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うどんで綺麗になる

 彼女たちを見た瞬間、確かに透き通るような肌の人っているんだと思いました。私は同性なのにすっかり彼女たちに見惚れてしまってしばらくその場に立ち尽くしてしまいました。私は彼女たちをモデルかインフルエンサーだと見て、その透き通る肌もきっと高級エステやコスメなんかで維持しているに違いないと考えて自分のあまりにも脂ぎった自堕落な体を見て思いっきりため息をつきました。彼女たちを見ていると私みたいな美容意識のまるでない自分が居た堪れなくなってその場を去ろうとしました。だけどその時彼女たちが私を呼び止めたんです。彼女たちはとびきりのスマイルを見せながら私に向かって「何かご用?」なんて聞いてきました。私はすっかり恐縮しちゃってガン見していた事を謝りました。

「ごめんなさい!ごめんなさい!私みたいな不細工な一般人があなたたち一流モデルをガン見しちゃって!」

 私がこう謝ると彼女たちは苦笑いして言いました。

「いえ、私たちモデルじゃないわ。街を歩くとみんなによくそう言われるんだけど」

 モデルじゃない?私は彼女たちの言葉に納得出来ませんでした。嘘でしょ?モデルじゃなかったらどうしてそんなに綺麗なの?大体その透き通るような肌は一般のエステやコスメなんかじゃできないはずよ。私はなんだか自分が揶揄われているような気になり、いつもの内気な私からは想像もできないくらいの喧嘩腰で彼女たちに食ってかかりました。

「あなたたち私を揶揄っているんですか?おっしゃるようにあなたたちはモデルじゃないかもしれませんが、どうせ有名人かなんかなんでしょ?モデルじゃなくてもインスタとかticktackなんかのインフレエンサーだったりするんでしょ?大体あなたたちはその肌にいくら使っているんですか?そんな透き通るような肌、私みたいな一般人がどんなにエステ通ってもコスメ使っても手に入れられるものじゃないでしょ?」

 喋っているうちに涙が出てきました。あなたたちモデル級の美人には私みたいな貧乏人のブスの気持ちはわからないわよ!エステに行きたくてもコスメをしたくても肝心のお金がない。お昼はいつもはなまるうどんのかけうどん惨めったらしいったらありゃしない。畜生神様はどうして人をこんなにも不平等に作ったの?

 私がこう半泣きしながら喋り終わると彼女たちは黙って憐れむような目でこちらをみました。ああ!そんな目で見ないで!素直に自分の美貌をひけらかして私をバカにでもしてればいいんだわ!それから彼女たち一斉にため息混じりの吐息を吐いて互いに顔を見合わせました。そして彼女たちの中でも一番透き通った肌を持った美人が代表して私に話しかけてきたのです。

「あのね、あなた誤解しているようだけど、私たちモデルでもインフルエンサーでもない普通の人なの。この透き通るような肌だって特にエステやコスメで磨き上げたものじゃないわ。持っとお手軽で簡単な方法で磨きあげたのよ。今からうどん屋に行かない?」

 何故にうどん屋?うどんが透き通る肌となんの関係があるのでしょうか。私は半信半疑というより完全に揶揄われていると思いましたけど、一方で彼女たちにもの凄い興味を惹かれて思わずうどん屋までついてきてしまいました。そしてうどん屋に入るなり彼女たちは私にかけうどんを注文するように言いました。

「今から簡単にこの透き通る肌を手に入れられる方法教えるわ。あなたは自分がブスの貧乏人だと思い込んで綺麗になるチャンスを何度も逃していると思うの。だけど人はエステやコスメで綺麗になるんじゃないわ。日常から全身を綺麗にすることから始めないと。私たち実はその日常から綺麗になる方法学んでいるの。さぁ、まずはかけうどん注文して」

 私は彼女たちの話に感服してもう全て信じる事にしました。

「かけうどんをもらったらそのまま薬味コーナーに行って。そこにある天かすをうどんに山盛りに振りかけるの。見てくれは悪いけど、中身はあらゆるダイアモンドより遥かにゴージャスだわ。次に生姜を大さじ二杯入れて。生姜はキャビアよりはるかにスパイシーに口の中を刺激するわ。最後に醤油よ。醤油はまるでギリシャの昔に作られたワインのように舌を濃厚にとろめかせてしまうわ。どうこれが私たちの肌を磨く天かす生姜醤油全部入りうどんよ。さぁ食べて」

 私はどんぶりを見て吐き気を覚えました。いくらなんでもこんな生ゴミみたいなうどんなんか食べられるわけがないでしょう。だけど好き通る肌を持った彼女たちは喜んで天かす生姜醤油全部入りうどんを啜っているではありませんか。私は彼女たちを信じて震える箸先でうどんをつまんで一口食べてみました。

 ああ!なんてことでしょうか。うどんはまるでシルクのように私の舌を包むではありませんか。それはもうダイヤモンド入りの高級シルクのようでありました。生姜はカリブ海の青い海から撮れたキャビアのように私の舌を刺激します。そしてこのギリシャのヴィーナスが飲んだワインのような濃厚な醤油はなんなのでしょうか。なんだか一口食べるごとに綺麗になっていくようなきがしました。私は食べながらいつの間にか泣いていました。

 彼女たちはそんな私を微笑んで見守っていました。そして食べ終わった後で彼女たちを代表してさっきの美人さんが言いました。

「これが私たちが透き通る肌を持つ秘密よ。この天かす生姜醤油全部入りうどんを食べ続けるとあなたは見違えるほど綺麗になるわ。綺麗になるのにエステもコスメにどんなにお金をかけてはダメなの。やっぱり心のピュアさが必要なのよ。このうどんのプリッとした麺のように」

 これが私と天かす生姜醤油全部入りうどんの出会いなのです。彼女たちとは結局あの後別れたっきり一度も会うことはありません。だけど私にとってこの出会いは人生を完全に変えてしまうものでした。貧乏食だとバカにしていたかけうどんにこんな美容パワーがあるなんて。私はそれからこうして天かす生姜醤油全部入りうどんの宣伝をするようになり、今では天かす生姜醤油全部入りうどん教の布教に世界中を駆け回るようになりましたが、あの透き通る肌を持った彼女たちは私をどう見ているでしょうか。ちなみに私の肌は今では透き通るどころか輝くようになってしまい、電気ウナギだと言われるようになりました。

 というわけで今回の天かす生姜醤油全部入りうどんの記事はここでおしまいです。皆さんまた会う日まで。ちゃお!


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