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アイドルに涙を流させる最も効率的な方法

 アイドルにはどうしても涙を流さなくてはいけない場面がある。しかし人はいざ泣けと言われて泣けるものではない。ベテラン俳優だって泣けない事だってある。ましてや十代か二十そこそこの女の子たちなら尚更だ。

 某アイドルグループのマネージャーは来るべき音源大賞の授賞式を控えて頭を抱えていた。自分たちのグループが受賞することはすでに内密に連絡をもらっていたが、しかしそれでも突然の受賞にビックリしました的なそぶりは見せなくてはならない。さらに受賞式を盛り上げるためにはメンバーに泣いてもらわなくてはいけない。そうしなければマスコミに裏取引あったんじゃないの?とか書かれかねないし、晴れの授賞式で平然な顔でトロフィーなんか貰われたら、あの子たち受賞したのに嬉しくないのかな?なんてテレビ局の関係者に思われ、さらにファンからも、僕ちんたちが一人1000枚CD買ったお陰で受賞出来たのに嬉しくないの?とか疑われて、というか見抜かれて人気ガタ落ちになるかもしれないのだ。

 マネージャーは何とかしなければと思い、授賞式の前にアイドルたちを集めて音源大賞がどれほど偉大な賞であるかを切々と語った。あの人気スターだって受賞した時は感激して泣いていたんだぞ!お前らはそんなすごい賞をもらったんだ!とかとにかく言葉を並べて彼女たちの感情を昂らせようとしたのだ。しかし果てしなき現代っ子であるアイドルたちはマネージャーの言葉に感動するどころか嘲笑い「バッカじゃねえの。オッさん一人で泣いてろよ」とマネージャーに向かってとんでもないセリフを吐き捨てる始末だった。マネージャーはもう彼女たちを泣かせるのは無理だと諦めてせめて嬉しがってみんなに感謝の気持ちくらい言えとと言って彼女たちを見送ろうとした。

 しかしその時突然ドアが開いて音源大賞のプロデューサーが手提げ袋を持って入って来たのだ。これには流石のアイドルも姿勢を直した。このプロデューサーは入社してからすぐその才能を発揮して実績を作り若くしてプロデューサーになった男だ。アイドルたちもプロデューサーの事は知っているので急にありがとうございま〜す!とか媚び出した。ああ!このバカアイドルたちはまだ独身のこのプロデューサーをフライングゲットするつもりなのだ。

 プロデューサーはアイドルたちの方に近づくと手提げ袋からハンカチを取り出して一人一人渡し始めた。アイドルたは馬鹿面してありがとうございま〜す!とか言って次々に受け取っていった。プロデューサーはアイドルたちにハンカチを渡しながら「今日の収録はライトガンガン照らすからかなり熱くなるよ。このハンカチ遠慮なく使って」と声をかけた。

 さて収録である。プロデューサーが言った通り会場内は非常に暑かった。会場に芸能人は勿論、レコード会社やスポンサーの連中も読んでいるせいか湿度で温度は上昇し、さらに受賞式の行われるステージはプロデューサーが言っていた通りライトの熱でさらに暑くなった。表彰式で音源大賞の審査員が賞状を読み上げる中アイドルたちはたまらずハンカチを取り出して顔を拭いた。するとハンカチから強烈な玉ねぎ臭が漂ってきたのだ。アイドルたちはあまりの玉ねぎ臭に耐えられず次々と涙を流した。会場はアイドルグループが一斉に泣き出したので何が起こったのかビックリした。アイドルたちはコメントを求められても言葉にならなかった。

「なんか勝手に涙が溢れてくるんです!もうなんかわけわかんなくて!とにかく音源大賞をもらった事は嬉しいんですけど、何でこんなに涙が出てくるのかわからなくて!もう自分がわからないです!」


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