東大新月お茶の会

「SF・ミステリ・ファンタジーetc...」を掲げる東京大学の総合文芸サークル・新月お…

東大新月お茶の会

「SF・ミステリ・ファンタジーetc...」を掲げる東京大学の総合文芸サークル・新月お茶の会の公式noteです。

マガジン

  • リレー小説 合宿2024(仮題)

    2024年度春合宿において作成されたリレー小説です。 3/28より八日間での連載を予定しています。

  • 【note連載版】ライトノベル回顧2023

    新月お茶の会の自称ラノベ担当・はじめまことが、12週間で2023年のラノベ界隈を振り返る。毎週土曜更新予定。(完結済)

  • 京極夏彦〈百鬼夜行シリーズ〉全レビュー

    東大総合文芸サークル・新月お茶の会のメンバーが、いま改めて京極夏彦〈百鬼夜行シリーズ〉と出会う連載企画。毎週火曜更新予定。(完結済)

  • MICRO BLACK HOLE

    新作を熱く語る「BLACK HOLE」と並行して、小説に限らず映画やマンガ、アニメなど、更新月含む二ヶ月間で発表された新作を広く紹介していきます。毎月末更新予定。

  • BLACK HOLE:EXTRA

    新作コンテンツレビュー企画。ゲーム、漫画などサブカルコンテンツ全般を扱います。姉妹企画「BLACK HOLE:NOVEL」「VIDEO」「MICRO BLACK HOLE」とともに、毎月末更新予定。

最近の記事

リレー小説 合宿2024(仮題) vol.8

 顕現した三柱目の荒神——  ギョロリとむき出した眼球と、細くとがった髭。鍾乳石のような牙を無数にのぞかせている、大きく裂けた口腔。蝦蟇のごときその相貌から、かよわく愛らしいカイコガの姿を連想する者は、皆無といってよいだろう。  かろうじて、巨大な胴体から真横につき出すように生えている八本の脚——ただし猛禽類のような鉤爪をそなえている——と、斜め上方に伸びた翅の格好に、その面影がみとめられないこともない。  だが、冷え固まった溶岩のように黒々とした体表面の色調と質感は、カイ

    • リレー小説 合宿2024(仮題) vol.7

       白々しく反射していた——その陽光が、魁偉な異形に遮られる。 「——————」  無数の瓦礫の破片と共に、一直線に落下してくる双頭の巨竜。全長一二〇メートル。推定体重七万八千トン。その速度が不自然なほど緩慢に見えるのは、あまりの大きさに遠近感が狂わせられるからだ。  だが、しかし、このときは。このときばかりは。  走馬灯よろしくこの一ヶ月を回顧する彼の脳髄の回転数が、世界の全てを置き去りにしたが故であった。  ピンポン。ピンポン。敷きっぱなしの布団。ドア越しの視線の耕作。先輩

      • リレー小説 合宿2024(仮題) vol.6

        「……え?」  僕はしばし言葉を失った。  扉の先には誰もいなかった。廊下に出て、双方向を見渡す。左は廊下の突き当たり、右は複数の扉が並んですぐ、廊下はさらに右側に折れ曲がっている。年月を感じさせる木の扉と、表面がくすんで剝がれかけたクリーム色の壁。そのどこにも人の姿は見当たらない。  ピンポンダッシュ? 自分で思い浮かべた可能性に、自分で疑問符を打つ。そもそも今日、この旅館には僕しか泊まっていないはずだ。では亭主の悪戯? 彼とは先刻少し言葉を交わしただけだが、生真面目な性格

        • リレー小説 合宿2024(仮題) vol.5

           蚕というのは蛾の一種であり、人々の生活に密着した存在だった。その繭から取れる生糸の生産、輸出が盛んだった頃にはお蚕様として大層な拝まれようだったそうだ。虫に対して様をつけるなんて、と僕なら思うし、そう思っている人も結構いるかもしれない。これまた僕の思っていることだが、お蚕様とは元々蚕ではない別のもののことを指していたのではないだろうか。少なくとも僕の育った村ではそうとされている。  僕の地元は某県にある、四方を山に囲まれた村だった。人もそんなに多くなく、典型的な田舎の村であ

        リレー小説 合宿2024(仮題) vol.8

        マガジン

        • リレー小説 合宿2024(仮題)
          8本
        • 【note連載版】ライトノベル回顧2023
          36本
        • 京極夏彦〈百鬼夜行シリーズ〉全レビュー
          15本
        • MICRO BLACK HOLE
          5本
        • BLACK HOLE:EXTRA
          5本
        • BLACK HOLE:NOVEL
          21本

