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【詩人の読書記録日記】栞の代わりに 7月11日~7月17日

はじめに

こんにちは。長尾早苗です。蒸し暑い日々が続きますね。みなさんどうお過ごしでしょうか。わたしはカラッと湿度の低い北欧の夏のことを毎日考えながら過ごしています。

7月11日

・茨木のり子『詩のこころを読む』岩波ジュニア新書

わたしの読書体験には、父の書斎が大きく関わってきています。実家には小さな書斎があり、そこに小さな本棚がありました。本好きな父が集めてセレクションしたもので、宝物をのぞくように、小さなわたしはこの本を手に取りました。茨木のり子さんがものすごい詩人だということも認識していなかったような気がしています。ただ、このアンソロジーや詩論の中で、谷川俊太郎さん、松下育男さん、石垣りんさんたちの作品と初めて出会いました。今回、父からハンドメイドで作ってもらった本棚を新居に設けるにあたり、絶対に置こうと思った本です。お気に入りの詩に鉛筆で丸がしてあるのが昔のわたしらしいなと思いました。

・大下さなえ『夢網』思潮社

ご縁で手に取った一冊。恩師で小説家のほしおさなえ先生。先生は詩人でもあり、これは前のペンネームの第一詩集です。自分が開かれていく感覚、自分の中の奇妙な感覚。ある程度作者自身が自分を解体して、くらげのように作者自身がたゆたっている感覚。揺らいでいく感覚。そんな感覚が詩人にとって必要な気がしていて、わたしもそんな詩を書きたいといつも思っています。たゆたい、ゆらぎ、ななめになってかしぐ。そんな「自己」と「世界」の感覚が大事なような気がします。

7月12日

・瀬尾まいこ『見えない誰かと』祥伝社

仕事。同僚と一緒に過ごした時間は、あまりにも貴重な時間でした。たくさん、いいことも悪いことも教えていただき、今同僚がいない中で懐かしむことも多いです。いい所と悪い所があるのですが、一人で働くということは、厳しいものも多いです。瀬尾まいこさんは教師として働いていましたが、そんな彼女が出会ったたくさんの先輩・後輩・上司・同僚たちの話を読むと、こんなこともあったなあとわたしも懐かしく思い出したりします。わたしがコミュニケーションを取りながら一人でしている今の仕事は、不安もありながら楽しめています。自分にとって「仕事」でつきあうひととは、と考えさせられました。

・朝吹亮二『密室論』七月堂

ことばから、ことばへ。一つのことばにここまでこだわって、それから途切れることなく次のことばへと緊張感がありながら紡がれていくことば。行替えをしないで、次々と押し寄せてくるポエジーとことば。朝吹亮二さんの「抹消」「ない」という否定のことばや、そこから紡がれていくことばのイメージが、読者に休みを与えないほどに、呼吸と共に一気に詩を吐き出していくように書いている詩集です。七月堂さんの「ヤバイ本」として紹介したい詩集ですが、そのくらいすごい本です。

7月13日

2日間、執筆の疲れが出たのか寝込んで本を読んでいました。今日はすっきりと起きて推敲、移動図書館。雨になったり晴れになったり、本にとっても図書館員さんにとっても大変だろうなあ。高橋新吉『ダダイスト新吉の詩』、秋山駿『小林秀雄と中原中也』を予約。

・水無田気流『黒山もこもこ、抜けたら荒野 デフレ世代の憂鬱と希望』光文社

詩人でご縁のある水無田気流さんの「作者自身の家庭から展望する日本社会」についての新書です。水無田気流さんは詩人でもあり社会学者でもあり、母親であり娘でもある。一つの家庭ってその時代の縮図だと思っていて、まさに人だかりとか、就活とかって人の頭がたくさん、「黒山もこもこ」なわけです。だからこそそんな彼女のことばの選び方が面白かったし、詩人として社会を見つめるまなざしが新鮮でした。彼女が未来をきちんと見据えて、さまざまな社会の事例の代表例として「我が家」を描いていたのがよかったです。

