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むすびめの夜

あの時もしわたしが何も感じることなく全てを受け入れたなら、あのひとは何をいったのだろうと今でもふと考える。

たなびく雲のようにそこはかとなくありふれた勇気などはもうその時点では何のたしにもならぬことは薄々気が付いて居たのだけれども、そうしてわたしは二つめの停留所をやり過ごしたのだ。

赤に染まる木陰の微風はまるで月の灯に照らされた河面のようにさざめき、とどのつまりは全ては最初から決まって居たことなのよと長いまつ毛を伏せたあの人のむすびめ。

解けることなくそのままにしておくのは忍びないとあっけなくはらりと解けそのまま風にのつてどこかへいつてしまつた。

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