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【詩人の読書記録日記】栞の代わりに 7月25日~7月31日

はじめに

こんにちは。長尾早苗です。すっかり夏らしくなりましたね。夏休みに入った学生さんも、就活をがんばっている方もいるんだろうな。どうぞからだに気をつけてくださいね。

7月25日

今日は寄稿する雑誌に向けて詩作。家事と健康と仕事のことで色々と考える朝から始まり、それでも乗り越えていく勇気が出ました。凪良ゆう『流浪の月』を予約。

・瀬尾まいこ『その扉をたたく音』集英社

売れないギタリスト宮路がボランティアで訪れた介護施設。実はそのスタッフの渡部君はサックスの神さまだった。宮路がサックスを聞くために介護施設に出かけるたび、たくさんの出会いがあって、宮路自身も変わっていきます。宮路は29歳。20代後半、一番もやもやする時期ですよね。安定しているけど、何かアクションを起こさないと、すぐに30代になってしまうという焦りはあるんですけど、その「何か」がわからない。もやもやします。そういう時はまず自分の「好き」を見つめて、焦らないで自分の道を淡々と進むことだと思います。わたし自身はそういう機会があって、結婚して出版する、ということでもやもやを抜けられたのですが、他の友人の話を聞くと、ある種、30代より20代後半の方が苦しいかも。それは男女問わずです。宮路自身も、自分の周りでは父親になったひと、結婚したひと、転職したひと、そういう「人生の節目」を迎えてとてもきらきらとして見えるのに、どうして自分だけ、というのも見えてくるんですが、そういったことをきっかけに自分を見つめなおしてみる機会が「介護施設に通ってサックスを聞く」ということで、宮路にあってよかったなと思います。もやもやしてる20代後半のみなさん、あなたたちは若い。すごいと尊敬できる人より、永遠に若い。何気ない仕事とか、日常でもやもやは起こりうるので、何回も自分を見つめ返してみようとわたしも思いました。

・平松洋子『下着の捨てどき』文春文庫

暮らしが好き、というひとは結構大人な感じがします。今はわたしもリビングで仕事をしていますし、家にいる時間が必然的に長いのですが、そういう中で暮らしの「好き」を追求しようとして出会ったエッセイストが平松洋子さんでした。自分の「好き」を語ることって、何歳になっても美しくて愛らしいです。そして自分もなんとなく「好き」について考えることができるので、毎日それを繰り返していると結構幸せという時間が訪れたり。自分が大人になったな、と日々出会う子どもたちを見ているとわかる、というのにはじんときます。腹の底から理不尽なことで泣きわめきたい時だって、大人になってもあるんですよね。それを怒りに変えてしまうのか、よい方に変えるのかはその人次第だと思います。

7月26日

詩作をしながらラジオを聞くのが趣味になりました。語学や古典落語などを勉強しています。町田康『残響』を予約。寄稿した詩誌『ハルハトラム3号』が届きました。最後に拙作「何から」が掲載されています。どうぞ、よしなに。

・矢部太郎『ぼくのお父さん』新潮社

絵本作家のお父さんとぼく。父息子の関係ってすごくドライだと思うんですけど、絵本作家のお父さんはいつも家にいることがぼくにとっての常識でした。でも、どんどん子どもながらに成長していくにつれ、お父さんがアーティスト気質なのを根に持つようになったりします。それでも、今の漫画家の仕事をしていると「お父さん」に近づいていくような気がするぼく。思い出っていいなあ。家族の思い出がある人は本当に幸せだと思います。読み終えて、ほっとする一冊でした。

7月27日

今日は推敲とエッセイを1本。移動図書館は来てくれました!そして雨の間はロシア文学をラジオで学びました。不安定なお天気の一日でしたね。みなさん大丈夫でしたか? みんなが元気でいられますように。町田康『残響』、工藤玲音『水中で口笛』回送中。

・神野紗希『もう泣かない電気毛布は裏切らない』日本経済新聞出版社

あの紗希さんが、もうママ! というくらい、本で出会う方はわたしの知らないところでどんどんライフスタイルが変わっていきます。みずみずしいブドウのようにつるん、とした感性はそのままに、息子さんを見つめる目、俳人の「職業病」としてすべてに季語を見つけるというのが面白かったです。わたしは子どもを産んでいないので、色々友達から話は聞いていますが、子どもが親にしてくれる、大人にしてくれるという笑みがなんだか、まぶしかったです。息子さんに涙を拭かれて、悲しみはなくなっていないけれどどこか前を向こうと思えたエピソードにはグッときました。

・角田光代『いきたくないのに出かけていく』スイッチ・パブリッシング

2019年に出版されたエッセイ。旅、旅……行きたい! というとても我慢を強いられている中で、そんなわたしを癒してくれるのは、誰かの旅の思い出の記録だったり、わたしが以前旅したところの写真を見て癒されています。今部屋に一日中いる生活にも慣れてきたけれど、どこか遠くに行きたい、という思いは一日のうち夕方近くにやってきて、なんだか写真を見る機会が増えました。角田さんはもっと強い思いがあるんじゃないかなと思います。その街、その街に対する愛着や思いが強すぎて、楽しい思い出があっていいなあと思うのと、そこに泣きたくなるほどの情景を感じました。

・榎本好宏『句集 青簾』角川書店

平成二十七年からの三年間を日記のように綴った句集です。ひらがなの多用に挑戦的な意図があるようで、やわらかな読みをすることができました。自分の人生の中で流れていく時間を受け止め、八十代という年齢に入って、四季を感じていこうというひととしても俳人としてもの意気込みが感じられ、そこから発展されて句をもっとよい作品にしていこうという創作意欲に訴えられる作品が読み取れました。

