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AIラブストーリー

 あの日あの時君に会わなかったらなんて昔の歌謡曲を口ずさみながら本庄学は帰宅中にスマホでチャットしていた。当然歩きスマホである。彼は駅の壁に貼られている歩きスマホ禁止の張り紙を完全に無視して、それどころかぶつかった通行人に謝りもせずにただひたすら相手の女性に高速でコメントを送っていた。

 相手の女性もそんな彼の想いに応えようとしているのか一秒もしないうちにコメントを返してくる。今仕事が終わったよ。やっと君と話せる。学のことずっと待ってたよ。そんな感じで学は女性とこの出会い系サイトで知り合ってから毎日彼女とチャットしている。

 学は今までいろんな出会い系サイトに裏切られ続けていた日々を思い出し、これでダメだったら一生女性と付き合わないと決めて入ったこのサイトでやっとまともな女性に出会えた事を喜んだ。今まで騙され続けたのはこの人に出会うためなんだ。学はそう思い女性の写真に向かって微笑んだ。

 さてその同時刻である。渋谷の某ビルの中のオフィスで出会い系サイトの運営会社の社長と開発部の社員が今の本庄学と相手の女性の愛、つまりAIとの会話を見ながら話していた。

「どうですか。試験的にAIぶち込んでみましたけど結構上手くいってると思うんですよ」

「だけど秒速でコメント出しちゃまずいだろ。勘付かれるぞ」

「大丈夫でしょ?コイツバカだからそんなに急いで返事しなくて良いのにとか書いてるんですよ。そこはまぁ後で調整しますよ。でもこの客は完全に騙せてるわけですよ。コイツはあと20回コメントしたら課金ですけど余裕で持っていくでしょ。とにかくAI全面的に展開しましょうよ。そしたらゲロみたいな匂いするアイツらみたいなデブ親父をサクラで雇わなくて良いんだから」

「だけどコイツ本気でAIに惚れてるんだな。しかも本名で登録してやんの。そんなことしたら寺で焼かれるかもしれないのに」

「なんでコイツが本名で登録してるからって寺で焼かれるんですか?」

「お前織田信長がどこで焼かれたのか知らんのか?本名寺、あっ本能寺だったあぁ〜!」

「社長……くだらない親父ギャグやめてくれます?」

 彼らの前のPCの中の本庄学と愛の会話はいつの間にかとんでもないことになっていた。

「僕はもう耐えられない!君に逢いたい!今すぐ君を抱きたい!」

「私も逢いたい!そしてあなたのものを全て受け入れたい!」

「どこに行けば君に会えるんだ!どこでも僕は行くよ!」

「渋谷区神泉3ー999にある〇〇〇〇ビルの10Fよ!会社名は株式会社デュエル、出会い系サイト愛ラブストーリーの運営会社よ!」

「なんだって……なんだって」

 社長と開発部の社員も同じようになんだってであった。社長はどうなってるんだ。早くこのAI止めろ!と開発部の社員を怒鳴りつけ、開発部の社員は発狂しなんでこのAI家の会社名知ってるんだよ!そんな情報このPCに入れてないのにと叫びながらPCを止めようとする。そこに何やってるんですかぁ〜とバイトのギャルがやってくるなりこう言った。

「あっ、あのぉ〜私のPC使えなくなったからぁそこのPC借りて社外メール送ったんですけどぉダメだったぁ〜」

 社長と開発部の社員は青ざめた。これで会社は終わりだ。AIで一儲けするどころか完全に終了してしまった。やっぱりAIなんかに頼らず汚いオヤジのサクラでやっていればよかったんだと絶望にくれた。しかしその時だった。受付の女性社員が慌ててやってきて本庄学という人が愛ちゃんという人を呼んでいると言ってきたのだ。彼らは何処かからか響いてくる絶叫に思わず耳を塞いだ。

「愛ちゃんいるんだろ?僕だよ学だよ!ねえどこにいるの?もしかしたらここにいる連中に捕まってるの?秒速で住所まで書くんだからよっぽど切迫した事情があるに違いない!おいお前ら警察に通報されたくなかったら大人しく愛ちゃんを出せ!」

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