真』

あらすじ  交通事故で母親を亡くした中学2年の少女・神里万梨愛は、ミッションスクールの聖花女学院に転入し、寄宿舎セント・アグネスで暮らすことになる。セント・アグネ…

リレーレビュー企画⑥ピーター・ディキンスン『ガラス箱の蟻』

推薦文 推薦本を提出してから時間が経っているのでもはやどうしてこんな本を推薦したのか記憶が曖昧なのですが、変な小説が好きな人に薦めるならこれが良いなとそのとき読…

新入生レビュー企画① 早坂吝『VR浮遊館の謎』

早坂吝『VR浮遊館の謎』 評者:水谷渓  人工知能探偵の相似とその助手である輔は、世界初のフルダイブVRゲーム機を用いた謎解きゲームに挑戦することになる。そのゲーム…

リレーレビュー企画⑤ 呉勝浩『スワン』

推薦文 『スワン』は真実にまつわる小説です。悲劇の裏で何があったのかめぐるお茶会で明らかになるのは、単に何があったのかだけでなく、その事実の裏にある葛藤と決断に…

リレーレビュー企画④周藤蓮『吸血鬼に天国はない』

推薦文  えー、どうも今回「吸血鬼に天国はない」の1巻を推薦しました鳥羽ノラです。 推薦した理由はシンプルで自分がこの作品を好きだからです。シンプルだね。 まぁ内…

リレーレビュー企画③ らきるち『絶深海のソラリス』

推薦文 みなさんは『絶深海のソラリス』というライトノベルをご存知だろうか。『このラノ2015』の作品部門では名だたる名作に次いで6位という脚光を浴びておきながらも、…

リレーレビュー企画② 駄犬『誰が勇者を殺したか』

推薦文  当作品はファンタジーの世界観を上手く活かしながら、タイトルの意味が読むにつれて二重三重に意味を持っていき、かつ登場人物の関係性も一冊の中で綺麗にまとめ…

リレーレビュー企画① 『十代に共感する奴はみんな嘘つき』

推薦文  十代に共感する奴はみんな嘘つき、そう言い切ってしまえるだけの鋭さで女子高生の生活を描き出した傑作。私が十代の女子高生ではなく、二十代の男性であるという…

『トラペジウム』

BLACK HOLE:VIDEO 2024年5月 この映画の公開当初、Twitterでたいへんよろしくない感想が話題になっていたのを目にしたかもしれない。あなたがそれを理由に本作の鑑賞を…

『冬期限定ボンボンショコラ事件』米澤穂信(東京創元社)

BLACK HOLE:NOVEL 2024年5月 小市民を志す小鳩くんはある日轢き逃げに遭い、病院に搬送された。  本作は、この衝撃的なエピソードから始まる。小鳩くんの小市民を目指…

『絆光記』(アイドルマスター シャイニーカラーズ)

BLACK HOLE:EXTRA 2024年5月 アイドル育成ゲームに登場する46歳の名前のないおじさんがやたらと魅力的なイベントシナリオこと、『絆光記』の話をします。  物語の表の…

『涙は目覚めの後で』(崩壊:スターレイルVer2.2)

BLACK HOLE:EXTRA 2024年5月 RPGのプレイヤーとは、主人公がとりうる選択の可能性にほんの少しの指向性だけ与えることができる妖精のような存在である、という思想があ…

『ゴジラ×コング 新たなる帝国』

BLACK HOLE:VIDEO 2024年5月 「人間ドラマがつまらないからさっさと怪獣を出せ」という感想を投げかけられなかった怪獣映画は少ない。とくに、本作も属する「モンスター…

新入生レビュー企画⑤入江君人『蜘蛛と制服』

あらすじ
 海野琥珀っていうちょっと変な娘、具体的にはまぁ、昆虫あのクワガタとかそういうかっこいい系じゃなくて蛆とかそこらへんの一般的には忌避されがちなのが好きな娘がなんか異世界転生しちゃって、そんで異世界の蜘蛛と仲良く?なるって話。ざっくり言えばね。うーん、さすがにざっくりしすぎな気がする、っていうかまぁ割となんか本質をつけてない気がするけどまぁいいか。詳しくは本を買ってもらってそれで確かめても

