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全員マスク! 第12話:キャロラインの秘密

第11話 連載小説『全員マスク!』 第13話

 生揚げのフライをゲットするような気まずさを通り越して得た勝利。キャロラインとジョニーの見事なチームプレイ。他の連中はただのチェスの駒。キャロラインとジョニーによって動かされる白い駒だ。

 ああ!ジョニーは愛するキャロラインの命令通りアイドルグループに所属する元カノのバカアイドルにMASKrespectのマスクを宣伝する。コイツがうちの新しいプロジェクトなんだ。元カノベイビー、お前の知り合いにもマスクプレゼントしてやってくれ、なんて言いながら。効果は覿面。早速グループの人気のセンターもジョニーに会いたいと言っているとレスポンスが返ってきた。会社の名前の効力はやっぱり絶大。うちの会社のニュープロジェクト。MASKrespectのマスクをつけて微笑むジョニー。そのマスク何?なんてバカアイドルと人気のセンター。目の色を変えて飛びついてきた。このまま二人を持ち帰って3Pしたいと願うジョニー。だけどこれはあくまで全員マスク!プロジェクトを推し進めるためにする事。ヤリたい思いの罪と罰の間でドストエフスキーの的苦悶にどうにか耐えたジョニー。言われた通りアイドルにマスクを渡した事をキャロラインに報告する。

 キャロラインも負けてはいない。外資系の日本支社の幹部揃えての大演説。外国ではどうか知らないが、日本はこれからの未来を守る為に全員マスク!を推し進めると見事なイングリッシュで捲し立てる。外人たちはこの赤いスーツにMASKrespectのマスクをつけたアジア女に一瞬で参ってしまう。もう降参だよベイビー、オリエンタリズム、フェミニズム、セルフィズム、#MeToo、ダイバーシティ、ラスト・タイクーン、夢と希望の国アメリカ。

 Facebook、Instagram、Twitter、買収するのはジョニーのリスペクトするTeslaのイーロン・マスク。ああ!そこら中MASKrespectだらけになってしまった。MASKrespectをつけたタレントやセレブたち。それは何と質問のコメントを寄せる一般人。そしてどこからか現れた『全員マスク!』という記号。Twitterのトレンドに現れたこの記号にネット界隈は一斉に飛びついた。


 頓挫しかけた『全員マスク!』を見事に復活させたキャロラインとジョニーはホテルのキャロラインの部屋で勝利の美酒に酔う。ああ!『全員マスク!』派閥は一ノ瀬エリカ率いる『もういいよマスク』を完全に封じ込めてしまった。この見事なフライングゲット。あとは『全員マスク!』の国民への正式発表を待つだけだ。

「これでようやく『全員マスク!』が動き出すわ。ちょっと禁じ手かもしれないけどしょうがないわよね。こうでもしなきゃあのハプスブルクエリカやそのバックにいる経産省の連中を黙らせられないもの。ジョニーありがとう。やっぱりあなたをプロジェクトメンバーに入れてよかったわ」

 甘い気持ち。ラジオから流れるスティーリー・ダンの彩(エイジャ)。今のジョニーはこんな懐メロでもしびれてしまう。ベイビー、今夜は俺の小麦色に焼けた胸でおやすみ。唇晒しの果てしなきメイクラブを楽しんでから。ジョニーは唇隠しのマスクをつけてワインを飲むキャロラインが焦ったくなる。

「キャロライン、そろそろいいだろ?そんなマスクとっちまえよ。今夜は唇晒しのお前が見たいんだ」

 ジョニーの毎度の口説き文句に呆れ果てるキャロライン。だけど今夜は素直になれそう。キャロラインはジョニーに言う。

「あのね、ジョニー。私あなたに話したい秘密があるの」

 秘密?WHAT's。なんだそりゃ、いつものお前とは打って変わったこの態度。女になれた俺でも動揺しちゃうその態度?どういう気まぐれだいキャロライン。ディーゴン・ブルース。今夜コインを投げて俺たちの運命を占うのかい?だけどベイビー秘密はベッドの上で晒してくれよ。今すぐ!

