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そこにあるせかい

ねえ、ずっと気になってたこと聞いていい?

カフェなのか食堂なのかはっきりしない、川沿いの小さなお店で、差し込む日差しが浮かび上がらせる空気の揺らぎみたいな調子で、彼女は話しだす。

わたしね、なぜかわからないんだけど、ときどき、とっても懐かしい気持ちになるの。それはたぶんなんだけど、みんなが言ってる、「懐かしい」っていうのとは全く違っているの。

そんなふうに言葉を漂わせながら、彼女はコーヒーカップの底を眺める。

わたしにとって、その感覚はとっても強烈で、真っ白な霧の中を、何かの匂いを頼りに歩いているようなものなの。

でもね。決して悪いことは起こらないってわかるの。そして、ああ、ここは安心だって。

こういう感じって、信じていいのかしら。

信じていいのかしら。っていう言葉の力強さと、真っ白な霧の中を歩く彼女の様子がうまくつながらなくて、僕は、自分のコーヒーカップの底を眺め、少し残った黒い液体を飲み干した。



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