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愛書狂とインフルエンサー 〜神保町古本まつり(ブックフェスティバル)で出会った人々

 三連休初日の今日は神保町の古本まつり(神保町ブックフェスティバル)に行ってきました。この古本まつりはいつもは暗い店内に引きこもっている古本たちが一年に一度の晴れ舞台とその日焼けし切ったフルボディを晒しまくる超豪華な祭りなんです。古本たちはあなた綺麗じゃないとか、互いに心にもないことを言いながら、我こそが神保町美人本、ブックオフの100均ブス本とは違うわと軒先や向かいの道路脇で昔の吉原の女郎みたいに通行人にあたいを買ってとアピールするんです。

 この古本まつりにはそんな神保町美人本を求めて毎年全国から古本好きが押し寄せているわけです。こういう人たちは近くの秋葉原にあるブックオフには目もくれずまっすぐ神保町へと向かうわけです。こういう人たちはたとえ同じ本がアキバのブックオフで安く売っていたとしても買いません。それどころかブックオフで買うという行為自体を恥じるでしょう。ブックオフみたいな安い100均ブス本なんか買ったら淋しい病気になる。なんてことすら言う人すらいます。確かに神保町美人本にはブックオフ100均ブス本にはない魅力があります。でもその魅力をわかるのはやっぱり愛書狂と呼ばれるハードコアな本好き、あるいはインフルエンサーのような目立ちたがり屋の承認要求のモンスターだけなのです。私は今日この神保町古本まつりに行ってそのとんでもない人たちにたくさん出会しました。今回はその中でも最恐にとんでもない人たちの事を書きます。

 最初に書くのは度が過ぎるほどの愛書狂の人の事です。私は神保町についてから古書店街の道端の露店の店々に並べられた本を見ながら歩いていたのですが、古本に気を取られていたせいで向かってくる人に気づかず、正面からぶつかってしまったのです。私はぶつかった瞬間目の前に乳母車があるのに気づいて赤ちゃんが怪我したかもしれないと本気で心配して何度も謝りました。相手の男性は当然気をつけろうちの子供にもしものことがあったらどうするんだと私の不注意を激しく責めました。だけどです。相手の方がこの子たちに謝れと乳母車のカバーを開けて乳母車の中にいる子供をみせたのですか、その子供が人間じゃなくて古本だったのです。相手の男性は乳母車に乗せた古本に向かって赤ちゃん言葉でだいじょうぶでちゅかとか声をかけたり、どうやら大声で泣いてるらしい古本にガラガラを振ったり、撫でたりしていました。私はその光景を見て気持ち悪くなってしまい、申し訳ないと思いながら全速力で逃げてしまいました。

 次に書くのは女性のインフルエンサーのことです。大してSNSに詳しくない私がどうしてすぐに彼女をインフルエンサーだと気づいたかというと、彼女自身が何度もそうアピールしていたからです。この全身を真っ黒な服でコーディネートした文化系におしゃれな彼女は周りの迷惑も顧みずに数ある古本の中でもおしゃれな飛び切りの神保町美人本を片手に動画を撮りまくっていたのです。私は彼女が邪魔をして先に進めないので、強引に彼女の脇を通ろうとしたら、彼女が向っ腹を立てて私を怒鳴りつけてきたのです。彼女はポーズ決めまくりのドヤ顔で私にこう言いました。「あなた何いきなり入って来てんのよ。私がフォロワー数十万人のインフルエンサーだと知ってこんな無礼働くの?もしかして私のあまりの人気っぷりに嫉妬して邪魔をしに来たの?あ〜あ、もうどうしてくれんのよ。動画一から撮り直しじゃない!」とか喚き出しました。私はあなたがどんだけ人の迷惑になっているのかわかっているのかと腹が立ちましたが、あんまりの剣幕に臆してしまって何も言えませんでした。それは周りの人も同じだったみたいで誰もこのインフルエンサーに文句が言えません。インフルエンサーは皆んなが文句を言ってこないから調子に乗ってとうとうあなたたち邪魔だから私の周りから離れてと仕切り始めました。古書街はもうインフルエンサーのオンステージになってしまいました。目利きのいい彼女は古書街の片っ端から飛び切り神保町美人本を取り出してスマホの前で美人本を持って次から次へとポーズを決めていました。周りで見ていた人は彼女のポージングに凄いと感嘆の声をあげていましたが、私も知らず知らずのうちに声をあげていました。きっといずれインスタかTikTokで上げられるであろう動画は見栄えの良さの極みのような素晴らしいものになるでしょう。インフルエンサーはそうして延々とスマホで美人本を持った自分の素敵すぎるポージングを撮っていたのですが、やがて満足したのか彼女はポージングをやめて手に持っていた何冊かの美人本をお店の人に突き出して買わないことを悪びれもせずに堂々とこう言いました。「もう撮影済んだからこの本返すわ」それに対してお店の人はすごく困った顔でこう答えました。「あの……うちのじゃない本も混じっているのですが……申し訳ないけどご自分で返してもらえませんか?」だけどインフルエンサーは聞く耳など持たぬといった調子でこう答えました。「あなたが返して来なさいよ。私古書街のことは全く知らないんだから」

 三人目は一人目と同じ愛書狂ですが、さらに度を越した愛書狂でした。私はとある小さな露店でいい文庫本を見つけたので気になって本を引き抜こうとしたのです。だけど引き抜けませんでした。何これ掴んでも引き抜けないじゃない。私は本棚の横に死亡するほど脂肪で覆われた顔だけ見せてニヤついている店員に本が取れないと言いましたが、店員はそれを聞いてにっこり笑ってこう言いました。「無理に決まっているブヒ。だってそれ本じゃなくて僕の脂肪だから」私はこの言葉に唖然として冷静になってこの露店を見ました。ああ!このデブはリヤカーの上で全身に本棚のペイントをして古本屋に紛れて全裸で横たわっていたのです。しかも大事なところにあのインフルエンサーだったら思わず手にしたくなる最高の美人本のペイントをしているではないですか。私は発狂してその場で古本ペイント男をボコボコにしてやりました。

 私は神保町古本まつりでたくさんの神保町美人本に囲まれて幸せな気持ちになりました。一日中神保町美人本に囲まれていると現実と神保町古書街の区別がつかなくなり知らず知らずのうちに愛書狂やインフルエンサーの世界に引きずられていくような感覚を覚えました。活字中毒という言葉がありますが、活字中毒を極めると上にあげた愛書狂の方々のようになってしまうのでしょうか。あるいはその活字中毒の世界に引き寄せられた蛾のようなインフルエンサーのようにこれもおしゃれ、あれもおしゃれと自己アピールのために外側から神保町古書街を写しとるのでしょうか。私は現実と神保町古書店の間で立ち止まり来し方行く末を考えました。ああ!どこにも身を置けぬ私が身のもどかしさよ。私のような凡庸な人間は結局現実の世界に立ち止まるしかないのか!

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