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関西女子のよちよち山登り 6摩耶山+おまけ

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兵庫県の山に初チャレンジ。これまでの山にはない景色、出合いに、登和子さんは驚きっぱなしです。 ※作中の状況は最新のものでない可能性があります。 実際に登山をする際は最新情報を入… もっと読む
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「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(終)

「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(終)

 しばらく食べ進め、ふと顔を上げた。南に面した窓の外には、神戸の街並みと海、遠くの山々が広がっている。

 山の頂上でありながら、空調の効いた室内でおいしいケーキとコーヒーに舌鼓を打ち、素晴らしい景色を眺めている。

 この状況は、至福としか言いようがない。

 胸に広がっていた暗いもやもやは気がつけばすっかり取れていた。

 登和子の頭に、終わりよければすべてよし、という言葉が浮かんだ。


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「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(6)

「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(6)

 階段を上りきった先は、数組のテーブルとイスのセットが置かれたテラスになっていた。

一番奥のテーブルで四人グループがバーベキューを楽しんでおり、お店の入口はその席のすぐ近くにある。

 店内に入ると、中は笑い声に満ちていた。見るからに山に行き慣れた五十代くらいの男女のグループが、ビールを飲みながら楽しそうに話している。

 登和子はびっくりした。

 
 山登りでビール!?

 しかし考えてみれ

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「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(5)

「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(5)

前の話 / 次の話

「あー、あせったあ……」

 保冷剤で冷やしつつ、立ち上がって調理を再開する。いまさらだが、このほうが断然作業がしやすい。分かっていたはずなのに、ついずぼらをしてしまった。

 そして恐らく、ずぼらをしたからこんなアクシデントが起きたのだろう。

 ガス缶とバーナー、そして深型クッカーを合わせると、高さは三〇cmほどになる。それらを載せているテーブルはイスより高いため、深型ク

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「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(4)

「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(4)

前の話 / 次の話

 ぐうう、とおなかが鳴る。

 一気に現実に引き戻された。

 おなかの減りを思い出した途端、我慢できないくらいの空腹感が押し寄せてくる。登和子は空いているベンチを探して広場の中央に戻っていった。 
 まだ十一時前だが、ベンチは七割方埋まっている。運良く木陰のテーブルとベンチを確保でき、登和子はザックからガス缶とバーナー、クッカーを取り出した。

 今日は簡単に、袋麺のアレン

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「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(3)

「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(3)

前の話 / 次の話

 展望スポットを後にして階段を下りると、別の登山道と合流した。先ほど見た街の方から伸びてきた道が目の前を横切っている。歩き出し、しかしすぐに立ち止まった。

 音がする。

 がささ、がささと、ゴミ袋に物を押し込んでいるような音が不規則に続く。

 登山道の左手にある斜面から聞こえてくるようだ。

 草が生い茂っているから、ボランティアの人が草刈りをしているのかもしれない。

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「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(2)

「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(2)

前の話 / 次の話

 今回の登山口の最寄り駅は阪急・王子公園駅。駅を出て坂を上り続け、高校の手前の道を左折してさらに坂を上り続けた先から、ようやく登山道が始まる。

 神戸は坂が多いと聞いたことがあるが、正直、体感するまで少し大げさではないかと思っていた。愚かだった。多いのは坂などという甘いものではなく、急角度の“急坂”だ。この辺りに住んでいる人は足腰が相当強いのではないだろうか。

 麦茶を一

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「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(1)

「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(1)

前の話 / 次の話

 登和子にはまだしていないことがある。

 それは、兵庫県の山に登ること。

 特に神戸市の北側に横たわる六甲山系には登りやすい山が目白押しで、いよいよ行ってみようかと考えている。

 数ある山々のうち、六甲山最高峰が一番有名だが、山のガイドブックによると頂上まで片道四時間かかるという。あまりの遠さに、すぐに候補から外した。まだそこまでの時間を耐え抜く体力と筋力、精神力が備わ

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