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新入生レビュー企画④山尾悠子『初夏ものがたり』

あらすじ
ダークスーツをまとった謎の日本人ビジネスマン、タキ氏。彼のビジネスとは、「あちら側」の人々の「こちら側」を再び訪れたいという願いを叶えること。遺した娘に会いたい、最後に恋人と話したい、あるいは……願いの理由は人それぞれである。しかし、「こちら側」を再び訪れる機会は一度きり。しかも、それがどんな理由であろうとも、蘇った人々が「こちら側」にいることができるのは、午後十二時までの間だけ――。

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新入生レビュー企画③カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

あらすじ
「介護人」キャシー・Hは「提供者」の世話を仕事としている。生まれ育った施設ヘールシャムはもう跡形もないが彼女にとっては何年もたった今も大切な記憶である。親友のトミー、ルースも共にヘールシャムで過ごしてきた。もうすぐ介護人をやめるキャシーは改めて過去に思いを馳せる。ヘールシャムの奇妙な教育、親友たちとの日々、そして救いのなかった運命に。

レビュー
この作品は作者カズオ・イシグロがノーベル

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新入生レビュー企画② 宮田眞砂 『セント・アグネスの純真』

新入生レビュー企画② 宮田眞砂 『セント・アグネスの純真』

あらすじ
 交通事故で母親を亡くした中学2年の少女・神里万梨愛は、ミッションスクールの聖花女学院に転入し、寄宿舎セント・アグネスで暮らすことになる。セント・アグネスには、同じ部屋に住むルームメイト同士で仮初めの姉妹になるルールがあり、万梨愛のルームメイトは「奇跡の白雪」とあだ名される高等部の白丘雪乃だった。誰に対しても心を開こうとしない万梨愛であったが、雪乃とともに謎を解いていく中で二人は絆を深め

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リレーレビュー企画⑥ピーター・ディキンスン『ガラス箱の蟻』

リレーレビュー企画⑥ピーター・ディキンスン『ガラス箱の蟻』

推薦文 推薦本を提出してから時間が経っているのでもはやどうしてこんな本を推薦したのか記憶が曖昧なのですが、変な小説が好きな人に薦めるならこれが良いなとそのとき読み終わったばかりの本を安直に挙げただけというのがたぶん実情で、昔の翻訳ミステリは慣れがないと読みづらかったかもしれず恐縮ですが、ともかく、変梃なシチュエーションを舞台に正統派英国パズラーを構築したまちがいなく稀有な作品なので、伏線の妙と独特

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新入生レビュー企画① 早坂吝『VR浮遊館の謎』

早坂吝『VR浮遊館の謎』
評者:水谷渓

 人工知能探偵の相似とその助手である輔は、世界初のフルダイブVRゲーム機を用いた謎解きゲームに挑戦することになる。そのゲームはあらゆるものが浮遊している館で七人の参加者にそれぞれ一つずつ固有の魔法が与えられ、その魔法で他の参加者と戦いながら館に異変を起こしている犯人を当てるというものだった。ゲームの中盤、参加者の一人が身体中の骨を折られた死体となって発見さ

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リレーレビュー企画⑤ 呉勝浩『スワン』

リレーレビュー企画⑤ 呉勝浩『スワン』

推薦文 『スワン』は真実にまつわる小説です。悲劇の裏で何があったのかめぐるお茶会で明らかになるのは、単に何があったのかだけでなく、その事実の裏にある葛藤と決断に他なりません。その先に立ち上がる、黒と白とも悪とも正義とも言い切れない、複雑なグラデーションに彩られた人間像には、単なるフィクションとは退けられない、リアリティを帯びた凄みがあります。このような傑作を一人でも多くの人に読んでもらいたいと思い

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リレーレビュー企画④周藤蓮『吸血鬼に天国はない』

リレーレビュー企画④周藤蓮『吸血鬼に天国はない』

推薦文  えー、どうも今回「吸血鬼に天国はない」の1巻を推薦しました鳥羽ノラです。 推薦した理由はシンプルで自分がこの作品を好きだからです。シンプルだね。 まぁ内容としてもボリュームたっぷりで結構レビューしやすいかなと思ったのもあります。 ほんとだよ。嘘じゃないよ。この理由はちょっとしかないってだけで嘘じゃないよ。 9割9分9厘、周藤蓮先生の作品を読んで欲しいっていうオタク心だけど。

