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人魚屋敷の脳先生 (第1話/全26話)
【あらすじ】
「脳先生」「人殺し」、などご近所で色々と噂の絶えない、絶賛スランプ中の中堅小説家、東雲光太郎。
両親と妻を亡くしている孤独を埋めるため、今日も空想と一人ごとに余念がない。かなりの変わり者だが、文壇や編集者の小柳君からは「未来の文豪」と評判はいい。
そんな彼を支えるのは同じく少し変わり者だがしっかり者の家政婦、青木タエだった。
タエには霊感があり、狐狸妖怪の類いが「視え」てしまう。
光太郎の彼の唯一の話し相手であり、恋人は「金魚鉢の中に住む人魚」である。しかし、タエにはその人魚が視えないという。
果たして人魚は彼の空想の産物なのか……?
昭和レトロ×幻想×ホラー
01
文机に向かって終日原稿を書いていた。
あの日から毎日書いている。書き続けている。
しかし一向に書き上がる気配がしない。
そろそろ休もうかと思った所に傍らの金魚鉢から彼女が話しかけて来た。
手のひらに収まるほどの、小さな小さな彼女。
上半身はひな人形のように整った面立ちの女人である。
しかしながら、下半身は鮎のような虹色の鱗に包まれている。
人魚である。
彼女が揺れるといつも花のような甘い香りがする。
──旦那さん。旦那さん。
「なんだい?」
──お水。こんなに濁ってしまっては、旦那さんのお話が読めないわ。
「そうかい。それじゃあ水をかえてあげよう」
彼女はかけがえのない僕の読者で、いつも一番に原稿を読んでくれる。
──ううん。いいの。それより其処のガラス玉を頂戴。
パシャリ。
人魚は僕がとって置いたラムネのビー玉を両手で恭しく受け取り、嬉しそうに微笑んだ。
指先が少し濡れた。
──こうして尾ひれに綺麗なおもりをつけて、言葉の海に飛び込みたかったの。
──花嫁衣裳よ。
彼女はそう云うと、刺繍糸で手際よく自身の尾ひれにガラス玉を結い上げ、勢いよく跳ね上がると僕の書きかけの原稿用紙の束へトプン。と身を投じた。
***
#創作大賞2024 #ホラー小説部門 #小説 #恋愛 #ホラー
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