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幻滅

 もう耐えられないと里見は言った。僕は何があったのか彼女に聞いた。里見は学生時代からの付き合いで半年前に友人の健志と結婚したばかりだ。なのに里見はこれ以上健志と暮らすのは耐えられないと僕に訴えた。アイツがあんな乱暴な人間だと思わなかった。あんなに暴力的で酷いやつだとは思わなかった。里見は涙を流して言った。僕は健志の隠された一面に驚いたが、やっぱり人間は一面だけでは判断できないものだなとも考えた。しかしあんないいやつの健志が暴力的だったなんて……。僕は里見に詳しく話を聞かせてくれと言った。

 彼女の話によると健志が暴力になったのは結婚してから三日後だそうだ。彼は自分のチームが負けたことが悔しくてテレビに向かって大声で喚き、そしてコンセントを引っこ抜いてそのまま風呂に向かったそうだ。

「あのね、健志のやつテレビゲームなんかにマジになってやたら自分のチームが負けたらすぐにゲームをリセットするの。そしてチームのやつが能無しだから俺が負けた。なんでアイツラのせいで俺の負けが加算されるんだよ!ありえねえだろ!って言うの。呆れるでしょ?たかがゲームごときにそんなにマジになって!だからもう離婚しようと思うの」

 僕は里見の言葉を聞いて悲しくなった。なぜなら僕はゲームで健志とチームを組んでいるからだ。僕はゲーム好きのくせに異様に下手だ。健志のやつはそんな僕に対してどんまいとか言ってくれたのに。

「特に仲間のハンプルってのが下手すぎて殺してやりたいとか言ってた。私一度健志にハンプルって人のプレイ見たけど、下手すぎてそりゃ怒るよってぐらい酷かった。だから私健志に言ったの。そのハンプルって人除名したら?ってそしたらアイツは親友だから切れないとか言って……。ああ!そのハンプルって人に言いたいよ。アンタのせいでうちの旦那がおかしくなってるんだからさっさとどっか消えてよって!」

 里見の話を聞いていたら涙が出てきた。そしてもう耐えられなくて大声で泣いた。里見はその僕にダメ押しのようにこういった。

「ねえ、どうしたの?なんであなたが泣いているの?別にあなたになにか言ったわけじゃないのに」

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