        記事

          リレー小説 合宿2024(仮題) vol.4

          ひどい夢を見た。僕は虫が大嫌いである。自分の口から糸が……、思い出しただけで吐き気がした。体を起こす気力もなく、心臓の鼓動を鎮まるのを待つ。暗闇にだんだん目が慣れる。しかし早く忘れてしまおうという意思とは裏腹に、新しい衝撃が僕を襲った。部屋がおかしい。僕の部屋は自慢じゃないが散らかっている。そのうえ床から積み上げた本の塔は優にベッドの高さを超え、起き抜けには視界に飛び込んでくるはずなのである。今僕を取り囲んでいるのは、一面殺風景な壁、壁、壁……壁ではないのだ。 夢じゃなかった

          リレー小説 合宿2024(仮題) vol.4

          リレー小説 合宿2024(仮題) vol.3

          「ハ……??」  僕の体内から伸びる白く長い繊維は糸のように撚られており、艶めいた光沢を放っていた。まるで絹糸のようだった。一瞬その光沢に魅入られたものの、糸に纏わりついた滑りがどうにも不気味だ。取り敢えず吐き出そうと糸を引っ張ったが、口から糸が排出されるのに伴いナニカが体内で紡がれていく気持ち悪い感覚が臓腑を走った。反射的に糸から指を離す。  糸が口からダランと垂れる様は、さぞ間抜けに映ることだろう。しかし先輩は僕を睨め付けたままで、笑うそぶりはなかった。  とにかく先輩

          リレー小説 合宿2024(仮題) vol.3

          リレー小説 合宿2024(仮題) vol.2

           とは言っても、途中までは特に変わりのない日だったのだ。少なくともその時は、そう思っていた。  心地の良い惰眠から目覚め、冷凍しておいたパンをおざなりに焼いて食べる。引き伸ばされたような時間の中、日に透かされてワタボコリが舞っている。二月にしては暖かい日。  パンくずが不意に口からこぼれ落ち、毛布に落ちそうになってとっさに吸い込んだ。半年以上畳んでいない折りたたみベッドに腰掛けていると眠気がまた襲ってくる。倒れ込むと心地よいスプリングの振動が背中から伝わってきた。視界の端の小

          リレー小説 合宿2024(仮題) vol.2

          リレー小説 合宿2024(仮題) vol.1

           怪獣というのはあまりにも巨大なものだから、ごく小さい人間どもの都合など知ったことではない。  なるほどわざわざこちらを狙って殺してくることはないけれども、しかし、大都会の真ん中を決戦の舞台に選びやがったおかげで何千人が踏み潰されることになるか、連中が考えることもまた、ないらしい。 「先輩! 先ぱぁい! 離れないでくださいよ!」  いま、僕と先輩は逃げ遅れた多くの民衆でごった返す東京駅丸の内駅前広場にいて、あっちこっちと押されながら、怪獣たちが戦うのを眺めている。恐怖に慄く

          リレー小説 合宿2024(仮題) vol.1

          【note連載版】ライトノベル回顧2023|毎週レビュー企画:2023年12月編

           この企画では、新月お茶の会のラノベ担当を自称するはじめまことが、各月のライトノベルを振り返り、印象深かった作品や界隈で盛り上がった作品・話題について語りつつ、その月の面白かった新作2シリーズを選んで1000文字前後のレビューをしていく。なお、対象作品はレーベル公式サイトの「n月の新刊」の分類(ラノベの杜スタイル)を基準とし、実際の発売日や発行日は無視するものとする。なお、ここで紹介される新作を私が全て読んでいるとは限らない。また、「界隈」とはX(旧Twitter)におけるラ

          【note連載版】ライトノベル回顧2023|毎週レビュー企画:2023年12月編

          【note連載版】ライトノベル回顧2023|レビュー:『血の繋がらない私たちが家族になるたった一つの方法』 雲雀湯 著(角川スニーカー文庫)

           『転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子だと思って一緒に遊んだ幼馴染だった件』で有名な雲雀湯先生の新作は、最近増えてる気がする幼馴染と義妹のダブルヒロイン。特徴として、どちらのヒロインも昔馴染み(幼馴染に対してうるさい私が勝手に使ってる「昔仲良かったが途中で引っ越して行き、最近再会したヒロイン」を指す言葉)の文脈が挙げられる。  義妹の方は実妹だと思って別れ、再会してすぐに義妹バレという流れ。両親がヨリを戻すのはそれなりに珍しいが、こうすることで妹に昔馴染み属性を入れるができ

          【note連載版】ライトノベル回顧2023|レビュー:『血の繋がらない私たちが家族になるたった一つの方法』 雲雀湯 著(角川スニーカー文庫)

          【note連載版】ライトノベル回顧2023|レビュー:『好きな子の親友に密かに迫られている』 土車甫 著(角川スニーカー文庫)

