マガジンのカバー画像

死人と銀河の哲学

13
オリジナルマスクに纏わるストーリーを届ける短編集
運営しているクリエイター

2021年8月の記事一覧

【ショート小説】あくびの稽古11号

【ショート小説】あくびの稽古11号

舞台袖より差し込んだ照明が肩口より斜めに師匠の身体を真っ二つに切り裂いておりました。
京都友禅のしっとりとした手拭いを袖にしまい
「それじゃあ、行ってくるからね。」
そう言うと、師匠は黙ったまま、自らを切り裂いている光をじっと覗き込み動かなくなりました。出囃子の太鼓がぽんぽんと小気味良いリズムを刻んで、そいつに乗っかって滑るように笛の音がピーピーヒャラヒャラと鳴り出します。言葉を訂正します。笛の音

もっとみる
【ショート小説】蝋燭一本立てた、また立てた10号

【ショート小説】蝋燭一本立てた、また立てた10号

裏の御堂で狐がコン。天道様の辻道で誰が姫子を隠したか。

生い茂った木々に隠されて、砂利の一粒一粒がひんやりと冷気を帯びておりました。玲子は両手で顔を隠して神社の境内に差し掛かる石段に座りこんだまま四つばかり数を数え終えておりました。鼻につく金木犀の香りが秋の空気の中で一段とその色を濃くして、根元に自生していた彼岸花が風に揺られては可愛らしくその首を振っている様に思えます。
五つ
砂利を蹴り飛ばす

もっとみる
【ショート小説】私の青い鳥9号

【ショート小説】私の青い鳥9号

「お話を聞かせて。」
ベッドに横たわる少女の頬は実った桃の果実のように、微かな産毛を夜に隠してその張りのある肌を眠りにつかせようとしている。
窓枠の中には、白と黒の混じって水分を含んだような雪が、嘘のように外の世界を広げているのが見えます。その欠片は、ぱちぱちと窓を叩くように張り付いては消えてナメクジの這った軌跡のように少しの間張り付いていました。
少女の首まで布団をかけると、老婆はゆっくりと袂

もっとみる