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あいたいのたい

我を忘れて買い求めた大きな赤い魚、普段は何かと文句をつけてばかりの夫がおいしいねと言ってくれたのは素直に嬉しかったのだけれども、もしかするとわたくしの眼差しに鬼気迫るものを感じ取った家族なりの調和を保つ行為だったのかしらなどと余計な心配をしながらまどろんだのも束の間、階下から聞こえる不思議な音。

夜中にそのような音がするのはどう考えても気味の悪いことなはずなのに、なぜかそれはとてもかわいらしく、あまりにも心地が良いので、思わず私はお布団の隙間からするりと抜け出して階段をおりていったのです。

暗い台所をそろそろとあるいてゆくと、その音は水を貼っておいた洗い桶。朝の台所でピンと張り詰めた水面を見るのが好きでいつもそうやっているのだけれども、今日はその水面がゆらゆらとゆれた。

そっと覗き込んであらまあと声をあげたのは、キラキラと泳ぐ小さなおさかな、タイのタイ。2匹で仲良くじゃれあっている。いいものを見たわとちょっと嬉しくなってわたくしはまた眠りに落ちた。

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