人魚屋敷の脳先生 (第14話/全26話)
14
庭で落ち葉を掃き集めていると影がさした。
烏たちがじっと僕の仕事を見つめているのが気配でわかる。
やつらは光るモノが好きだから、僕が手伝いをして貰った駄賃で集めた大事な宝物、ビー玉、ピン止め、ジュースの王冠などをかすめ取ろうとして居るのに違いない。
本当に烏たちときたら気ままに空を飛び回り庭の柿の実なんかも勝手に食べて、ただ僕を見物していてずるい。
こんな寒い日は僕だって手伝いなんかしたくない。重い斧を振り上げてマキを作り血豆が潰れたり、冷たい川の水で洗濯をして手がひび割れたりするのも嫌だ。ずっと遊んでいたい。烏は飛べるし、体もでかいから、他の小鳥に馬鹿にされたり餌を取られることもなさそうだ。ため息と共に思った事が口に出た。
「鳥は自由でいいなぁ」
木がガサガサと鳴り、影が揺れた。
──聞き捨てならない。
奇妙な声が谺した。
ぎょっとして見上げると柿の木の上に天狗さまが胡座をかいて、僕を睨んでいた。 さっきまで烏だと思っていた気配は天狗さまだったのだろうか。それとも天狗さまが烏に化けていたのだろうか? 僕は不思議と恐れること無く天狗さまに訊いた。
「天狗さま。天狗さまは人間なの? 鳥なの? 神様なの?」
──……。
こたえない。
「ねぇ。天狗さま。僕を弟子にしておくれよ」
──なぜ弟子になろうととする? こんどはこたえてくれた。
「だって楽しそうだもの」
天狗さまは笑った。そして少し考えてから言った。
──弟子にしても良いが、途中で逃げ出されても適わない。何か相応の品と引き換えだ。
捧げ物……。僕には底に穴のあいたバケツしかなかったが、天狗さまが鳥や烏に近い、もしくは烏が化けた姿なのであれば、烏同様光り物が好きなのではなかろうか?
僕は急いで家の中へ戻り、洋行帰りのおじさんがくれたおもちゃの銀バケツを持って来た。貰った時はリボンがかけられて中に人形やおもちゃ、それにお菓子が入っていて本当に宝物のようだった。太鼓のように叩いたりして遊んでいたら底に穴があいてしまったけれども。
「天狗さま。どうぞ、これ──」
バケツを受け取った天狗さまの嘴が少し開いて、笑ったように見えた。
やはり天狗さまも光り物が好きなんだと僕は思った。
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