ネコアニ

ぼやぼやしているうちに歳をとってしまった永遠の少年の正念場 from 京都

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最近の記事

遠距離恋愛

遠距離恋愛をする奴の気が知れないという友人に曖昧な返事を返しながら、遠距離恋愛しかしたことのない僕はふと窓の外をに目をやる。  いつもそこにある海はたおやかで、港から出たばかりのフェリーと、その後の予定が何もないといった風情の見送りの人たちがノロノロと歩くのが見えた。  あの時僕を見送った彼女も当て所なく歩いたのだろうか、それともさっぱりとした気持ちで家路についたのだろうか。  友人の話題は、新人の女の子が垢抜けないとか、でも素直すぎるのはどうかと思うとかいう話に移っていたの

    • 2023.1.11

      昨日はハチ公前にミントされて即手に入れて以来自分のホームにしているキューブで弾き語りした。渋谷駅前の喧騒(と言ってもまだわずかなコラボレーターのAirPodsProの外部マイクから集めたアノニマスアンビエントクラウドではあるがw)の中で、通りかかった数人のリアルコラボレーター(大抵は新し物好きでノリが良く、親切な人たちだ)以外はほとんどはいつものオンラインコラボレーターと駄弁った後、昼過ぎから鹿児島のラッパーの子のキューブで過ごした。彼は天文館のマルヤガーデンズ前にキューブを

      • 関係ない夜

        夜の遊歩道を歩く速度は、雲がかかる月の明かりの強さに呼応して、早くなったり、遅くなったりしながら、2人の距離も近づいたり遠ざかったりして、お互いの体温と鼓動にシンクロした。 「関係ないけどさ」とあの人が切り出す時は大抵、関係はあることを私は知っているけど、本人はたぶん、そんな空気自体を振り払いたいだけなんだろうから、うん、とだけ言う。 たぶん彼はもうそれだけでよかったんだと思うし、実のところ、それだけで、よかった。 関係ないよ、ね。

        • むすびめの夜

          あの時もしわたしが何も感じることなく全てを受け入れたなら、あのひとは何をいったのだろうと今でもふと考える。 たなびく雲のようにそこはかとなくありふれた勇気などはもうその時点では何のたしにもならぬことは薄々気が付いて居たのだけれども、そうしてわたしは二つめの停留所をやり過ごしたのだ。 赤に染まる木陰の微風はまるで月の灯に照らされた河面のようにさざめき、とどのつまりは全ては最初から決まって居たことなのよと長いまつ毛を伏せたあの人のむすびめ。 解けることなくそのままにしておく

        遠距離恋愛

          そこはかとなくネガ

          10時ジャストの終電を逃すまいと全力疾走する僕の左側にぴったりと伴走する気配。 一瞥し、それがいつものネガであることを確かめた後、ファミリーマートのおでんを買ってしまったことを後悔しながら、最後のカーブを僕はドリフト気味に右ターンした。 案の定、大きくふられたお気に入りのエコバックからは、大量のおでんの汁がほとばしり、今日はやけに毛並みの揃ったネガの黒い前髪を濡らした。 「あ、ごめん。君がいること、気がつかなかった。」 ネガは、そんな僕の見えすいた嘘には飽き飽きした様

          そこはかとなくネガ

          穏やかな日差しに包まれた空間には小さな川が流れ、そのほとりには人の背丈より少し高い木々が並んでいる。木々の枝には感じのいい緑色の葉が茂りそよ風にさらさらと音を立てる。鳥たちが囀る声と川のせせらぎ、木々のさざめきが、一つの空気となって僕の頭を満たした時、気がついた匂い。 懐かしくて、優しくて甘いその香りは、まぎれもなく、桃。 ああ、そうか、あの人が言っていた場所はここなんだ。 安心した僕はそっと目を開いた。

          美味しい血

          僕の血はおいしくない。 だからみんな僕にはよってこないんだ。みんな、隣のあいつにはよってたかってちやほやするのに、ぼくときたらどんなに愛想良くオープンにしていても、時にはすべてをさらけだしたとしても、よってくる奴は皆無だ。正確には、皆無“だった”。昨日の夜までは。 昨日の夜は眠れなかった いまでもその鮮やかな感覚の記憶とともに僕の身体に残された疼きを伴う小さな印はこころもち恥ずかしげにまだその淡紅色の小高い丘を遺し、僕の意識の中で膨らみ実存の丘となったその頂にて僕

          美味しい血

          そこにあるせかい

          ねえ、ずっと気になってたこと聞いていい? カフェなのか食堂なのかはっきりしない、川沿いの小さなお店で、差し込む日差しが浮かび上がらせる空気の揺らぎみたいな調子で、彼女は話しだす。 わたしね、なぜかわからないんだけど、ときどき、とっても懐かしい気持ちになるの。それはたぶんなんだけど、みんなが言ってる、「懐かしい」っていうのとは全く違っているの。 そんなふうに言葉を漂わせながら、彼女はコーヒーカップの底を眺める。 わたしにとって、その感覚はとっても強烈で、真っ白な霧の中を

          そこにあるせかい

          さよならさん

          さよならさんにあったら、右の手を出すんだよ。左の手をだしてもいいけど、ちょっとばつが悪い感じになるかもしれない。 どうしてって、さよならさんは右手を振るからね。左手ではちょっと具合が悪いんだ。 あるとき、いつものようにさよならさんに出くわした僕は、右手に買ったばかりのチョコレートドリンクを持っていたから思わず左手を出したんだ。 そうしたら、彼はちょっと戸惑って、両手で僕の右手をそっと包み込んで、チョコレートドリンクを左手に持ち替えさせてくれたんだよ。 そのおかげで、僕

          さよならさん

          森ときのこ

          月が綺麗な夜にさんぽしながら、森のことを考える。 霧のフィルタがかかった緑に差し込む光の影のコントラスト、穏やかにたたずむ岩はうっすらと苔むしているのだけれども、近づいてみると、小さな苔は確かに植物で、そのひとつひとつにとっての地面にしっかりと根を張っている。 きのこは岩から少し離れた樹木の側にさりげなく生えていて、そのかわいらしい傘を少し畳んだり、広げたりしながら、とおりかかる生物が存在を意識したとたん、その記憶に滑り込む。 役目を終えたきのこは、もうそれまでのきのこ

          森ときのこ

          不思議な店

          今日行ったお店、病院の玄関前という一等地なのに、人気がなくて、寂れている。ただ鰻焼きたて、鍋焼きうどんというのが気になってて、のぞいてみたら本当におばちゃんが焼いているのが見えたので、入ってみた。昼時なのに客がいない。鰻を頼んでふと気がつくと、おばちゃんがいない。さっきまで焼いていた鰻もなくなっている。ただ、二回からはどんどんがらがらという大きな音に続いて、ぶーんという掃除機の音、なんで客が来ているのに掃除を始めるのか訳がわかんない。調理場にはさばきかけの鰻の骨が放置されてい

          不思議な店

          あいたいのたい

          我を忘れて買い求めた大きな赤い魚、普段は何かと文句をつけてばかりの夫がおいしいねと言ってくれたのは素直に嬉しかったのだけれども、もしかするとわたくしの眼差しに鬼気迫るものを感じ取った家族なりの調和を保つ行為だったのかしらなどと余計な心配をしながらまどろんだのも束の間、階下から聞こえる不思議な音。 夜中にそのような音がするのはどう考えても気味の悪いことなはずなのに、なぜかそれはとてもかわいらしく、あまりにも心地が良いので、思わず私はお布団の隙間からするりと抜け出して階段をおり

          あいたいのたい