「ちょっと待ってジョニー!あなた何か勘違いしてない?私はただあなたが一番知りたがっている秘密を話したいだけよ。そう私がなぜずっとマスクをつけているかよ」

 ベイビー、もったいぶるんじゃねえ!そんなものマスクごと晒せばいいんだよ!この俺のシェイプ・イン・マイ・ハートわかるだろ?だけどキャロラインはジョニーの戯言なんか無視して勝手に話し始めてしまう>

「あの蒲田エリカ、今は何故か一ノ瀬って名乗ってるあのハプスブルク女の言う通り私は小学校の頃超デブだったの。もう教室からはみ出すぐらいのデブでみんな私に埋まりながら授業を受けていたわ。だけどみんな何故か私に悪口の一つも言わなかった。なぜだかわかる?それは私のパパが学校の理事長だったからよ。だけどそんな事を知らないあの田舎者のエリカだけは私をデブだってからかっていたの。勿論私はパパに言いつけたわ。あの身の程知らずのアゴ女を今すぐ学校から叩き出してって!だけどパパは逆に私を叱ったの。『その子は百姓の子だろ?多分親は娘のためにあわやひえだけで我慢して学費を貯めているんだよ。そんな可愛そうな子を退学にするなんてパパにはできないよ。お前もその哀れな子と仲良くして上げなさい』ああ!パパはなんていい人なの!あんなクズ、人間粗大ゴミみたいな女に温情をかけるなんて!私はパパに言われた通りあのあのハプスブルク女に優しくしようとしたわ。あの女がお腹をすかしていると思って毎日自分で丹精込めて作った崩れかけのおにぎりあげようとしたし、お金がないだろうと思って100円玉一枚と1円8枚あげたのよ。なのにあのアゴ女は私に、このお嬢様の私に、こんな物いるかって言って私が丹精込めて作ったおにぎりと百円玉と一円玉を投げつけてきたのよ!全くとんでもない女!人の善意をここまでコケにするなんて!」

「ベイビー、そりゃ怒って当たり前だぜ……」

「うるさいわね!人の話に入って来るんじゃないわよ!とにかくそれから私に対するエリカのいぢめは激しくなった。あのアゴ女はみんなの見ている前で渡しをデブだって罵り続けて私に一生消えないトラウマをあたえたの!私は中学に入ってから肥満を乗越えようとあらゆる方法を試してみたわ。そしてそれは奇跡的なぐらい成功したの!私が歩けば皆が一斉に振り返るようになった。だけど、だけど!みんな私が振り向くとみんな!ああ!それ以上言えないわ!とにかく私はそれからずっとマスクをつけてきた。日本でもアメリカでも私はマスクをコロナなんか関係なしにマスクをつけ続けてきた!いやつけざるを得なかったのよ!」

 キャロラインはそこまで言うとハンカチで顔を覆って泣き出してしまった。ジョニーはキャロラインが泣いているのを見るのが辛かった。彼はキャロラインをマスクの呪縛から解き放ってあげたくなった。ベイビー、お前が化け物でも逃げたりしないぜ。だからもうマスクなんか外せよ。ジョニーはキャロラインを抱きしめようと彼女に近づいた。だがその時である。突然部屋に着信を知らせるメロディーが鳴り響き、我に返ったキャロラインが電話に出たのである。キャロラインは電話に出るなり顔面蒼白になる。まさかそんなことがと彼女は電話口に向かってつぶやく。何があったんだベイビー、教えてくれとジョニーはキャロラインを問いただす。ああ!混沌こそ我が墓標、エビタフ、キング・クリムゾン、ロバート・フリップ、テレビでは今夜もタレントがフリップにクイズの答えを書いている。奈落のクイズマスター、答えのない質問、沈黙こそ金なり、ああ!ノストラダムスの大予言は遅れてやって来た!

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