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街物語

  その街に行ったことは覚えている。僕はそこに住む彼女に会いに行ったからだ。僕はあの時小学校の時に彼女と交わした約束を果たしに行ったのだ。彼女は小学校の僕にこう言った。

「大人になったら私と結婚しようね」

 僕は大人になってもその約束が忘れられなかった。中学になって高校になってだんだん彼女と疎遠になっても彼女を諦めきれなかった。君住む街に会いに行くよ。そんな昔のJPOPそのままに僕はプロポーズするために彼女の住む街へと向かったのだ。

 街は坂が多く非常に入り組んでいて僕は彼女の家を見つけるのにひどく苦労した。家を探すために一生分の時間を使い果たしたような気がした。だがそんな苦労はいつか報われる。とうとう僕は彼女の住む家を見つけたのだ。家は深い森に囲まれ、なんだか昔話を思わせるような古めかしさだった。二十歳の僕、迷える青春そのままにようやくたどり着いたよ。僕は門の中に入り戸を叩く。ああ!小学校の時こうして君を呼んだよね。ああ!早くあの時のように出てきておくれ!しばらくすると中から応答があり、見知らぬ女性が出てきた。僕は自分でもぎこちないほどかしこまった態度で「幸子さんはご在宅か」と尋ねた。はあ、と言って「どちらさんですか?おばあちゃんは今家にいますが……」

 おばあちゃん?何を言っているのだ。この女は!僕は幸子さんに会いにわざわざここまで苦労してきたんだぞ!さあ早く彼女を出さないか!僕は頭にきて僕は昔の知り合いの康介というものだ。早く幸子さんを出せ!と怒鳴りつけた。女は僕の剣幕にビビったのか、じゃあ本人に聞いて見ます。とか言って家に入って中の人間に尋ね出した。

「ねえ、おばあちゃん!康介さんって知らない?なんか痩せたおじいさんが家に尋ねて来ておばあちゃんを出せって言ってるんだけど」

「康介?誰それ。おばあちゃんそんな人知らないわよ!帰ってもらって!」

 

 


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