・五十嵐貴久『ウェディングプランナー』祥伝社

結婚式、懐かしいなあ……実はわたしもウェディングプランナーの方にお願いしたんです。本当に人脈も広ければ、段取りもいい。新郎新婦にとって最高の一日となるように、この主人公の草野こより自身も努力の積み重ねがあって、でもそれでも自分が「花嫁」という立場になると「仕事」として見てきた「花嫁」と「自分」が重ならなくなるんですよね。それでもラストはほろりときたなあ。結婚式にトラブルはつきもの。そこをどうかわしていって笑顔にできるかが勝負だと教えていただきました。

・しまおまほ『スーベニア』文藝春秋

恋を楽しみたい、というのはどの女性にも当てはまるし、だからこそ気をつけなければいけないことも多々あります。このシオという主人公は、恋にはしゃいで浮かれて、そして望まぬ妊娠と出産をしてしまった母。父親の方は読者としても、「この父親、最低……」と思えるような男なのですが、切ないねえ……こういう話はどこにでも転がっていて、結局はシオ自身、女性だけで解決するしかないというのは本当に酷なことだと思います。本当に愛していて、お互いのことを思っているからこそ、愛し合うということができるし、それはからだだけではないようにも思えます。

・西加奈子『ミッキーたくまし』筑摩書房

西加奈子さんの小説はテーマが重く、非常に体力を使うのですが、その彼女の根本的な考え方はどんなものなんだろうと思ってエッセイを手に取りました。愛猫のモチのこと、旅をすること、生活のはちゃめちゃ。そういったてんやわんやな日常が、彼女の生活を彩っているのだなあと思います。そして、そうした中から生まれる作品は、ある種彼女自身を離れて「ひとに寄りそう」かたちで描かれているので、考えさせられるのかもしれません。幸せに生きることを日常にすること。どんな喪失があっても。

7月14日

原稿に目を通し、細かい所を推敲しました。締め切りまでまだ余裕があるので、読書に精を出すなど。

・幸田文『台所帖』平凡社

昭和という時代と、その時代に生きた女性たちはほとんどが「台所」と切り離せないような気がしています。今でこそ「女性は台所に縛り付けられていた」ということもできるけれど、社会、というより一つの家族の単位として、母がいなければ父と共に自分で料理を切り盛りする、というのはあります。そして、幸田文さんは幸田露伴の娘。やはり「昭和」という時代の中で、彼女が台所で育ったというのは間違いのないことだと思います。わたしの好きなエッセイストは、白洲正子さん・向田邦子さん・幸田文さんなのですが、みんなことばの使い方が上品です。そして、彼女たちは間違いなく「昭和」を生き抜いた人です。わたしと、台所。改めて主婦になって立ってみると、以前よりはるかに思い入れがあり、いい意味でも他の意味でも思うところとなりました。ただただ、時代というもの・家族というもの・生活というものを考えてしまいます。

・山田詠美『アンコ椿は熱血ポンちゃん』新潮社

わたしは尊敬と親しみの念をこめて山田詠美さんのことを「エイミー」と呼んでいるのですが、彼女みたいに自分をさらけ出すことは難しいと思います。自分の恥だとか、そういうものを彼女なりの文体で、「ごめんなさーい!」とすっと言えてしまう。パワーがある作家にしかできないことだと思っていて、自分を脚色せずに解体して泳がせて見せつけることをわたしは若さだと思っています。そして、それがいくつになってもできる作家はいつまでも若くてやっぱりすごいんです。このエッセイでも、どんなに自分が苦労したりしたことであっても、素直にすぱっと爽やかにかわしてしまう、そんな心地よさがありました。