          ※このレビューはネタバレを含みます。  端的に言うならば「二番目彼女」から綺麗にエグみだけを取り除いた作品。恋に落ち沈み壊れていく女の子の描写がとにかく上手い。不安定な停留点でのラブコメが上手すぎる。個人的には今年一番のラブコメと言っても過言ではない。恋する乙女が最強可愛いラブコメ。  まず、全体の構成について。最近のシチュコメはメインとなるシチュを導入として持ってくることが多いが、この作品では一巻の引きまで綺麗に引き伸ばす。如何にして好きになったか、如何にしてその子に親

          【note連載版】ライトノベル回顧2023|レビュー:『好きな子の親友に密かに迫られている』 土車甫 著(角川スニーカー文庫)

          京極夏彦〈百鬼夜行シリーズ〉全レビュー|第15回:『鵼の碑』

           作家である久住は、ある女性から父親殺しの記憶を告白され、探偵の益田は失踪者捜索の依頼を受ける。そして、刑事である木場は消えた三つの他殺体、学僧の築山は過去目撃された妖光という、それぞれ異なる謎に出会う。過去の出来事同士に繋がりはあるのか、浮かび上がる「鵼」の正体とは——。  『鵼の碑』は、百鬼夜行シリーズ17年ぶりの新作長編である。単行本とノベルス両方で発売され、発売日には多くの書店で平積みが見られた。単行本で1280ページ、ノベルスで832ページ、ファン待望のレンガ本だ

          京極夏彦〈百鬼夜行シリーズ〉全レビュー|第15回:『鵼の碑』

          【note連載版】ライトノベル回顧2023|毎週レビュー企画:2023年11月編

           この企画では、新月お茶の会のラノベ担当を自称するはじめまことが、各月のライトノベルを振り返り、印象深かった作品や界隈で盛り上がった作品・話題について語りつつ、その月の面白かった新作2シリーズを選んで1000文字前後のレビューをしていく。なお、対象作品はレーベル公式サイトの「n月の新刊」の分類(ラノベの杜スタイル)を基準とし、実際の発売日や発行日は無視するものとする。なお、ここで紹介される新作を私が全て読んでいるとは限らない。また、「界隈」とはX(旧Twitter)におけるラ

          【note連載版】ライトノベル回顧2023|毎週レビュー企画:2023年11月編

          【note連載版】ライトノベル回顧2023|レビュー:『双子まとめて『カノジョ』にしない?』 白井ムク 著(ファンタジア文庫)

           先週レビューした『二番目な僕と一番の彼女』に引き続き、三週間ほど前に投稿したMICRO BLACK HOLEの連作レビューでもこの作品を扱ったが、こちらで詳しく扱っていく。  タイトル・あらすじからは見えてこないが、才能というものに対して正面からぶつかる良作である。  「記憶力が高いだけのモブ」を自称する、才能はあるがそれが人を傷つけることを知り隠すようになった主人公。突出した才能を持つが故に学校に行っていない自由奔放な双子の姉。学校で優等生として振る舞う一方で、姉や主

          【note連載版】ライトノベル回顧2023|レビュー:『双子まとめて『カノジョ』にしない?』 白井ムク 著(ファンタジア文庫)

          【note連載版】ライトノベル回顧2023|レビュー:『依存したがる彼女は僕の部屋に入り浸る』 萬屋久兵衛 著(角川スニーカー文庫)

           端的にこの作品を評するなら「宗教」であろう。意図的に個人を消された、聖人とは言えないまでも超人間的な主人公が、三人のメフィストフェレスによって堕落し、最後には人間的な悩みを解決して終わる。なんなら最後には挿絵まで出てくる。堕落を知り、退廃的な生活を送り続ける中で、だんだんと個性を帯びていくのである。きっと次巻の最後では主人公のセリフが用意されているに違いない。  とまあそんな微妙にピントを外した堅苦しいレビューは置いておいて、一応主人公について補足しておくと、この作品の主

          【note連載版】ライトノベル回顧2023|レビュー:『依存したがる彼女は僕の部屋に入り浸る』 萬屋久兵衛 著(角川スニーカー文庫)

          京極夏彦〈百鬼夜行シリーズ〉全レビュー|第14回:『今昔百鬼拾遺 月』

           わたしたちは、常日頃から情報を無意識的に選択し続けている。のみならず、他人が取捨し終えたあとの情報を、丸っと生の情報と誤認して受け止めてしまう。加工された情報と生の情報、この間にある情報量の差が死角を生み、そしてそれが謎を生む。妖怪はこの死角を好み跋扈する。  本書は〈百鬼夜行〉シリーズの番外編短編集、中禅寺敦子の巻である。中禅寺敦子といえば、ご存知京極堂こと中禅寺秋彦の妹君であり、〈百鬼夜行〉シリーズに出てくる登場人物のなかでも数少ない「社会人」である。もうひとりのキー

          京極夏彦〈百鬼夜行シリーズ〉全レビュー|第14回:『今昔百鬼拾遺 月』