7月28日

・西山ゆりこ『句集 ゴールデンウィーク』朔出版

詩人も俳人もそうだと思うのですが、第一詩集とか第一句集って、すごく重要だと思うんです。自分の半生というか、そういうものをすべて解体できるものだと思います。俳句を始めたことで自分の時間が豊かになった、というあとがきは本当に共感できました。自分の日記的に詠んでいたのでしょうか。すべての物事に四季を感じて、時間の移ろいを詠む、というのは詩や俳句共通だと思いました。スターバックス、とかサラリーマンという最近のことばと比較的慣習に従ったことばが一緒に入っているのがいいなと思いました。

・岩田由美『雲なつかし』ふらんす堂

雲ということ、雲って事象ですけど、色々な意味が含まれていることばですよね。あの世とこの世、というのを常に感じながら詠んでいるのかなと思いました。ひとはだれしもあの世にいくという儚さを持っているんですけど、この世で暮らす、というのはもはや宿命でもあったりして。そのこの世で暮らす毎日は、毎日儚いんだ、だからもっと楽しもう、という何か応援をいただいた気がします。

・安倍川翔『句集 今と決め』ふらんす堂

翔さんはどこか良い意味での浮遊感があると思いました。でも、司書をしていた経歴から夫とアメリカ暮らしをしたり、子どもを産んだり。そういったもろもろが彼女を彼女として作っていったのだと思いました。女盛りってみなさん迷っている方も多いですが、翔さんはそれを「今と決め」という決意を示しています。女盛りって、自分で決めていいんですよね。どんなに年齢を重ねていようが、子どもを持っていても、「〇〇ちゃんのママ」という肩書をいったん脱ぐこと。それはものすごい発見だと思いました。

・凪良ゆう『流浪の月』東京創元社

怖い。平らかな気持ちの時でないと読めないほど、うん、怖い。わたしは凪良ゆうさんを『神さまのビオトープ』『わたしの美しい庭』から入って、穏やかだけど不思議な作家さんだなあと思っていました。今回この本が本屋大賞を受賞された経緯もあって、図書館では予約がものすごかったので、地域のセンターで借りたのですが、うん、怖い。書影がストロベリーアイスなんですけど、少女誘拐事件から始まり、「アイスクリーム」が意味を持ってくるんですね。その「少女」はいつまでも「少女」ではいられず、無知であるがゆえに大人の男を愛してしまうことだってあるのかもしれません。なんというか……娘さんを持っていらっしゃる方、子どもを抱えた親御さんはすごくこの恐怖と毎日闘ってらっしゃるんだろうなあと思うと、背筋に寒いものが走ります。

7月29日

・佐藤正午『小説家の四季』岩波書店

プロの専業作家さんのお仕事エッセイ。作家の毎日って、自分の心身とか気持ちに左右されることが多いです。わたしも日々執筆はしているけれど、まったく孤独ではないかといえばそうでもなくて、やっぱり気持ちに左右されない、というのが作家にとって重要なのかなと思います。佐藤正午さんは中堅の年齢なので、もっと読みたいなあというのはあるのですが、そんな彼の中でもいろいろ思うところがあるんだろうなあと思いました。

・鴨下千尋『月の客』ふらんす堂

愛らしい、と思いました。かわいらしいお母さん、というか。鴨下さんの旦那さんがお医者さんというのもあり、診察室の句がそこかしこに出てくるのですが、その中で自分の子どもとのことであったりが出てきて、そこのまなざしがあたたかいんです。日常をせわしない中でも楽しもうと思う心意気が感じられました。

7月30日

昨日はPodcastで作家たちと日本文学研究家の方との対談を何回かの講義的に聞いていました。たくさん考えさせられることがあり、合評に提出してくださった詩を印刷して眺めてみたり、改めて考えてみたりしました。

・藤野可織『私は幽霊を見ない』角川書店

作家さんにも色々なタイプがいまして、エッセイを書くのがうまくて、「私」などの一人称で綴るとどこまでも書ける作家さんと、そうでない作家さんに分類されると思います。例えば、藤野可織さんは芥川賞作家として初のこのエッセイはどちらかというと後者のような感じがしていて、エッセイ初挑戦な気もするんですね。「幽霊」という小説のモチーフにしたらとても面白そうな着目の仕方で日々を綴っています。作家が日常を書くことは0か100のかなり両極端になってきていると思うのですが、「幽霊」「心理現象」「怖い話」という点で語る日々や思い出は着眼点が素晴らしいと思いました。

・ネイサン・ファイラー 古草秀子訳『ぼくを忘れないで』東京創元社

兄のサイモンはダウン症で、幼い時に「ぼく」の小さな罪のもと幼いまま喪ってしまいます。ぼくはその罪の意識にさいなまれつつ、統合失調症の症状が出てしまう。以前心や脳の病気について調べていたことがあるのですが、統合失調症で悩む青年や少女は多いそうですね。人格が激しい妄想によって入れ替わってしまったり、幻聴が聞こえて来たり、そして彼ら彼女たちは常に「自分がこの世の中で一番の罪びと」という意識と闘っています。そんな「見えざる者」の声と闘いつつ、本当の罪とは何かというものを問われた作品でした。

7月31日

zoomでのオンライン合評会で司会。作品を提出して来てくださったみなさまありがとうございました。この会はできるだけクローズドで、口コミで広まった会ですので、わたしたちからメールさせていただいた方だけですぐに満員御礼となってしまいます。ありがたいことです。わたしのnoteの記事を読んでいらっしゃった方もいて、充実した時間を過ごせました。拙い司会でしたが、あたたかい目で見てくださったこと、本当に感謝です。

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