・西澤保彦『回想のぬいぐるみ警部』東京創元社

容姿端麗、頭脳明晰の音無美紀警部とタッグを組む江角警部。音無警部は男性で、ぬいぐるみが大好き。大好きすぎて、彼の担当する事件はなぜか「ぬいぐるみ」が真相を握っている……と切り口が面白いミステリーでした。名探偵はたいてい変人ですし、その「変人」度合いが高いほど名推理をしたりします。ぬいぐるみは何もかもを見ているけれど、何もしゃべることができない。だからこそ、大人も子供も引き付けてやまないのかもしれません。

・九把刀 阿井幸作・泉京鹿訳『あの頃、君を追いかけた』講談社

舞台は台湾。台湾の高校生も、やっぱり勉強に恋愛に忙しい。男子二人で女子を取り合って喧嘩したり、高嶺の花の女子がいたり。それでも、やっぱりみんな誰にも言えない「何か」の秘密を抱えていて、みんな自分を追い詰めて悩んでいる。青春のただなかにいるとわからないかもしれないけれど、そんな苦しい時代も、後になって思い返せば「楽しかった」の一言につきます。この小説は小説家が自身の青春を振り返るという形ですが、キレキレのユーモアのセンスが抜群でした。

7月15日

高橋新吉『ダダイスト新吉の詩』、秋山駿『小林秀雄と中原中也』回送中。なんだか夏らしい気候になってきたなあ。

・バレリア・ルイセリ 松本健二訳『俺の歯の話』白水社

メキシコ人の「世界一の競売人」と名乗る男の物語。ちょっと上から目線なのですが、威張っている割には仕事はできる男。そんな彼の「歯」にまつわるエピソードと、競売でのエピソードが絡められ、独特に「物語の構成・技法」にまで及んでいます。最近読んだことがあまりない国の翻訳小説を読みだすようになりましたが、その土地その土地の風土が根強く出ていて、なんだか旅でもしているような気分です。

・伊東潤『もっこすの城 熊本築城始末』角川書店

熊本城。色々な思い出がこみあげてきます。旅行で見に行った時。テレビで見ていたけれど、県民みんなでがんばっていてわたしも応援していたあの時。やはり、訪れたことがある場所だと感慨もひとしおですね。加藤清正に本能寺の変のあと、「戦国最強の城を造れ」と申し渡された藤九郎。たった二十歳という若さで、なにかとうるさく言ってくる加藤清正に知恵を絞って仕え、立派に熊本城を建築します。どんな困難があっても、そしてどんなことを言われてもへこたれない心、そういう意志が大事なんだな、とラストにはほろりときました。

7月16日

今日はヨガレッスンお休み。シンプルに心地よく晴れているので、そんな気分で暮らしたいなあ。朝の散歩で朝顔を見つけ、帰ってきてコーヒー、推敲、打ち合わせ、メッセージ。

7月17日

かねてよりお招きいただいていたので、師と仰ぐ先生の哀悼会に行っていました。そこでも表現する者としてたくさんよい刺激をいただき、夕食まで時間があったので古本屋・神社・お寺めぐり。ふらっと入った古書店が出版社さんで、話が弾みました。

・浅野裕子『29歳でもっと素敵に生まれ変わる本 未来(あした)が10倍楽しくなる「時間割」』三笠書房

ふと立ち寄った古書店でワゴンセールの中発見。夜寝る前に読んだのだけど、そうだよなあと思うところと、むむ、これはわたしの考えと違うぞ、と思うところと。やっぱり、自分の芯とか、「答え」を持っているひとは強いと思います。この本でそうだよなあと思ったのは、20代後半になってくると、30代の立ち振る舞いを見据えなければいけないということです。自分磨きは絶対に必要だと思うし、20代の間から、内側からにじみ出る輝きを「作る」こと。笑顔でいる、だとか、自分のために朝ご飯を用意する、自分だけのこだわりを持つ、一人の時間を大事にする、とか。他人に夢を任せないというのもそうです。仕事もやりがいが見つけられるまでとことんやりつくす。そういったことができるのは20代後半の特権かな、と思いました。

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