僕は女の子にはなれない
背景
子供のころから僕は、女の子とだけおしゃべりして男の子には馴染めないタイプだった。声も高かったし、髪も長めなので、女の子に間違えられることがとても多かった。
父親が怖かったのと痴漢にあったことが一度だけあるので、男の人全般が怖い時期があり、男性にシンパシーや憧れを感じなかった。
むしろ「セックスアンドザシティ」のミランダとか、女性のほうにかっこいいなあという感情を持つことがあった。
こうした背景から、自分は女の子になりたいのだろうか?と思っていた時期がある。結構最近まで。
フェミニンだったころ
メイク男子が取り上げられるずっと前から、ファンデーションを使ったことがあるし、幸い身体は細かったので女性ものの服を着ていた。
スカートやピンヒールはついに履くことはなかったが、パフスリーブのブラウスとかシャツワンピース、流行った当時のガウチョパンツを身に着けていた。太いものならヒールブーツも履いた。
ヒールを履いていると脚が長くなって、自分に自信が持てたことを覚えている。パフスリーブのブラウスは、たぶんドラマの影響をうけていたのだが気分が上がったことをとてもよく覚えている。
本当の自分になったという感覚ではなく、化けれる感覚が心地よかった。むしろ自分を忘れられたことが嬉しかった。
メンズのアイテムを着ることもあったが、ジャケット&パンツのような固いものではなく、かわいげのあるもの・中性的なものを選んでいた。
変化のきっかけ
そんな生活を5年ほど?続けていたのだが、変化のきっかけは引っ越しだった。
家に帰るまでに坂道があるのだが、それをヒールで登るのがつらいのだ。無理してヒールシューズで歩いていたら、足の裏に魚の目ができてしまって、次第にヒールは履けなくなってしまった。
また、生まれつき肌が弱いため、メイクはそんなにできなかったのだが、勤務先でデザインの勉強をする中で気づいてしまった。ファッションはヘアメイクも含めたトータルのバランスが重要であると。
フェミニンな洋服には、どうしても肌を無機質というかトーンを均一にしないと似合わないのではないか?という思いが日増しに強くなって、徐々に着る機会が減っていた。
加えて、仕事が忙しくなったこともあって、着心地がいい・アイロンなしでも手入れが楽であること重視するようになっていた。
自分の身体の老化
上に書いた通り、仕事が忙しくなってついつい唐揚げやマックばかり食べているうちに、いつの間にかお腹が大きくなってしまっていた。
痩せないといけないと思って筋トレを始めたら、お腹がやせる前に二の腕が筋肉で太くなるし、腕の裏側にいままでよりも黒いムダ毛が生えてくる。
きちんと自家用の脱毛マシンを使っても、口の上のヒゲまではなかなか薄くならなかった。ひげはそこまで濃い顔ではないが、うっすらひげの生えた状態でフェミニンな服は着づらい。。
高いと思っていた声も、友達に聞いてみると今はそうでもないらしいということが分かった。
残念なことに、僕はもう女の子にはなれないようだ。
女の子になるため、ではないメイク
あるときの伊勢丹で、目の周りや髪に色を塗れるカラーバーに出会った。
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美容部員さんに目の周りを赤く塗ってもらって、髪をメッシュのように赤くしてもらって、なんだか劇の人みたいだとワクワクしていたら、はたと気づいた。
今の自分はフェミニンになりたいのではなく、メイクがしたいのだと。
女の子にはなれないけれど、化けることはできるかもしれないと。
このカラーバーに出会ったときには、世の中はメンズメイクもかなり流行っていて、「メイク=女性がするもの」という価値観が結構変わっていたことも大きいが、
この気づきのおかげで、僕は自分の中にある女の子への憧れを徐々に手放したように思う。
「僕は女の子にはなれない」
この女の子への憧れの放棄は、社会的な圧力でやめたのかもしれない。社会が向けるまなざしを内面化してしまったのかもしれない。
自分が思っていた本心をいつの間にか変えてしまったのかもしれない。
今も本当はなりたい心が残っているのかもしれない。
だけど、いまの自分は、自分が違和感を感じない服を着ていたいと思う。自分のいま持っている顔・体型・価値観に180度の嘘をつくことなく、それを活かしたファッションがしたい。
(何もせずに放置するという意味ではない)
僕はもう女の子にはなれない。
しかし、なれなくても気分を変えるためにメイクはできるし、なれたとしてもそこには何らかの無理な抑圧がありそうで、どうも幸せではなさそうだと現時点では思っている。
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