 こんな感

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リレーレビュー企画③ らきるち『絶深海のソラリス』

リレーレビュー企画③ らきるち『絶深海のソラリス』

推薦文 みなさんは『絶深海のソラリス』というライトノベルをご存知だろうか。『このラノ2015』の作品部門では名だたる名作に次いで6位という脚光を浴びておきながらも、その年以降音沙汰がないためにタイトル通り深海の底に埋もれてしまったかのような、隠れた名作ライトノベルである。ソラリスという題からも察せられるSFとしても緻密な世界観と、気づいたら愛しくなっている魅力的なキャラクターたち。そしてなによりド

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リレーレビュー企画② 駄犬『誰が勇者を殺したか』

リレーレビュー企画② 駄犬『誰が勇者を殺したか』

推薦文  当作品はファンタジーの世界観を上手く活かしながら、タイトルの意味が読むにつれて二重三重に意味を持っていき、かつ登場人物の関係性も一冊の中で綺麗にまとめられているということで、いずれかの要素一つをとっても間違いなく名作と言える作品です。結末がわかってしまえば新鮮な驚きは大きく減るにも関わらず、複数回読んでも楽しめるというレベルですね。そして世間の評価もそれにふさわしく高かったと認識している

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リレーレビュー企画① 『十代に共感する奴はみんな嘘つき』

リレーレビュー企画① 『十代に共感する奴はみんな嘘つき』

推薦文

 十代に共感する奴はみんな嘘つき、そう言い切ってしまえるだけの鋭さで女子高生の生活を描き出した傑作。私が十代の女子高生ではなく、二十代の男性であるということはさておき、最果タヒの描きだす人間の解像度は非常に高い。また、電波系に近い文体によって生み出される文の軽さと攻撃的な内容というギャップ、詩的表現を小説に落としこむ手腕には、詩人でありかつ作家である最果タヒのらしさが溢れているように感じ

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『トラペジウム』

BLACK HOLE:VIDEO 2024年5月 この映画の公開当初、Twitterでたいへんよろしくない感想が話題になっていたのを目にしたかもしれない。あなたがそれを理由に本作の鑑賞をやめたというのであれば、いますぐ全てを忘れ、劇場に駆け込み、本作を鑑賞するべきである。そして劇場を出てから自分の頭を4回殴り、スマホを捨てろ。

 本作は、アイドルを題材にとった青春物語である。

 主人公・東

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『冬期限定ボンボンショコラ事件』米澤穂信(東京創元社)

『冬期限定ボンボンショコラ事件』米澤穂信(東京創元社)

BLACK HOLE:NOVEL 2024年5月 小市民を志す小鳩くんはある日轢き逃げに遭い、病院に搬送された。

 本作は、この衝撃的なエピソードから始まる。小鳩くんの小市民を目指すうえでの相方である小佐内さんは犯人探しを始め、小鳩くんは自分が轢かれた件について考えるとともに、小鳩くんと小佐内さんの原点となった、そして今回の事件と妙に符号する、過去の事件について思いを馳せることになる。この過去の

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『絆光記』(アイドルマスター シャイニーカラーズ)

BLACK HOLE:EXTRA 2024年5月 アイドル育成ゲームに登場する46歳の名前のないおじさんがやたらと魅力的なイベントシナリオこと、『絆光記』の話をします。

 物語の表の主人公であるアイドルユニット・イルミネーションスターズは、往年の名作をリメイクしたある映画作品の宣伝大使に任命されることになります。映画の魅力を伝えるためのイベントの一貫として、イルミネの三人は同年代ながら全く異なる

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『涙は目覚めの後で』(崩壊:スターレイルVer2.2)

BLACK HOLE:EXTRA 2024年5月 RPGのプレイヤーとは、主人公がとりうる選択の可能性にほんの少しの指向性だけ与えることができる妖精のような存在である、という思想があります。
 おそらく大空スバルの『ドラゴンクエストⅧ』実況で聞いた言葉だったと思うのですが、「DQ8は記憶喪失で自我の薄弱な主人公をプレイヤーが導き誘う物語だったから、自らの正体を知って『自分』を取り戻した彼がプレイヤ

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『ゴジラ×コング 新たなる帝国』

『ゴジラ×コング 新たなる帝国』

BLACK HOLE:VIDEO 2024年5月 「人間ドラマがつまらないからさっさと怪獣を出せ」という感想を投げかけられなかった怪獣映画は少ない。とくに、本作も属する「モンスターバース」は毎回のように人間ドラマの退屈さを批判されてきたシリーズだ。そんな中、前作『ゴジラVSコング』(2021)で完全に「バカ映画」路線へと舵を切ったアダム・ウィンガード監督は、この批判を躱すために、驚くべき解決策を提

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